33話:勇者の最期(ざまあ完了)
魔石屋アレキサンドライト――1週間ぶりの開店日。
「ふー。流石に疲れた」
1週間ぶりの再開とあり、いつも以上の客入りに流石のアレクも、接客を手伝っていたサンドラも疲れ切っていた。
夕刻になり、ようやく客足も途絶えた。
「しっかりと説明もしたし、これで1ヶ月ぐらいは閉められそうね」
サンドラの言葉に、アレクは頷いた。
「ふむ……しかし、結局何ごともなかったな」
椅子に座って、紅茶を飲んでいたセレスの言葉にアレクが頭を下げた。
「すみません……わざわざ来て頂いたのに」
「構わんよ。どうせメンテナンスをしてもらうつもりだったからな。気にする事はない」
「何ごとも無くて良かっ――あ、いらっしゃいませ」
言葉の途中で店の扉が開いて、アレクがそちらへと視線を向けると――そこには十字架を模した槍を背負った青年が立っていた。
「ま、間に合った!?」
「……大丈夫ですよヘリオさん。メンテナンスですよね?」
「そう! しばらく閉めるって話を聞いて慌てて勤務終わりに来たんだよ」
「ご苦労だ、ヘリオ」
そんなヘリオにセレスが労いの声を掛けた。
「せ、セレスさん! いたんですか!」
「ああ。私もマテリアのメンテナンスにな」
「なるほど……じゃあアレク、お願いするよ」
そういってヘリオが槍をアレクへと手渡した。
「はい! すぐに終わりますよ。ヘリオさんもちゃんと毎日メンテナンスしてくれているおかげで修復作業が楽です」
アレクはすぐさま、ヘリオのマテリアウェポンの修復に取りかかった。思った通り、すぐに修復が終わりそれをカウンターの上へと置いた時――再び店の扉が開いた。
「――いるんだろ、アレク!」
アレクがその声でびくりと反応した。
「え?」
それはすっかり憔悴した様子の――勇者ジェミニだった。
「アレク。話がある」
ジェミニが店の中に入ってくるが、既に剣を抜いていた。
それを見て、セレスとヘリオが目を細め、武器へと手を伸ばす。ベルはゆっくりとマナを集中させた左手をジェミニへと向けた。
しかしアレクが、全員に聞こえるようにあえて普段より大きな声でこう言った。
「店内は抜刀禁止ですよ。久しぶりですね、ジェミニさん」
アレクの言葉で、セレスとヘリオ、そしてベルが構えを解いた。
だが、3人はいつでも動けるように身構えている
「誰に物言っているんだアレク。お前のせいで俺は……俺はなあ!!」
「……ジェミニさん、話なら外でしましょう」
アレクの冷静な物言いに苛立つジェミニだったが、ただならぬ殺気を放っているセレス達を見て、何とか理性を保った。
「さっさと来い!!」
そう言ってジェミニが怒鳴り、外へと出て行く。
アレクはサンドラを肩に乗せて外へと出ようとすると、ベル、セレスとヘリオが動いた。
だが、アレクは首を横に振った。
「――大丈夫ですよ。でも万が一があれば。お願いします」
アレクのその言葉を聞いて、3人が頷いた。
路地に出ると既に日は傾いており、空には月が浮かんでいた。
店の前で――2人が対峙する。
「王都に……帰還されていたんですね」
「黙れ。お前と話す気はない」
「僕もありませんよ。何の用ですか?」
「――俺のパーティに戻れ。今なら許してやる」
その尊大な物言いに、アレクは思わず笑ってしまった。
かつての面影も迫力もないジェミニを、怖いと思っていた過去の自分が馬鹿らしいとさえアレクは思った。
「残念ながら、こうして小さいながらお店をやっていまして。残念ながら貴方のパーティには戻れません」
「――もう一度だけ聞くぞ。今なら許す。すぐに俺の下に戻れ!!」
アレクは、路地の周囲を見渡した。その視線は路地の左右にある建物の屋根にまで向けられていた。
「嫌です。大体の事情は、セラフィ様から聞きましたよ――ジェミニ王子」
「っ!! 貴様!!」
アレクは、ただ王女達の話し相手をさせられていただけではなかった。巧みに話を誘導し、疑問に思っていたセラフィの兄の存在について聞きだしていたのだ。
「ジェミニさんが、ユーファ王子の双子の弟とは知りませんでした」
