32話:勇者は間違えた(追放者サイド)
王都――魔石屋アレキサンドライト
「くそ……いねえじゃねえか!! あのクソが!!」
勇者ジェミニが明らかに閉店している、魔石屋アレキサンドライトの前でブツブツと呟いていた。マテリアを使っているらしき騎士を脅してようやく手に入れた情報でこの場所を掴んだのに、肝心のアレクはいなかった。
腹立たしい張り紙がされており、ジェミニは思わず貼られていたそれを剥がして破ってしまう。
なぜ、あんなガキの為に俺がこんな苦労しなければいけないのか。
そんな理不尽な怒りがジェミニを支配していた。
だからこそ、彼は第三者が歩み寄ってきている事に気付かなかった。
「――あんた、その店は明日まで閉店だぜ。用があるなら明後日来たらいい」
そんなジェミニに赤髪の男が話しかけた。
「誰だてめえ」
「この先にある金物屋兼鍛冶屋をやっているルベウスってもんだ。その店の店主とは知り合いでね。今、そこの店主は原材料採取の為に留守にしてるんだ」
「明後日?」
「ああ。明後日にはいるだろうさ。なんか用件あるなら聞いておくが?」
そう親切心で聞いたルベウスだったが、返事の代わりにジェミニは睨み付けるだけだった。
「――余計なお世話だ、平民。失せろ」
そう吐き捨てて、ジェミニは立ち去っていった。
「……なんだあいつ。感じ悪いな」
ルベウスは、破り捨てられた張り紙と、ジェミニのただならぬ様子に、何となく嫌な予感がしたのだった。
☆☆☆
翌日。結局丸々4日間、王宮に滞在する事になったアレクはようやく店に戻ってこられた。
ベルが掃除を始め、アレクは早速マテリア作成を始めた。
「エルフの里に行く事を考えると……多めに作らないと。それに――」
アレクは、マテリアを錬成しながら、セラフィ王女直々の注文を思い出して溜息をついた。
『効果は問いません。最も美しいマテリアを作ってください。それとそれに相応しい言葉も』
というセラフィ王女の言葉が重くアレクの両肩にのしかかっていた。
「美しいってなんだろ……しかも相応しい言葉って……」
「うーん。私は、透明な奴が綺麗だと思うけど」
「困ったなあ……まあ、期限は決められていないからすぐにってことはないだろうけど……」
だが、エスメラルダの要請やセラフィの依頼についても、アレクとしては全力で応えたいと思っていた。
宝石師にとって、1番のお得意様はやはり王族なのだ。まさかこんなに早く繋がりが出来るとは思わなかっただけにこのチャンスを逃したくないアレクだった。
「ベル、明日は久しぶりに店を開けるけど、新規のお客さんについてはよほどでない限り今回は断ろう。しばらくアフターケアが出来ないしね」
「了解」
ベルが頷くと同時、店の扉が開いた。
「よお、アレク」
「あ、ルベウスさん!」
入ってきたのはルベウスだった。
「ちと、気になる事があってな。明日開店するんだろ?」
「そのつもりですが……」
「実は昨日な――」
もし、昨日。
ルベウスがジェミニに出会わなければ。
会っていたとしても、ジェミニが愛想良くとまではいかなくとも普通の対応をしていれば――未来は変わっていたかもしれない。
だが結果としてジェミニは明後日にはアレクがいるという情報を得て、同時にアレクと親しいルベウスにその日に怪しい奴が来るかもしれないという危惧を抱かせてしまった。
この時点で――勇者ジェミニの未来は決定してしまったのだった。
ジェミニさん、色々自業自得ですが……何よりやはり運がないのが1番でしょうね。
本日20時更新の次話にて、ざまあ完了、そして一章完結です。是非とも最後までお付き合いいただければと。
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