16話:這い寄る人形
王都――魔石屋アレキサンドライト
「ふふふ……アレクよ、ヘリオが大喜びだったぞ」
セレスの剣のマテリアの摩耗度を確認していたアレクに、セレスがカウンターの上に寝そべるサンドラのお腹を撫でながら、嬉しそうにそう報告する。
セレスは定期メンテナンスの為にアレクの店を訪れていた。
「ローンを組んででも買いたいと仰ってくれたのでそうだと思いましたよ」
「払い終わるのは来年かな? うちは安定しゅーにゅーになるのでありがたい!」
サンドラはセレスに撫でられるままにされており、気持ちよさそうな表情を浮かべている。
「廃墓地の浄化を一気に済ませ、かつ上位アンデッドを単独で討伐したヘリオは高く評価され、団内での序列も上がったからな。問題なく払えるだろうさ。万が一何かあれば私が払う」
「ヘリオさんなら大丈夫ですよ。でも、良かったです。マテリアウェポンの有用性が確認出来ましたし」
アレクがそう言いながら剣からマテリアを取り出すと、慎重に専用の布――魔力伝導率が高い素材で出来ている――を使って、丁寧に磨いていく。少しずつ魔力を通し、マテリア内に生じた無数の小さなヒビを修復していく。
「それなんだがな、まだ先になると思うが、1本作ってもらいたいのがある。そういうオーダーも出来るのだろ?」
「勿論です。それがむしろメインになりますね。お客様の要望を聞いて、それに添ったマテリアウェポンを作成するのが本来の流れですから」
「なるほど。また話をさせてもらうよ」
「はい。メンテナンスはこれで終わりです。セレスさん、ちゃんと教えた通り毎日メンテナンスやっているようですね。大きなヒビも無く、新品同様に戻りましたよ」
「不器用ながらもやってるよ。武具の手入れを毎日するのは騎士の基本だからな」
「それが出来ない馬鹿がいるのよねえ。誰とは言わないけど」
サンドラがそんな事を言いながら、自分達を追いだした男の顔を思い浮かべた。
「大丈夫かなあ……メンテナンスしてればいいけど」
「してない方に、今日のおやつを賭けるわ」
「じゃあ僕もそっちに」
「賭けにならないじゃない」
アレクがマテリアを再び剣に埋め込むと、セレスに手渡した。
「これで、1か月ぐらいはまだ平気でしょう。もし万が一、大きなヒビが入ったら絶対に使わず、すぐに持ってきてください。マテリアは成長します。もし壊れたら、また1から育て直しです」
「成長する?」
「はい。とはいえ、ゆっくりなので、中々効果は実感しにくいですが」
「なるほど……気を付けておくよ。ああ、そうだ。昨晩、この近辺でS級冒険者が暴れ回っていたらしい。なんでも、賞金首が近くに潜伏しているとか……。まったく、迷惑な話だ。賞金首も捕まっていないみたいだしな。アレクも気を付けておくことだな」
難しい顔をしたセレスさんにアレクが聞き返す。
「それはどちらに気を付ければ良いのです? 賞金首? それとも――冒険者?」
「――両方だよ。では、また」
そう言って、颯爽とセレスさんが去っていった。
「賞金首だってさ! アレク、探しにいってみる!?」
「なんでだよ。僕は戦うのは嫌だし、気を付けろと言われたところでしょ」
アレクはとりあえず戸締まりはしっかりしようと思ったのだった。
☆☆☆
その日の深夜。爆炎が上がり、屋根が破砕される音が響く。
アレクの店のある路地に、小さな人影が落ちてきた。
地面に落ちたそれは、悲鳴も苦悶の声も上げることなく、顔を持ち上げた。その両足はぐちゃぐちゃになっており、歯車やバネといった機構が破れた皮膚から覗いている。
それは――少女の形をした人形だった。
銀色の髪の毛が月光を反射し、ガラス玉のような瞳には微かな赤い光が宿っている。その顔は怖いほどに整っており何の表情も浮かべていなかった。
人形は腕だけでズリズリと這って、前へと少しずつ進んでいく。
「稼働率20%まで低下――魔力供給及び修理が必要と判断――スキャン開始――大量の魔力珠の反応有り――」
少女の赤い瞳の先には――可愛らしい獣がモチーフとなった看板の店があった。
その看板にはこう書かれていた――【魔石屋アレキサンドライト】、と。
ヘリオさん、男気一年払い。そして……新たな客? の登場です。
冒険者についてはもう少し後で色々と出てきますが、市井の人々には嫌われていたりします。英雄視する若い人も多いそうですが……。
更新はよ、続き気になる、おらもっと書けやごらぁ!
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