26話:勇者達は帰還する(追放者サイド)
王都北部――リュエン街道
「……くそ……くそ……」
王都へと向かうその馬車の中に会話はなかった。
勇者ジェミニは馬車が揺れるたびに痛みに顔をしかめ、苛立ったような独り言を呟く。
馬車に乗っているのは、ボロボロになったジェミニと、賢者ラース、そして聖女マリンだけだった。
なけなしの金で馬車を貸し切りにしたのは、惨めな姿を他者に見せたくないせいだろう。
「なんで……どうして……」
そればかり呟くジェミニに、苛立ったラースがついに声を上げた。
「ジェミニ、王都に帰ってどうするつもりだ? おめおめ、負けて帰ってきましたとでも報告するつもりか」
それは賢者であるラースらしからぬ、棘のある言葉だった。既に精神安定のマテリアは割れて効果を為していない。ラースは狂いそうな精神を何とか抑えつけていたが、もう限界だった。
「ふざけるな! 俺は負けてない!! 俺は……俺は!」
「これが負けじゃなくて――なんだ?」
「アレクを追放したせいよ」
マリンが吐き捨てるようにそう呟いた。分かっている。原因は明白だ。
マテリアに頼りすぎていて、かつその扱いを雑にし、あまつさえそれを管理していた人間を追放したのだ。
ジェミニだけではない。それを良しとし、黙認したラースとそして自分にも責はある。
「遅かれ早かれこうなるのは必然だったのよ……」
「ふざけんな! 俺はこんな事聞いてないぞ! あいつは効果が永続すると言った!!」
「だが……壊れないとは言っていない……だろマリン。ああ……もうダメだ終わりだ……おしまいだ……」
ラースが頭を抱えた。
「追放する直前に、アレクはメンテナンスについて言っていたのに、ジェミニ、貴方は聞く耳を持たずに剣を向けた」
「……俺が悪いってか」
「そうじゃない。悪いのは全員よ。だから、アレクを探して……謝ってもう一度パーティに入ってもらいましょ。それしかないわ」
マリンはそこまで言って、溜息をついた。ジェミニが……プライドだけは1人前の彼が、その発言に対しどう反応するかは予想がついていた。
「――もう一度言ってみろマリン。俺があいつに、謝る? ふざけんな!」
「何度でも言うわ。全員で頭下げて、アレクに戻って来てもらう。マテリアを作り直してもらって、以降はちゃんと対等なメンバーとして扱う。ジェミニ、貴方アレクに払うはずの給与、横取りしていたでしょ」
「違う! あれは……必要経費だ」
「……はっきりと言わせてもらうわ。もしアレクが戻って来ないのなら――パーティは解散よ」
そう言って、マリンは黙り込んだ。ラースはブツブツと独り言を馬車の幌に向かって呟いている。
ジェミニがいくら怒鳴ろうと剣を抜こうと、2人は何も変わらなかった。
「……くそ! 分かったよ! アレクを連れてくれば良いんだろ!!」
ジェミニには、この2人をアレクのように追放できない理由も、パーティを解散できない訳もあった。だからこそ、アレクを連れ戻すという絶対に認めたくない事を飲んだ。
ゆえに――ジェミニの中で、アレクに対する見当違いな怒りと憎しみが蓄積していく。
あいつのせいで、俺はこんなに惨めな思いをする羽目になった。
許せない……許せない!!
もしパーティ復帰を拒否するようなら――首輪と鎖を付けてでも引っ張ってきて、一生マテリアを作って直すだけの奴隷として扱ってやる。
アレクに首輪と鎖を付ける暗い妄想をして、ジェミニはようやく笑顔を取り戻したのだった。
ジェミニの視界に――王都が見えてきた。
勇者、王都に帰還。ひと悶着ありそうですね。
次話から、勇者ざまあの最終章が始まります。
お陰様で、日間総合2位まで来ました! 応援感謝です!!
せっかくなので1位を目指して頑張りますので更なる応援よろしくお願いします!
応援するぜ! という方は是非ともブクマと評価をしていただければ幸いです。めっちゃ頑張ります!
ブクマはページ上部もしくは↓ 評価は広告下の☆☆☆☆☆を★★★★★をするだけです!
よろしくお願いします! 面白くなかったら★一個にしましょう!




