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9話:火を怖れるな


「……元、鍛冶職人だ」


 ルベウスがアレクを睨む。


「もう打ってないんですか? あの包丁、凄く丁寧に作られていて、素晴らしいと思いましたが」

「ちっ……小僧に何が分かる」


 ルベウスが苛立った声でそう吐き捨てた。


「アレクは宝石だけじゃなくて武器とかアイテムとかも鑑定出来るわよ!」


 サンドラの声を聞いて、ルベウスがウザそうに手を払った。


「鑑定はできるかもしれねえがな、人の心の機微までは見えてねえぞ小僧。俺はもう鉄は打たねえ。話は終わりだ」


 アレクは黙っていた。ルベウスが手を払った時に、袖口から一瞬、腕に酷い火傷の痕があるのが見えたせいだ。


 これもまた鍛冶職人に聞いた話だ。一流の鍛冶職人は炎に魅入られるか、それとも飲み込まれるかの、どちらかになるという。そして飲み込まれた者は……2度と鉄を打てなくなるそうだ。


 もしかしたらルベウスさんは……。アレクは自分の推測に確信を得るも、そこまで踏み込んで良いのか迷っていた。


 別に、看板をここで作ってもらう必要はない。


 だがアレクは先ほど、本心からルベウスが作った包丁を褒めていた。鑑定眼を使わなくても分かる。あれは、職人が魂を込めた逸品だった。だからこそ――お店の顔ともなる看板を……下手な職人には作って欲しくないという気持ちが強まってしまったのだ。


 昔のアレクならきっと引き下がっていただろう。だが、仮にも一店舗の主となったアレクは少しだけ成長していた。


 結果として――アレクは踏み込んだ。


「ルベウスさん――貴方、火が……()()()()()()

「っ!! お前!」


 ルベウスが椅子を倒して、立ち上がった。その茶色い目には驚きと怒り、そして恐怖が混じっていた。


「飲み込まれたんですね」

「なぜそれを」

「火傷の痕が見えました。すみません……気に障ったようなら謝ります」

「はぁ……。どうもただの小僧じゃねえようだな。その通りだよ……」


 ルベウスが溜息をつくと、諦めたように力無く椅子に座り直し、煙草を吸い始めた。


 その目は揺れる紫煙の向こうを見つめていた。


「俺は、有名な鍛冶職人の下で修行していてな。幸い俺には才能もあったし、師匠も全力でぶつかってくれた。おかげで王都で最も将来有望な鍛冶職人……なんて言われてたこともある。だけどな……俺は驕っていた。ある日……大貴族からの依頼があってな。気合いを入れて鉄を打っていたんだ。もしかしたら、お抱えの職人になれるかもしれないという邪念に目がくらんでいた」


 ルベウスはそこで一旦言葉を止め、煙を吐いた。


「俺は力を入れ過ぎて、ハンマーを打ち損ねた。跳ねた剣が俺へと飛んできた時、俺はその灼熱の刃に――悪魔を見たんだ。……気付けば、俺は左腕を大火傷して倒れていた。それからだよ……火が怖くなっちまってな。笑えるだろ? 鍛冶職人が火を怖れるなんてな……。包丁ぐらいなら打てるだろと師匠に言われて、打ってみたんだが……。それも馬鹿らしくなってな。こうして親父の実家を継いで金物屋をやっているんだ」

「僕は……笑いませんよ」

「あたしも」


 アレクとサンドラの真剣な表情を見て、ルベウスが笑った。


「ははは……お前らは変な奴だな。流石はあの爺が店を譲っただけはある。すまんが、俺にはもう鉄が打てない。看板はよそで作るといい。何なら紹介状を書いてやろう」


 諦めきった表情のルベウスを見て、アレクはとある考えが浮かんだ。


「――ルベウスさん。もし、それを僕が何とかしたら……看板を作ってくれますか?」

「……はあ? 無理だよ。何年俺がそれに時間を費やして、そして無駄にしたと思っているんだ。大きな火を見るだけでもうダメなんだよ」

「鍛冶に使うハンマー、貸してくださいませんか?」

「あん? それは構わねえが」


 そう言って、ルベウスが奥の作業場から鍛冶用のハンマーを持ってきた。それはいつでも使えるようにとピカピカに磨いてあった。


 やっぱり……ルベウスさんは諦めていないんだ。


 アレクは無言で頷くと、持ってきていたマテリアを1つ取り出した。青い三角形のそれをハンマーの上に乗せるとアレクは魔力を込め、柄へと埋めこんだ。


「なんだそれ……見たことねえ」

「ルベウスさん、騙されたと思って、このハンマーを使って何か打ってくれませんか?」

「……どういうことだ」

「火が怖いのは、それをそうと感じてしまうからだと思うんです。だからそれさえ克服出来れば……きっと前と同じように打てるはずです」

「おいおい……今ので、火が怖くなくなるってか? バカバカしい」


 ハンマーを握るルベウスが信じられないとばかりに声を出した。アレクは息を大きく吸うと――


 ルベウスの手にあるまだ火の付いている煙草を奪って、ルベウスの手の甲に押し付けた。


「っ!! 何しやがる! 熱……くない?」


 ルベウスが目を丸くした。煙草を押し付けられたはずの手の甲には火傷の痕すらない。


「――ルベウスさん、やってみましょう」


 アレクのその言葉に――ルベウスはなぜか圧倒されてしまったのだった。


サンドラ曰く、商人モードのアレクはちょっと怖い……だそうです。

大人顔負けの交渉力を発揮しますが、基本的に悪い事には使いません。多分。


更新はよ、続き気になる、おらもっと書けやごらぁ!


と思ったそこの方、是非ともブクマと評価をしていただければ幸いです。めっちゃ頑張ります!

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よろしくお願いします! 面白くなかったら★一個にしましょう!

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興味ある方は是非読んでみてください!
― 新着の感想 ―
[一言] 看板すら掲げてないのに店舗の主気取りで気が大きくなるって……展開はいいのに辻褄合わせの強引さがやたら目立つ
[一言]  火耐性か炎熱無効? いや、そんなことより、タバコを肌にィイイイイッ!?
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