表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

57/87

56話:地獄の中で


 エリンジャ地方――キーリヤ砂火山内部


 そこは端的に言えば地獄だった。


「マグマが噴出した!! 退避しろ!!」

「ガス溜まりだ! 誰か救助を!」

「23番通路で水蒸気爆発が起きたぞ!」


 採掘していた子供や老人達がパニックになるなか、数少ないアルマンディ商会側の人間である監督官達が冷徹な声を出した。


「持ち場を離れるな! 宝の山はすぐそこにある! 掘り続けろ! でないと貴様らは一生ここから出られないぞ!」

「そんな話聞いてないぞ!」

「黙れ! 貴様らを採掘禁止時期に採掘に来た違法採掘士として牢屋にぶち込んで良いんだぞ!!」

「横暴だ! ここに連れてきたのはお前らだろうが!!」

「そういう契約だ! ちゃんと契約書読まなかった貴様らが悪い! さあ死にたくなければ掘れ!」


 ムチが打たれる音が坑道に響く。


「おーおー、時代錯誤な事やってやがるな」


 細い坑道の奥で、アメシスと数人の子供と老人が懸命に掘り続けるのを手伝いながらトリフェンが軽口を叩く。


「……止めないのか」

 

 アメシスが黒いツルハシを振ると、いとも簡単に壁の一部が崩れた。子供の膂力では到底不可能な芸当であるが、秘密はマテリアにあった。


「俺らも一応、あっち側の人間だぜ? それにあいつらを助ける事も、あいつらを追い込む事も俺らの仕事じゃねえ」

「そうかよ……っ! みんな! 掘る方角を南にずらそう!」

「なんで?」


 1人の子供が不思議そうにアメシスに問うた。


「もう少し掘り進めると鉱脈がありそうだけど、マグマ溜まりも近くにある。おそらく同時に露出するから、そうなったら俺らはひとたまりもない」

「なんで分かるのじゃ?」


 老人の言葉に、アメシスがツルハシを見せた。


「これに、【熱探知】の力が付いているんだ。そして前方に大きな熱源がある。さっきまではなかったから間違いなく下から噴き上がってきたマグマだよ」

「……ふむ。ならば従おうか。そうやってこの班は今のところ危機を回避しておるからの。皆、南に掘ろう」


 老人の言葉に、全員が掘る方角を変えた。


「南からは魔力を感じる。きっと何か埋まっているに違いない。俺が先に進んでいくから、それを広げていってくれ」


 そう言って、まるで砂でも削っているかのような軽快さでアメシスが掘り進んでいく。彼がツルハシを振るうたびに、【分解】のマテリアが能力を発揮し、岩や土を砂レベルまで分解していた。そのおかげでアメシスの筋力でも簡単に岩を砕けるのだ。


 更にツルハシには、採掘時に最も危険とされる有毒ガスを防ぐ【毒耐性】も付いていた。なので、まずはアメシスが先行し、有毒ガスが発生していないのを確認してから他の採掘士達がその坑道を掘り広げていくという方法が確立した。


 トリフェンとトパゾはそれを見守りながら、掘って出た石塊や土を運び出していた。【筋力強化】と【スタミナ回復】のマテリアのおかげで、本来なら重労働であるはずのその作業も全く苦では無かった。そして坑道が広がれば木の柱で落盤が起きないように坑道を補強していく。


 そうして掘り進めたおかげで、危険な状態である火山内にも関わらず、アメシス達の班は事故も起こらず負傷者も出なかった。


 それは間違いなく、アメシスとそのツルハシのおかげだった。


「あと少し!!」


 アメシスが確かな手応えを感じながらツルハシを振るうと、黒い金属質の岩肌が露出した。その黒い金属は所々に赤い粒が混じっており、間違いなくその特徴は――ラヴァライトの物だ。


 しかもかなり大きな鉱脈だと分かる。全て掘れば……ここにいる全員が一生食うに困らないほどの金になるだろう。


「やった!!……ラヴァラ――」


 そう叫ぼうとする子供の口をトリフェンが素早く押さえた。


「声を出すな」

「お前、何を!! その子を離せ!!」


 アメシスが怒りながらツルハシをトリフェンへと向けた。


「馬鹿野郎。あいつらが聞き付けてやってきたらどうするつもりだ」

「……どういうことだよ」

「――アメシス。あいつらみたいなろくでなしにこの鉱石を渡してしまって良いのか? 間違いなくあいつらは掘らすだけ掘らしたら、お前らをここに残して、王都に帰ってしまうぜ」

「それは……」


 有り得る、とアメシスは思った。そもそもこの危険な時期に遠征したのも……事故死を装いやすいからだ。そうして後払いになる報酬を払わず、掘れた鉱石分が丸々儲けになるという算段だろう。


「馬鹿らしいと思わないか? どっちみち早く脱出しないと、ここも危ないぞ。今なら混乱に乗じて抜け出せる」

「確かに……でもあんたらが俺達を騙している可能性もある!」


 アメシスがそう言ってトリフェンを睨む。


「だよなあ……俺だってきっとそうする。でもな、こいつを見ろ」


 そう言って、トリフェン達がマテリアの埋まった山刀をアメシスに見せ付けた。


「アレクの旦那の下で働いている……といえば分かるだろ。ま、それすらも疑うなら話は終いだが」


 アメシスとトリフェンが無言でしばらく睨みあったが、アメシスが口を開いた。


「……どうするつもりだ」


 そのアメシスの言葉に、トリフェンが獰猛な笑みを浮かべ、こう言い放った。


「……この鉱石を俺らだけでこっそり掘って運んで……()()()()()()()()()()()()。あいつらの悪行については既に証拠をいくつか掴んでいる。あとは、生きた証人としてお前らを生還させれば俺らの仕事は終わりだ」


アメシスのツルハシはかなり優秀ですね。ただし、効果が高いマテリアを付けすぎたあまり、普通の鉄製ではマテリアの力に耐えられず、結果としてラヴァライトで作成したという経緯があります。おかげで刃こぼれ1つしないようです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作! 隠居したい元Sランク冒険者のおっさんとドラゴン娘が繰り広げる規格外なスローライフ!

「先日救っていただいたドラゴンです」と押しかけ女房してきた美少女と、それに困っている、隠居した元Sランクオッサン冒険者による辺境スローライフ



興味ある方は是非読んでみてください!
― 新着の感想 ―
[一言] クズ商人が証人を脅しそうです
[良い点] やはりモフモフ兄弟は優秀。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