10話:恐怖を乗り越えて
「ふぅ……ふぅ……」
ルベウスが大きく息を吸いながら火炉に火を入れていた。ハンマーを握る手が汗ばむ。脳裏にあの悪魔がよぎる。
「やっぱりダメだ……」
火炉の中で火が大きくなるにしたがって、ルベウスの声が弱まっていく。
「僕を……僕のマテリアを信じてください。熱は感じられても、もう火がルベウスさんを傷付ける事はありません」
ルベウスの後ろにいたアレクがそう言って、ルベウスの肩に手を置いた。
「くそ……年下にそんな事を言われたら引き下がれねえじゃねえか」
ルベウスが、火炉の熱による汗では決してない、大量の脂汗を額に浮かべながら、火を見つめた。
火の中で黒い影が踊っている。それはやがて悪魔の姿になり、あの灼熱の刃を自分へと突きつけてくる。もう完治したはずの左腕が疼く。
怖い。
怖い。
なんで俺は――こんな事をしなきゃならないんだ。
「はあ……はあ……クソ!」
「大丈夫です。既にルベウスさんは火を克服しています。例え、あの火炉に腕を突っ込んでも……痛みすら感じませんよ」
「信じられるかよ!」
「信じてください!」
「くそ!! どうなっても知らねえからな!!」
ルベウスが鍛冶バサミで、熱していた鉄の棒を火炉から取り出した。しかし手が震えて、鉄の棒が作業台である金床に落ちる。
「っ!!」
パッと火花が弾ける。
しかしルベウスは顔を庇うのも忘れ、その火花に魅入られてしまった。火花をまともに受けた左腕には何の痛みも感じず、火傷している様子もない。
ルベウスは見た。ハンマーの柄に埋め込まれた宝石から淡い青い光が放たれた瞬間を。まるでヴェールのように自分を覆って、火を打ち消すその光がルベウスには――救いの光に見えた。
これならば……火は怖くない。
そこからは、身体に染み付いた、鍛冶職人の本能とでも言うべきものにルベウスは身を任せた。
鉄の棒を鍛冶バサミで掴み、ハンマーで叩く。火花が散り、甲高い音が鳴り響いた。
その感触。音。
それは……こんなにも――心地の良い物だったのか。
「ははは……アハハハハハ!! 俺は……俺は……! 何を怖れていたんだ!!」
ルベウスはアレクの存在も忘れ、鉄打ちに夢中になっていた。
そんな彼を邪魔をしないように、アレク達は少し離れた位置に移動する。
「――【耐火】のマテリア、こんな使い方もあるのね、アレク」
「うん。思い付きだけど、上手くいったみたい」
アレクがルベウスのハンマーに埋め込んだのは【耐火】のマテリアと呼ばれる物で、使用者に火属性無効化の効果を付与する。
あのハンマーを握っている限り、地獄の業火であろうとルベウスを焼く事はできない。
だがずっと燻っていたルベウスの中の鍛冶職人魂には――火が付いたようだ。
「良い看板、作ってもらえそうね」
「うん」
その後、力尽きるまで鉄を打ち続けたルベウスを、2人はずっと見守っていたのだった。
マテリアは戦闘用途以外はないと考えていたアレクでしたが、この一件のおかげで何か閃いたようです。
次話で、看板、そして店名のお披露目です!
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