14話:不死狩りヘリオ
王都の北、エンデルヘア大霊園、通称――〝廃墓地〟
「よし、ではペアに別れ、各自アンデッドを撃破するように! 俺はここで待っているので何かあればここに戻ってくるように」
監督役である唯一の上位騎士の言葉に、ヘリオ達下位騎士が2人組になり、薄らと霧のかかる薄暗い廃墓地へと進んでいく。
「ううう……私、こういう雰囲気苦手なんですよ……大体あいつズルいですよ! 入口で待機って!」
そう言って、そわそわしているのはヘリオのさらに後輩である女騎士であるネフラだ。茶色の短髪で、凜々しい顔付きも相まって一見すると中性的に見えるが、今は見えない影に怯える少女にしか見えない。
「僕は、1人で入口で待つ方が嫌だけどね……ふふふ……だけど心配ない。アンデッドなら僕に任せろ、ネフラ」
「なんでそんな自信満々なんですかヘリオ先輩……。一昨日まで、アンデッドなんて嫌だああって叫んでたじゃないですか」
「今日の僕はひと味違うのさ」
そう言って、ヘリオはアレクの店からレンタルしたマテリアウェポン――【十字架槍】を構えた。銀色の刃と埋め込まれたマテリアがキラリと光る。
「なんか雰囲気のある槍ですね。そんなの持っていましたっけ」
「ま……まあな!」
後輩の手前、金が足りないからレンタルしたとは言えないヘリオだった。
そんな風に会話する2人の前の霧から、黒い影の群れがゆっくりと出てきた。
腐臭を漂わせるそれは、歩く腐乱死体――ゾンビだった。それが少なくとも、10体以上はいる。
「で、でたああ!! 言っときますけど私、魔術はからきしですからね! 一応火属性のアイテムは持ってきましたけど!」
及び腰のネフラの前へとヘリオが出る。
そしてそのまま、槍をゾンビへと突き出した。
「ギャアアア!!」
穂先がゾンビを貫くと同時に、ゾンビの身体が炎上。
「おお! 火属性付与の魔術ですか!? いつのまに……」
「違うぞ、ネフラ――これは元から火属性が付与されているんだ! つまり【エンチャントフレイム】の永続版さ!」
「そんな武器……あるんですか?」
「これが証拠さ!」
ヘリオが慣れた手さばきで、次々とゾンビ達を突いていく。突くたびに炎が上がり、ゾンビ達が灰になる。
「凄い!」
「だろ?」
と言いつつヘリオは心の中で、改めてあの店主の凄さを感じていた。
とにかく、アンデッドを狩るのが快適だった。
まず、槍というのが良かった。特にゾンビは体液や爪に毒が含まれている。近付いて攻撃するだけで、それを喰らってしまうリスクがある。だが、槍であれば近付く前に倒せるのでその心配がほぼない。さらに槍自体が、かなりの業物であり、訓練用の槍とは使いやすさが段違いだった。
おかげで、この槍であれば一方的に攻撃をし続けられるのだ。
そして万が一に備えて【耐毒】と霊体系の魔物が使ってくる呪詛を無効化する【耐呪】がある。
「負ける気がしないな!」
「あっ! 先輩、あれ!」
前方で悲鳴が上がる。そして、騎士達がこちらへと逃げてくるのが見えた。
「に、逃げろ!! ダークレイスが!!」
「くそ!! なんでこんなとこにあんな奴が!!」
「お前ら、早く入口に行ってこの事を報せ――ギャアアア!!」
1番後ろにいた騎士が、喋っている途中でその首が飛んだ。
「あれは……先輩まずいですよ!」
「見れば分かる!」
それは黒いローブを羽織った骸骨――ダークレイスだった。宙に浮いており、縦横無尽に大鎌を振って騎士達の首を刈り取っていく。
一部の騎士が反撃しようと武器を振るうが、その半透明の身体を通り抜けてしまう。
「ダークレイスは上位アンデッドですよ! 聖属性魔術で実体化させないとダメージすら与えられません!」