そう。この国の王子は――2人いた。だが、双子の王子の弟であるジェミニはその存在を完全に秘匿されていた。
その理由は定かではないが、いずれにしろ、ジェミニの存在が公にされていなかった時点で、あまり恵まれた立場ではなかった事が分かる。
なぜ彼が突如、遙か昔の英雄である、勇者という名を冠する事になり、存在すらもあやふやな魔神の討伐という何とも抽象的な旅に出る事になったのか。
その真相は多分、国王であるデンドリック・アゲートしか知らないだろう。
「殺す! 俺の秘密を知ったお前は絶対に殺す!!」
激昂したジェミニがそう言って剣をアレクへと向けた。
もういい。殺そう。後の事なんて知るか。ジェミニは既に、正常な判断が出来ない精神状態だった。
「剣を下ろしてくださいジェミニさん。もう貴方に勝ち目はありません」
しかしその言葉は火に油を注ぐ行為でしかなかった。
「お前が!……俺に! 指図するなああ!!」
ジェミニがそう叫んで、駆け出そうとした瞬間。
「おーおーおー。しばらく休むから今日来てくれと頼まれて、大事な商売道具1ヶ月分持って来てみれば――なんだこの状況は?」
路地の先から、赤い髪をなびかせた美女が現れた。
「誰だてめえ!!」
ジェミニは剣をその美女に向けて、ようやくその存在に気付いた。
「――お前は……【紅百の機手】か!」
その隙に店からセリスとヘリオ、そしてベルが飛び出してきて、アレクの周囲を固めた。
その様子を見て、赤毛の美女――ディアナが大笑いする。
「あははは! あたしの事を知っていて……かつ、お前が殺すとかのたまう、そのガキンチョは【空斬り】と【不死狩り】とついでにドレッドノート……じゃなかったベルに守られている。お前さ、気付いてねえかもしれないが――詰んでるぞ」
その言葉に、ジェミニが視線をさまよわせた。
「くそ……!」
路地の前後を塞がれたジェミニが、壁を登って上に逃げようと判断すると――
「無駄だよ。言ったろ? 商売道具1ヶ月分のメンテナンスをしに来たって」
路地の左右の屋根の上に――十数体のベルとよく似た雰囲気の少女達が現れた。
「っ!! あれは……」
「あたしの可愛い人形ちゃんだよ」
逃げ場を失ったジェミニは、迷った末に――剣をディアナへと向けて突撃した。
人形遣いならば――操る本体は弱いだろうという一縷の望みに賭けた形だ。
もし――ジェミニがアレク達の方へと向かっていたら。相手は騎士2人とアレクによって殺生は禁じられている人形だった。それであれば、最悪手足のどれかを失ったとしても……命までは奪われなかっただろう。
だが、よりにもよって――彼はS級冒険者であるディアナの方へと牙を向けてしまった。
「あああああ!!! 死ねええクソ女がああああ――え?」
ジェミニが走ると同時に、複数の銀閃が舞う。
気付けばジェミニの身体に、無数の細かい線が刻まれていた。
「人形遣いに安易に近付くのは――自殺行為だぜ? せっかくだから覚えておけ……クソガキ」
そう言って、ディアナは左右の手元から伸びた10本の銀のワイヤーを戻した。
同時に、ジェミニが走っていた勢いのまま、細かい肉片となって前方に飛び散った。
「あー、冒険者法のなんちゃらに従って、これは正当な防衛として認められるやつだな。うん、あたし無罪」
ディアナの心にもないセリフが――路地に響いたのだった。
こうして、この国の王子にして、勇者であったジェミニはあっけなく死んだのであった。
S級冒険者は、特権階級的な側面があり、多少の無茶も目を瞑ってもらえるとか。
というわけで、勇者ジェミニの最期でした。
彼も、悲しい人間ではありました。どこかで違う道を歩んでいれば……
そしてざまあ完了に伴い一章完結です。当初の予定ではもっと早くに終わる予定でしたが……仕方ないね。
ここで物語的には一段落つき、次はエルフの里編になります。どうかお付き合いいただければ幸いです。少しずつ、アレクの過去や母親についてなど触れていきたいと思います。
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