35話:奪い合う兄妹(王子サイド)
王都、王宮内――【緑柱宮】
そこはアゲート王家が代々住んできた館であり、王族付きの召使いと騎士以外は何人たりとも入る事が許されない場所だ。
そんな館の応接間に、1人の青年と美しい少女が向かい合わせに座っていた。それぞれの背後にメイドが付いており甲斐甲斐しくそれぞれの主人の世話をしている。
「あーあ。俺も見たかったなあ……あいつがバラバラになったところ。良いツマミになっただろうに」
青年――今は亡きジェミニと瓜二つの顔をしている彼の名は――ユーファ。この国の第1王子であり、良い意味でも悪い意味でも、その名を知らない国民がいないほどの存在感を持っていた。
同じ顔を持っていたジェミニとの相違点があるとすればそこだろう。
「……お兄様は相変わらず趣味が悪いですわ。実の兄弟をそんな風に」
そう言って静かに紅茶を飲んでいたのは、第2王女のセラフィだった。ユーファの妹であり、彼女もまたその美貌と柔らかい物腰のおかげで国内外問わず人気だった。
それゆえに命を狙われる事があるのだが、最近活躍が目覚ましい彼女直轄の王国騎士団、【蒼の獅子】のおかげで、それも終息しつつあった。
「兄弟? 俺の兄弟は昔からセラフィ、お前1人だけだ。アレは、兄弟ですらない……ただの影で、ゴミだ。まあ、ようやく2人っきりになったのだから仲良くしようぜ」
そう言ってユーファが身を乗り出し、セラフィの顎を掴むと、自分の顔へと引き寄せた。
「……触らないでいただけます?」
その手を払って、セラフィが冷たい視線を送る。
「くくく……俺をそうやって邪険に扱うのはお前ぐらいだよ。だからこそ面白い」
ユーファがソファに座り直すと、空いた酒杯を掲げた。すかさずメイドが赤い葡萄酒を注ぐ。
「セラフィ、お前、親父がジェミニに与えた玩具にご執心らしいな」
「あら、何のことでしょうか」
「とぼけるなよ。今は、エルフの里に行っているんだろ?」
「……エスメラルダのワガママに振り回されているだけですわ」
「エルフか……あいつらって賢いのか馬鹿なのかイマイチ分からないんだよな。まあいい……あの親父が珍しく、王家以外の者に気を掛けているし、人を人と見ていないお前が執心するぐらいだ、きっと面白い奴なんだろう」
ユーファが口元からこぼれた葡萄酒の赤い滴を手の甲で拭った。
その粗野な仕草に、しかし女性達は魅了されるそうだ。セラフィには理解できない感情だ。
「……そんな事はありませんわ。せいぜい路傍の石程度でしょう」
「なら、俺が貰っても良いよな?」
「……お好きに。私が止めろと言ったら、余計にやる気を出すでしょ、お兄様は」
「良く分かっているじゃねえか」
肉食獣のような笑みを浮かべるユーファを見て、セラフィは溜息をついた。
昔からこの兄はそうなのだ。自分も同じ物やもっと価値のある物を持っている癖に――人の物を欲しがる癖があった。
「人の玩具はよ――奪って壊す時が、1番楽しいんだよ」
その言葉に、セラフィは眉をピクリと動かした。
一体これまでに、私はどれだけの物を奪われ――壊されてきただろうか。
「――お好きになさってください。私はそろそろ寝ますわ。お兄様もお酒はほどほどに」
「母親みたいな事を言うんじゃねえよ」
セラフィは兄の鬱陶しそうに手を払うのを見て、自室へと戻る事にした。
脳裏によぎるのは、あの人の良さそうな顔をしながら、計算高い面を持つ少年の事だった。
「奪われず、壊されない……そんな人こそ――私の伴侶たりえますわ」
そう小さく呟いたセラフィが美しい笑みを浮かべ、去っていた。
そして1人残されたユーファはゆっくりと葡萄酒を飲み干すと酒杯をメイドへと投げた。
「――予定通り、あいつらを送ったか?」
「……はい。それに、もうまもなくターゲットも里に到着している頃合いでしょう。ですがよろしいのですか? エルフとの協定を破る形になりますが」
「……暗殺者崩れ共がどこで何をしようが俺には関係ない。つまりアゲート王国は関与していないことになる」
「では、手筈通りに」
「頼むよ……あーあ。今度の玩具は長持ちすると良いなあ……」
ユーファの顔には、邪悪な笑みが浮かんでいた。
補足! 第1王女はおらんの? という疑問が出ますが、この国では生まれた順に番号が振られ、男女で分けていません。長男であるユーファが第1王子、双子の弟のジェミニが第2王子。そして長女であり第3子であるセラフィは第3王女となります。
ですが、公式ではジェミニは存在しないとされているので、セラフィが繰り上がって第2王女となるのです。
ユーファ王子は何やら企んでいるようで……この国ろくな王族いないぞ!
セラフィさんはセラフィさんでちょっと問題ありそうな雰囲気がぷんぷんしてるし……
次話でまたアレク視点に戻ります!
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