19話:台風のような人
「え、S級冒険者!?」
「んあ? 別にそんな大したことねえぞS級なんて。ま、あたしは凄いけどな! がっはっは! あ、コーヒーおかわりよろしく」
カウンターに座り、遠慮無く3杯目のコーヒーを催促するディアナに、アレクは苦笑する。
「でも、良いんですか。彼女は、ディアナさんの人形ですよね?」
甲斐甲斐しくコーヒーを入れるベルを見て、アレクがディアナに問う。
「構わねえよ。その代わりにちと提案があるんだが」
「提案?」
「あたしと大口契約を結ばないか?」
コーヒーを飲みながらディアナがそう言って、ニヤリと笑った。
「アレクは知らねえかもしれないが、あたしには【紅百の機手】っつー二つ名が付いていてな。その名の通り、型は違うがこのドレッドノート……ああ、ベルだったか? そう、このベルと同じような人形をあたしは――100体所持している」
「100体!?」
「かはは……99に減っちまったから二つ名が変わっちまうな!」
なぜか楽しそうにディアナが笑う。
「ま、そんなわけでそれだけ使っているんだが……なんせメンテと修復が大変でなあ。一応あたしもある程度は出来るんだが、ベルを見る限り……アレク、魔力珠……いやここはそっちに合わせてマテリアと呼ぼうか。それを扱う宝石師として、お前はあたしよりも数段上だ」
「マスターは優秀です」
「あ、それあたしが言おうとしたのに!」
サンドラがセリフをベルに取られた! と騒いでいる。
「いや……でも僕以外にもマテリアを扱える人がいてびっくりです。このマテリアは……ディアナさんが作ったわけではないですよね?」
「ああ。ドレッドノートもマテリアも……発掘品だ。あたしはそれ使えるように修繕、カスタムしただけだよ」
かつて……気が遠くなるほどの昔、人類は今より遙かに高い文明水準と技術を有していたという。時折遺跡からその時代の遺物が発掘されるそうで、それをA・A――エンシャントアーティファクトと呼ぶそうだ。
そう、ディアナから説明を受けたアレクは納得した。
なぜならベルは――今の時代の技術では再現不可能な機構とマテリアを保有している人形だったからだ。
「つーわけで、100体もいると、もうメンテナンスだけでも大変なんだ。だから、そのメンテナンスとマテリアの修復をお前に任せたい」
「なるほど……それで大口契約、というわけですね」
「その通り! 一体ずつ時間を置いてこさせるから、メンテと修復頼むぜ。あとは、マテリアのカスタムもついでにお願いしたい。依頼によっては必須なマテリアがあるんだが、あたしの手持ちは少なくてな。メンテで行かす奴にあたしが希望するマテリアを伝えておくから、それをレンタルとして付けておいてくれ」
「上手な使い方だと思いますよ」
「で、肝心な金だが……レンタル料込みで、1回につき――10万ゴルド出す」
「凄い!! アレク受けましょう!」
サンドラが金額を聞いて目を輝かせた。少なくとも、今後定期的に10万ゴルドが手に入る仕事だ。
店的にはとてもありがたい話だ。
「良いのですか? 結構な金額になりますけど」
「商売道具だからな。ケチるところじゃねえ。なんならもっと出しても良いぜ?」
「いえ、10万ゴルドで結構ですよ。きっちり仕事させてもらいます」
そう言って、アレクが契約書を用意しはじめた。その手に淀みはない。
おそらくこういう契約が来ることを想定していたのだろうとディアナは推測する。
「くくく……良いねえ。将来が楽しみだ。ああ、そうだベルは正式にアレクに譲渡する。つーかあたしはそもそも、再起動はともかく初期化は出来ないからな。もうあたしの命令も聞かないだろうし返してもらっても困るってのが本音だ。店番させても良いし、何より最高の防犯装置になる。この店は否が応でも有名になるから、セキュリティは万全にしといて損はない。その点、ベルは完璧だ。そこらのA級冒険者にだって負けないぜ」
「ふふふ……ありがとうございます――では、こちらの書面を確認して、サインを」
「あいよ」
男っぽい口調に仕草だが、ディアナはそれに似合わず達筆で、書かれたサインはとても美しかった。
「うっし。じゃあ、また近々うちの人形寄こすからよろしくしてくれ。じゃあな! コーヒーごちそうさん」
そうしてあっという間にディアナは去っていったのだった。
「なんか……台風みたいな人」
サンドラの独り言に、アレクは心の底から同意した。
こうしてアレクは、王都でも指折りの冒険者であるディアナのお抱え宝石師となったのだった。
その噂は瞬く間に広がり――冒険者と騎士達が連日、店にやってくるようになるのに、それほど時間は掛からなかった。
というわけで、大口契約ゲットです。
次話でいよいよアレクが目を逸らしていた事態? についに直面します。
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