43話:生態の破壊者、森の再生者
「国が滅びる? 大袈裟だな」
トリフェンがサンドラの言葉を鼻で笑う。国がこんな珠1つで滅びる? ありえないだろ。
「簡単に言うと、生命体をマナへと分解する力を持っているマテリアなんだよ。このマテリアが機能すると、その効果範囲内にある生命体は徐々にマナを吸われ……やがて死に至る。最終的には死体すらもマナに変えてしまう。このマテリアを使用された一帯の生態は全て死滅し、マナへと分解されてしまう。ゆえに、【生態分解】と呼ばれているんだ」
アレクが再び語り出すと、トリフェンは眉をひそめた。
「それだけ聞くと確かにやべえけど……でもよ、それが機能してないんだろ? 話を聞いているとそのせいで長耳共は不調なんだろ? 話がおかしくないか?」
「……えっとね、この【生態分解】ってのはなぜか――植物だけは効果の範囲外なの。そして、このマテリアは分解吸収したマナを再び大気や大地へと戻すのだけど、そうすると、自然とマテリアの効果範囲内に、マナだけで成長できる植物達が生い茂るの」
「そうして出来上がるのが――死の森だよ。トリフェンは気付いていない? この禁足地付近では、鳥のさえずりも虫の声も、獣の咆吼すらもない」
アレクの言葉に、トリフェンは思い当たることがあった。この塔のある一帯は、呪われた土地と呼ばれ、動物達は一切近寄らないという。
それが、このマテリアとやらの効果ならば、納得はいく。
「――これはエルフの王族……つまりハイエルフだけに伝わる伝承なのだけど私達の祖先は元々……森の再生者と呼ばれていたの」
エスメラルダが語る。
「マナで成長する植物は、同時にマナをも生成するの。だからマナが枯渇した大地を、緑豊かな土地へと再生させる為に私達ハイエルフは生まれ、そしてこのマテリアとそれによって生じた森を守ってきた」
「……つまり、どういう事なんすっか。小難しい話でさっぱり分かんないっす」
トパゾがお手上げとばかりにそう声を上げた。
「つまり、エルフもこの森の植物と同様に、マテリアの効果の範囲外って事だと思うよ。そしてこの森とマテリアの力で生じた濃いマナ濃度の中でのみ生きられるように身体が変化してしまったんだ。だからこのマテリアの効果が弱まった結果、マナ濃度が薄くなって……その環境に適応できなくなったってことかな」
「流石はアレクね。それが正解よ。これでこの森が禁足地である理由が分かったでしょ? もしあんたらが勝手に踏み込んできたら、徐々にマナを奪われてそして死んでしまうからよ」
エスメラルダの言葉に、トリフェンとトパゾがコクコクと何度も頷いた。
「というわけで、アレク、直してくれる?」
「おい、まってくれ。直ったら俺達やばいんじゃないか?」
トリフェンがそんな事を心配するが、エスメラルダが笑顔を浮かべた。
「そうね……すぐには効果は出ないから、すぐに戻れば平気だけど――試しにあんたらをここに放置して何日で死ぬか実験してもいいわね」
「ひいいい! 勘弁っす!!」
そんなやり取りをよそに、アレクがマテリアに近付く、慎重にそれへと魔力を注いでいく。
「……うん……直せそうだ」
アレクは確信を持って、更に魔力を注いでいく、これまでにないほどの魔力を吸われていくが、慎重に出力を調整する。魔力を入れすぎてもいけないのだ。
そうして10分ほど経ち――
「ふう……とりあえず応急処置は出来たかな」
アレクの前には、あの大きなヒビがすっかり修復され淡い輝きを放つマテリアが浮かんでいた。
「完全には直せないの?」
それを見たエスメラルダの問いに、アレクが答えていく。
「マテリアは繊細な物だからね。特にこのマテリアは巨大かつ緻密なんだ。1度にやり過ぎると、今度は別の場所が劣化してしまう。少し時間を……多分1ヶ月ぐらいかな? それぐらいおいて僕の魔力を馴染ませて……また修復して……の繰り返しになると思う」
「……結構大変ね」
「でも、少なくとも、これで効果だけは正常になると思うよ」
「そっか。じゃあ、定期的にアレクには来てもらう必要があるってことね!」
なぜかエスメラルダが嬉しそうにそう言った。
「そうなっちゃうね。僕にもう少し修復技術があれば良かったんだけど……」
「エルフはいつでも歓迎するわよ!!」
「……うん。ありがとう」
引き攣った笑みを浮かべながらアレクがマテリアを霊樹へと戻す。すると静かな稼働音が響き、塔全体が微かに揺れ始めた。
「動き始めたわね。さ、戻りましょうか」
エスメラルダがそう言って、全員が、元の姿へと戻った霊樹へと背を向けたその時。
その異変にいち早く気付いたのは、ベルだった。
「マスター、あそこを」
そう言って、ベルが塔の壁面を指差した。
そこはコケと草で覆われている壁だったが、それが音もなく左右に割れ――開いた。
「っ!! なにあれ!?」
「私も知らない……あんなの見た事ない」
エスメラルダすらも驚愕していた。
全員が注目するその開いた壁の先には通路が続いており、通路には灯りが灯っていた。
何より――その通路には、半透明の女性と、同じく半透明のサンドラと瓜二つの小動物が立っていた。
まるで、食虫植物のような森です。入って来た生命体(エルフ除く)は徐々に弱り、死んでしまいます、そして死体からもマナに分解され、それを糧とする植物が成長する……の繰り返しですね。
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