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神奈川区画四十八区「ストレイキャッツ」本部、俺達はここで落ち合った。
「ジョーカー! 無事でしたか! 警備隊がばらばらに逃げた私共を全く追っていなかったので、全部ジョーカーの方へ行ったのではないかと……」
「俺は大丈夫だ。それよりも皆無事で良かった」
全員、誰一人として怪我をすることなく作戦を終えることが出来た、この事実がグループにとって大きな収穫になる。
俺達は今まで「死なぬ、殺さぬ」をモットーに活動をしてきた。
人間なんてものは死んでしまったら何もかも終わりなのだ。
俺が貧民街のグループをつくると満月に言った時に、満月が提示してきた条件の一つがその目標だった。
「それぞれ成果報告を聞かせてくれ」
俺たちの隊とは別に、赤坂隊、柊隊に部隊を分けて同時に三箇所の銀行を襲った。
「赤坂隊はだいたい七百万ぐらいだな」
「柊隊は三百万ぐらいだね。あんまり溜め込んでなかったようだよ」
「俺たち本隊が五百万、合計は千五百万円程度か……」
依然として資金不足には変わりないが、幾らかマシにはなるだろう。
俺はふぅと一息つくと立ち上がった。
資金は手に入ったのだから、次は武器と移動手段と連絡手段を確保する必要がある。
全て都心に乗り込むには必要になってくる物だ。
特に連絡手段の確保は人数の多いグループの指揮系統の維持にはなくてはならない物だろう。
戦争の鍵を握るのは連絡手段の充実だ。
「それにしても何であんなにすんなりと計画が進んだのですか?」
そう言ったのは、俺と同じ班だった異能力高火力隊の一人。
そういえば幹部会では詳細を説明したが、隊のメンバー一人一人には各隊の動きしか教えていなかった。。
「俺達の班が担当していたのは作戦のほんの一部だ。俺達が担当したのは銀行を襲う、金を取る、ここまで逃げるの三段階のうち、取るだったんだ。通常兵器隊には襲うを、隠密機動隊には逃げるを任せていた」
「通常兵器隊は何を襲っていたのですか?」
「あぁ通常兵器隊の五十班を二班ごとに二五のグループに分け、埼玉区画の周りからちょっかいをかけさせた。ちょっかいと言っても、軽く交通渋滞や電波障害を起こす程度だがな。それでも都心警備隊は動かざるを得ない、騒ぎが増えれば増えるほど埼玉区画内に配備されている警備隊は数が足りなくなり、必然的に銀行に駆けつける警備隊の数は少なくなる。最悪到着を遅らせることさえ出来ればそれで良かったからな」
「そうか、だから警備隊が駆けつけるのが遅れていたのか……それじゃあ隠密機動隊は何をしていたのですか? 俺達が逃げる時に警備隊は追ってきましたよね?」
警備隊の数はそこそこいるだろうと予測し、通常兵器隊の全ての人員を導入したがそれでも足りなかったらしい。
予想以上に都心の警備網は厳しいな。
派手に事件を起こせば警備隊の気を引くのは容易いことだが、東京区画に政府直轄の軍がいると噂で聞いたことがあったので、念のために目立ちすぎる行動は控えさせた。
軍に出てこられれば武器もろくにない俺達は壊滅的な被害を被るだろう。
「隠密機動隊にはカメラの妨害、警報機の静止を頼んであったんだ。カメラは襲う予定だった三つの銀行の半径数キロメートルをダミーの映像に変え、俺達が逃げた先を追いにくくしてもらった。警報機は接続を切って、押しても警備隊へ連絡がいかないようにしてあった。その手の技術に長けたものがいるからな」
「そうだったんですね……」
他にも隠密機動隊は電話線を切ったり、裏口を開かなくしておいたり、実行日に不安要素になりそうな所はあらかた潰しておいてくれた。
彼らがいなかったら俺はともかく、能力のない者たちははすぐに駆けつけた警備隊によって亡きものにされていただろう。
「ジョーカー! 大変です!」
作戦の成功に喜んでいる俺たちの元に、一人の隊員が駆け込んできた。
明らかに様子のおかしい慌てぶりに、まずは水を飲ませて落ち着かせ、話を聞く。
「何があった?」
「茨城区画、栃木区画、群馬区画を縄張りにしているグループ『蓬莱』が千葉に攻め入ってきました!!」
蓬莱。
レッドナイツに匹敵するほど……いや、それ以上かもしれない程の力を持つグループだ。
三つの区画のグループ全てを従えた最強で最悪なグループ。
それが蓬莱。
自分達に歯向かう者は誰であろうと容赦はしない、手段も選ばない様な下衆の集まり。
だが実力自体は本物で、数年前には完全武装の都心警備隊を半壊させたという伝説まで残っている。
そんなグループが俺達を狙う理由。
出る杭は打たれるとは言われるが、貧民街で俺達の噂の方が流れていることが気に食わなかった、とそんな理由だろう。
「奴らは銃を使う。武器を持っていない通常兵器隊はすぐに神奈川区画の端へと退避、異能力高火力隊と隠密機動隊をかき集めろ!」
「了解しました、すぐにでも集めます」
銃を持った敵を相手に出来るのは能力者か、姿を眩ませることが得意な隠密機動隊のメンバーだろう。
その時突然の襲撃に慌て騒ぐ俺達にも聞こえる程近くで、銃声と呼ぶにはあまりにも大きすぎるほどの破裂音が鳴り響く。
空からはまるで雪が降るかのごとく、大量の紙が舞落ちてきた。
そこには宣戦布告の文が書いてあり、ストレイキャッツを潰しお前達の金を頂く、と記してあった。
「これは! まずいんじゃない!?」
「慌てるな満月。何者かが俺達の情報をあちらにリークしているようだが、とりあえず今は蓬莱の対処が優先だ」
一体誰がこれだけ少ない時間で彼らに金を盗んだことを伝えたのか。
いや違う、もっと前から俺達の情報は漏れていたと考えるのが妥当だな。
いつから漏れ、どこまで知っているのだろうか。