29話:勇者は懇願する(追放者サイド)
王都――王城内、玉座。
「くくく……無様だなあ、勇者ジェミニ」
豊かな髭を蓄えた、壮年の男性の前に、勇者ジェミニと聖女マリンが跪いていた。賢者ラースは精神に異常をきたした為、自宅で安静にしており、この場にはいない。
「申し訳ございません……陛下」
ジェミニが絞り出したような細い声を出した。その身体は微かに震えている。
「よりにもよって……マテリアメイカーを追放して、マテリアを壊した結果オーガ如きに負けて帰ってくるとは。勇者ジェミニ。お前は何をしでかしたか分かっていないだろ?」
壮年の男――国王であるデンドリック・アゲートが、なぜか愉快そうに笑顔を浮かべた。
「マテリアは……我が王家と〝末裔〟のみが使う事が許される秘匿技術。それをお前は金惜しさに、手放し、野に放ったのだ。最近、とある騎士団がマテリアによって急激に成長していてな。それだけならまだしも、一部の冒険者や、あの【紅百の機手】すらもマテリアを利用しはじめているようだ」
「ですが……陛下……そんな重要な技術であることは……」
「かはは……伝えなかった俺が――悪いと?」
デンドリックが、それはそれは楽しそうに笑った。ジェミニを信用し、そんな馬鹿な事はしないと思い込んでいた自分が滑稽だった。
「いえ……ですが」
「もはやこうなっては、マテリアを秘匿するのは無理だ。監視はするが、自由にさせるつもりだ。我が王国に利がある限りはな」
「……陛下、もう一度チャンスを」
ジェミニがそう懇願するが――
「チャンス? ジェミニ。俺はあと何度お前にチャンスを与えればいいんだ? 1回か? 10回か? そうやってお前は何度チャンスを与えてもらった? 最も優秀な魔術師であるラースを潰して、最高の聖職者であるマリンに愛想を尽かされたお前に何が出来る」
「――あの宝石師を再び俺の物にします! そうすれば今度こそ!」
顔を上げたジェミニの瞳の中にある濁った感情を見て、デンドリックは溜息をついた。
結局――己の甘さが、回り回って火の粉となって自分に降りかかってきている事に、デンドリックは笑うしかなかった。どこで――間違えたのだろうか。
そんな事を考えながらデンドリックが口を開いた。
「ジェミニ――我が息子よ。もしお前が、かのマテリアメイカーを説得し、再び魔神討伐の旅に出れるというのなら最後のチャンスをやる」
「本当ですか!?」
「ああ……勿論本気だとも。それで良いな、マリン」
そこで初めてマリンが口を開いた。
「アレクがいるのならば……ジェミニ様に同行いたします」
「だとよ、ジェミニ。精々、頭を地面に擦り付けて泣いてわめいて、みっともなく説得することだな。話は以上だ」
退室していくジェミニとマリンを見て、デンドリックはマテリアとそれを扱うあの少年の今後について想いを馳せていた。
その顔には、諦めにも似た表情が浮かんでいた。
☆☆☆
王城内――王宮騎士団、詰め所。
詰め所の中にある1室。アレク達3人はそこに軟禁されていた。
外から鍵が掛かっているその部屋は、来客用にしては無愛想な部屋であるが、先ほどまで牢屋に入れられていたアレク達からすれば、天国のような場所だ。
既に拘束は解かれており、自由に歩ける。
そんな時に、その部屋の扉が開いた。慌てて入ってきたのは、青髪の女騎士だ。
その姿を見て、アレクが声を上げる。
「セレスさん!」
「アレク! サンドラ! それにベルも無事だったか!」
セレスの第一声に、3人が答える。
「何とか……」
「怖かった!」
「問題なし」
元気そうなアレクとサンドラ、そして最近あの店で雇われたベルという名のメイド、それぞれが返事するのを見て、セレスは胸をなで下ろした。
「遅くなってすまなかった。誤解は解けたので、すぐに釈放する為の手続きを行っている」
セレスは、アレク達が王国騎士団によって捕縛されたという噂を聞いて、血相を変えて飛び出してきたのだ。そしてすぐに直属の上司である【蒼の獅子】の騎士長に直談判して、事情を調査。
そしてアレク達に非がない事を、エルフの王族であるエスメラルダから聞きだし、すぐにアレクの拘束を解くように要請したのだった。
「本当にすまなかった。私が、エスメラルダ様にアレクの事を話したばっかりに……こんな事に……」
セレスが床に手をついて謝ろうとするので、慌ててアレクがそれを止めた。
「セレスさんは悪くないですよ! あの状況であれば仕方有りません。それよりエスメラルダ様は無事ですか?」
「ああ。ピンピンしているよ。本人も不思議がっていたし、何よりアレク達に会いたがっている」
「良かった……。でもなぜ……」
アレクは、なぜマナ枯渇症を発症したはずのエスメラルダが今は元気なのか不思議だった。
「マスター。この城は……どういうわけか、大気中のマナ濃度がかなり高いです。おそらくここであれば発症しづらいのではないかと推測できます。おそらくエルフの里も街中と比べればマナ濃度が濃いのでしょう」
「なるほど……初めてマナ濃度の薄い街に出てきたばっかりに、発症してしまったのか」
「あくまで推測ですが……」
「――何の話だ?」
セレスが話に付いていけず、不思議そうな顔をしている。
「まあいい。とにかく、今からアレク達はエスメラルダ様の知人という扱いになる。王宮内では気負いなく過ごしてくれ。私もアレク達に付いてまわるから、問題も起きないだろう」
「ありがとうございます。とにかく、まずはエスメラルダ……様に会わないとですね」
「ああ、今から向かおう」
こうして、アレクは貴重な投獄経験をしたのちに、平民であればまず入る事が叶わない王宮へと初めて足を踏み入れたのだった。
それがアレクの将来に、大きく関わってくる事になる。
投獄されたものの、特に酷い目にはあってないようですね。セレスが迅速に対応したおかげでしょう。持つべきはコネです。
そして勇者は王子でした。彼の暴走が始まります。
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