39話:禁足地ピクニック
リングアロー大森林内、禁足地【群塔森林】――翠緑の柱近辺。
「ふんふんふーん♪」
鬱蒼と生い茂る植物の間を機嫌良さそうにエスメラルダが進んでいく。その手にはアレクから貰った短剣が握られていた。
「なんか朝から上機嫌ね」
サンドラがアレクの肩の上でその様子を見てポツリと呟いた。
「きっと、マナに余裕があるからだよ」
「そうかなあ……」
「マスター。見てください」
そう言って、アレクの前の草やツタを、右手に埋め込まれた【マナブレイド】のマテリアによって生成した炎剣で斬り払っていたベルが、前方を指差した。
「おお! 凄い!! 高い! 大きい!」
サンドラが感嘆の声を上げる。アレクもその圧倒的存在感に思わず、おお……! という声が出てしまった。
それは馬車に乗っていた時から見えていた、あの超巨大な塔だった。塔の壁には斜めに木々が生えており、一見すると人工物というよりも、木々の集合体と言ったほうがしっくりくるような見た目だ。
その塔と、離れた位置にある別の塔が巨大な回廊によって繋がっている。
「ねえ、アレク。あれは何なの?」
「分からない。遙か昔に造られたと言われているけど、現代の建築技術や理論では説明がつかない構造だからね。更にエルフ達の禁足地になっているから調査がされた事もない。内部がどうなっているか……不明だ」
そうアレクが言うと、エスメラルダが振り返った。
「内部なんてないわよ。あれはただの柱よ」
「柱?」
「神が造ったという伝承があるけど、正直良く分かってないわ。上まで登ればまた何か違うのかもしれないけど……まあそんな馬鹿な事をした者は今のところいないわ」
「神ね……」
アレクは、神を信じていない。彼の故郷ではそういう概念はなかったのだ。だが人は死ぬと、大地に還り、やがて宝石になると言われていた。それが土着の信仰であると、王都に来てアレクはようやく知ったのだが、それでも今さら神や天使といわれる概念を受け入れる気はなかった。
「私も信じていないわよ。でも、現にこうしてあるのだから仕方ない。それに――霊樹を見ればあながち神もいるのかもしれない――そう感じるわよ」
そう言ってエスメラルダが進んでいくと、少し森が開けた場所に辿り着いた。
「あと、30分も歩けば辿り着くわ。一旦休憩にしてお昼を食べましょう」
「分かりました。ベル、お願いしていいかい?」
「かしこまりました」
そう言ってベルが背中の鞄から大きな布を取り出すと、地面に広げた。
そしてその上に、まるで魔法のように出てくる料理の数々を布の上に並べていく。
「携帯に適してかつ冷めても美味しい物をチョイスしました」
「美味しそうね! さ、食べましょ!」
エスメラルダが嬉しそうにそう言って座ると、目の前にあったパンにハムを挟んだ料理へと手を伸ばした。
「マスターも」
「うん、ありがとう」
4人によるピクニックが始まったのだった。
アレクには紅茶を、エスメラルダには酒を、そしてサンドラにはミルクを注ぐと、ベルがアレクに耳打ちした。
「マスター。少しだけここを離れても?」
「ん? どうしたの?」
「いえ、悪い獣が後をつけているようで。追い払ってきます」
「そうなんだ。うん、お願いするよ、調査中に襲われても嫌だしね」
「かしこまりました。すぐに――済ませます」
そう言ってベルがお辞儀すると、森の中へと消えていった。
しかしエスメラルダだけが首を傾げていた。
「……この辺り、魔物も獣もいないはずなんだけどなあ。まいっか」
次話、ベルさん無双する(ネタバレ)
禁足地の周辺は、とある理由で魔物や獣がいない、死の森になっています。植物だけがいきいきしているような感じですね。
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