37話:人は倒れど祭りは続く
エルフの里、来客用宿舎。
「疲れた……」
ようやく、与えられた部屋に戻れたアレクは開口一番にそう呟いてしまった。
思わずベッドに飛び込んだサンドラが足を投げ出し、へばっていた。
「ふにゃあ……流石のあたしも疲れた……」
「――とても手厚い歓迎でしたね」
「うん……」
アレク達は、里に入るやいなや歓迎祭の主賓と祭り上げられ、7時間にも及ぶ宴会に付き合わされたのだった。歓迎されるのは嬉しいのだが、食べられないほどの量の肉料理が並び、未成年だと何度言っても、キツそうな酒を勧めてくるのに、流石のアレクも辟易していた。
だが、何よりも気になったのは――
「――みんな、エスメラルダみたいに倒れていたね」
そう。彼らエルフは歌って飲んで踊って騒いでとしている最中、急に気絶したり、倒れたりしていた。しかしそれは日常茶飯事なのか、無事な者達が倒れた者達をどこかへ運んでいき、しばらくするとまるで何もなかったかのように戻ってきて、また祭りに参加していた。
「マスター。この里のエルフは全員――マナ枯渇症を発症させています」
ベルの言葉にアレクが頷いた。あれは明らかにマナ枯渇症の症状だった。
「この里のマナ濃度は王都に比べれば、かなり高い方です。ただ――エルフ達の人数が多いせいで、あれだけ集まって、呼吸が速まるような行為――飲酒や踊り、楽器演奏、マナを使った魔術花火の行使などが繰り返されたせいで、一時的にマナ濃度が薄くなったと推測されます」
「それって――お祭り騒ぎをしたせいで倒れているってこと……?」
サンドラが呆れたような声を出した。
「そういうことになるね……発症者が出た時の手際が良かったから……多分こうなると分かっていた節がある。おそらく、マナ濃度が高いところへと発症者を隔離する事で、勝手に治るんだろうね……」
「もしかしてエルフって……馬鹿?」
そのもっともな言葉にアレクがうなだれた。
「……絶対に彼らの前では言わないでねサンドラ」
アレクはソファに座ると、すかさずベルが水の入ったグラスを差し出してきた。
それを飲んで一息つくと、どっと疲れが出てきた。
「ふう……」
アレクは溜息をつきながら、エスメラルダが言っていた危機とやらについて推測していた。なぜ、数百万人に1人と言われるマナ枯渇症がこれだけ発症しているのか。
なんて思っていると、タイミング良く扉が開き、それに対する答えを持っているであろう人物が入ってきた。
「さあ、25次会やるわよ! 26次会だっけ? まあなんでもいいわ!」
そう言いながら、入ってきたのは樹酒と呼ばれる、エルフの里独特の酒が入った瓶を片手にしたエスメラルダだった。
エルフ「客じゃああ!! もてなせえええ!!! マナ枯渇症? 気合いで治せ!」
中々のあほっぷりをさらけ出していますが、根は悪い人達ではありません。
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