28話:厄介な来訪者
「美味もぐ……これも美味もご」
喋りながら食べるという器用な芸当をアレク達に見せ付けるその少女はエスメラルダと名乗った。
ベルが用意した食事をあっという間に平らげると、足りないと言いだし、結局アレクの分まで手を付けていた。
「ふう……やるわねあんたの召使い! どう? うちに来ない? 召使いごと雇ってあげるわ!」
「ええっと……遠慮しておきます」
「……あんた私が誰か分かってるの?」
そう言うとエスメラルダがビシッと、アレクへとその細く綺麗な人差し指を突きつけた。
「いえ、全然。ハイエルフで、エスメラルダっていう名前である事しか分からないですね」
「そんだけ分かれば十分よ! というかあれ……? 私、ハイエルフだって名乗ったっけ?」
エスメラルダが首を傾げた。
「王都にただのエルフが来るとは思えないですし、何より着ている服が上等です」
「ふーん、やるじゃない。よく分かったわね、その通りよ。ちょっと会いたい人がいてね、お友達のセラフィちゃんに会いに行くって名目で王都に来たのよ! お忍びで来たから今頃、里も大騒ぎでしょうね!」
楽しそうにエスメラルダが笑うが、アレクは乾いた笑いしかでない。なぜなら――
「セラフィちゃんって……まさか第二王女のセラフィ様の事ではないですよね……?」
「この国に他にセラフィなんて名前の子いるの?」
第2王女のお友達。エルフ族の王族といわれるハイエルフ。
アレクは嫌な予感が的中している事に、溜息をついた。
「ここに来ていることは?」
「当然誰も知らないわ!! 王宮も今頃てんやわんやになっているかも」
「わざわざお忍びで王都に来て、誰に会いに来たの?」
サンドラが不思議そうにそうエスメラルダに聞くが、既にアレクは答えを知っていた。
「アレクって宝石師よ!!」
「うん……そうでしょうね」
店の前に倒れていたし、気絶する前に自分の名前を叫んでいた。それだけで十分なのだが……なぜ彼女は目の前にいる人物がそのアレクであると気付かないのだろうか。
アレクは凄く嫌そうに、口を開く。
「……僕がアレクですよ。さっきも名乗りましたけどね……」
それを聞いた途端、エスメラルダが椅子を蹴飛ばす勢いで立ち上がった。
「なななな……あんたがそうなの!?」
「はい」
「ずいぶんとちっこいわね……レガードやセレスの話だとなんか凄い奴っぽいイメージだったのに」
「セレスさんに……レガードさん!?」
その意外な名前に、思わずアレクが声を出してしまう。
「なんせレガードに、あんたを頼れと言われたからね。というわけで、アレク、私の里を救いな――」
エスメラルダが言葉を言い切る前――気絶した。
「っ!! ベル!」
そのままエスメラルダが後ろへと倒れるのを、ベルが素早く受け止めた。
「何が起こったの!?」
驚いて毛を逆立てていたサンドラが声を上げるも、アレクは首を横に振るしかない。
「分からない。なんでまた気絶したんだ……?」
「……マスター。彼女のマナの流れとパターンを計測していましたが――異常値を検出しました」
エスメラルダを抱えるベルが無表情でそんな事を言いだした。
「異常値?」
「はい。結論から言いますと、彼女は――生命維持の為のマナの消費が異常に多いのです。通常の人間ならば食事や呼吸によって得るマナで事足りるのですが……彼女の場合はそれによる摂取と消費のバランスが釣り合っておらず、結果としてマナ枯渇症の症状が発症し、マナが急速に減った結果、気絶した――と推測されます」
「マナ枯渇症……」
数百万人に1人の割合で発症すると言われるマナ枯渇症。それが発症すると、常に飢餓状態になり、少しでもマナの摂取――食事などをおこたるとすぐに気絶し、最悪死に至るほど厄介な症状だ。
「なぜ……そんな子が僕を?」
「分かりませんが……いずれにせよ危険な状態です」
「ここで死んじゃったら……まずくない?」
サンドラの言葉に、アレクは冷や汗を掻く。
「いや、滅茶苦茶まずいよ」
王女の友人で、エルフの王族。どう考えても厄介事の予感しかない。
アレクが、どうしようか迷っていると――
扉が勢いよく開いた。
「っ!!」
「――王都騎士団だ! 全員動くな!!」
扉から、騎士達が雪崩れ込んでくる。
それを見たベルが戦闘モードに移行しようとするが、アレクが鋭い声を出す。
「みんな動かないで! 抵抗したらダメだ!」
サンドラは答える代わりにアレクの肩の上に昇ると首にぺったりとくっついた。
「……了解」
ベルが渋々構えを解いて、両手を挙げた、
「全員、王族拉致の容疑で捕縛する! 連れて行け!」
こうして、アレク達は王国騎士団によって捕らえられてしまった。
ややこしい事になりそうですね。
次話は勇者視点に入ります。
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