ダークレイスは本来なら高位の聖職者や魔術師がいないと勝てない相手だ。普段のヘリオなら逃げる事しか考えていなかっただろう。
だが、ヘリオは不思議と冷静だった。
このまま逃げたところで、このダークレイスはどこまでも追ってくるだろう。王都に戻る事はどうせ出来ないのだ。
ならば――
「僕が……倒す」
「ダメですって先輩!! いくら火属性が付与されていても、当たらなければ意味がありません!」
槍を構え直したヘリオを見て、ネフラは自殺行為だと思った。聖属性魔術は聖職者にしか使えない魔術であり、目の前の先輩が聖職者であったという話は聞いた事がない。
そもそも高位の聖職者の魔術でなければ意味がない。仮に付け焼き刃の聖属性魔術があったとしても無駄だ。
なのに、なぜか普段は頼りないその背中が――ネフラには大きく見えた。
ダークレイスがヘリオへと迫る。
「&%ギ$&ガ%$」
ダークレイスが耳障りな声と共に黒い呪詛をまき散らした。それに当たれば、耐性のない者は呪われて発狂してしまう。
「先輩!!」
しかしヘリオは動じない。槍の柄にあるマテリアが淡く光り、呪詛を無効化していくのが見えたからだ。
「亡者よ、光鎖に絡まれし獄者よ! 我が聖なる領域にてその姿を現せ!――【ホーリーフィールド】!」
ヘリオが詠唱しながら目の前に迫るダークレイスへと槍を向けると、穂先からまばゆいほどの光が放たれた。すると彼を中心とした地面に魔法陣が現れ、何本もの光の鎖がダークレイスへと絡まっていく。
「ギュ%$#%ア&%$アア!!」
もがくダークレイスの身体が、実体化していく。
「う……そ。あんな上級聖属性魔術を……?」
「トドメだ!!」
ヘリオが崩れた墓石を蹴って、飛翔。光鎖に雁字搦めにされ、動けなくなったダークレイスの頭部へと槍を突き刺した。
槍から炎が爆ぜ、ダークレイスが炎上。
「ギュ%&$ア……」
廃墓地を覆っていた霧――この墓地に溜まっていた負のエネルギー――がダークレイスへと集束していき、そして火の匂いだけを残し、ダークレイスが消失。
霧が晴れ、陽光が廃墓地に降り注ぐ。それによって、アンデッド達が断末魔を上げながら浄化されていった。
「ふう……」
槍をくるりと回し地面に立てたヘリオは、大きく息を吐いた。
まさか、本当に倒せるとは思わなかった。
「……先輩!! 凄いですよ!! たった1人でダークレイスを倒すなんて!!」
ネフラが背後から抱き付いてきて、ヘリオはようやく我に返った。
「あ、ちょ、くっつくな!」
そして他の下位騎士達もヘリオの下に集まってきた。
「すげえな! お前いつからあんな聖属性魔術使えるようになったんだ!?」
「てめえ! 実力隠してやがったな!」
「マジで尊敬っす!」
周りの騎士達から賞賛の声を浴びて、何よりネフラから熱っぽい視線を受け、ヘリオは槍のレンタルを延長する事を決意したのだった。
この事件によってヘリオは【不死狩り】という二つ名を付けられ、彼の代名詞的な武器として【十字架槍】の名が王都に広まる事になった。
それと共に、その制作者であるアレクとルベウスの名もまた徐々に広まるのであった。
本来なら使えない上級聖属性魔術も使える辺り、かなりチート武器です。ヘリオ君にも春が来たので、レンタル料は安いもんです。
あとどうでもいい話ですが、王国騎士団の中でも【蒼の獅子】はセレスの存在もあって、女性騎士が他に比べかなり多いです。といっても、10人にも満たないのですが……。
更新はよ、続き気になる、おらもっと書けやごらぁ!
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