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Electro Signal  作者: 笹霧 陽介
第一章 貧民街統一
7/24

6

 それから更に二週間が経ち、俺達は着々と計画の準備を整えていた。

 そして今日はその計画の実行日。

「ストレイキャッツ」としては初めて都心へ喧嘩を売る記念日……は些か不謹慎かもしれないが、それでも東京地区の市民の記憶に残る日になるだろう。


「俺達は準備を整えて来た! 必ず成功させてみせて、俺達の強さを証明してやろう! 各自持ち場について作戦開始!」


 俺の合図により計画の第一段階が始まった。

 異能力高火力隊と俺は待機。

 ただその時をじっと待つのも作戦の一部なのだ。

 ちらりと珍しく腕につけた時計を見つめ、時間を見る。

 作戦開始から二十分が経過しようかとしていた。


「よし俺達の番だ。行くぞお前ら!」


 一斉に顔全体が隠せるようなマスクをつけ、埼玉区画十二区の銀行へと入って行く。

 ここ埼玉区画に来るのも何だか久しぶりな気もするが、あまり思い出したくもない記憶なので気持ちの悪いような、何とも言えない不思議な感覚だ。

 そういえばここからすぐ近くだったな。


「全員その場を動くなよ! お前、すぐにシャッターを下ろせ!」


 威嚇(いかく)用の銃が銀行員や来ていた客へと向けられながら叫ばれる。

 その場にいた者が悲鳴を上げ、逃げようとする者もいたがドアの前に立っている物騒そうな人を見てその足を止めた。

 銃を余程怖がっているのか、震える手で一人の銀行員がシャッターを下ろすボタンを押す。

 バサバサと激しい音を立てて、彼のすぐ側にあった山積みになっていた書類が雪崩を起こした。

 その銀行員の行動は明らかに不審だった。


「おい、お前! 何をしている! 早くこっちへ来い!」


「……ッ! 何でだよ! 何で警報機が作動しないんだ!」


 元レッドナイツのメンバーだろう、体格のいい男が警報機のボタンを連打する銀行員の襟を掴むと、人質が集められている待合い室へ投げ込まれた。

 続いて計画を二段階目へ移行すると、銀行へ入った十人のうち半分が金を漁り始める。


「ジョーカーこれで全部のようですね」


「まぁこのくらいの大きさならこれが全部か……少しでもあるだけマシだろうな」


 鞄いっぱいに金を詰めたものが全部で五つ。

 金額にして五百万円といったところだろうか。


「逃げるぞ! 中平(なかひら)頼んだ!」


 すぐに計画を三段階目へと進める。

 銀行から出ると裏路地を使って人目のないところへ行く。都心と言えども犯罪が全くない訳でもなく、こういう裏路地には誰も近づこうとはしない。


「それじゃあ行きますよ! 氷上移動(アイスライド)!」


 中平 楊泉(ようせん)の異能力は「雪華(スノウフラワー)」簡単に言えば氷を操る能力だ。

 正確には大気中の水を集め、凝固、つまり凍らせることができるため、雪や霧を創り出すこともできるらしい。

 俺と同じ物理現象を操る事の出来る貴重な能力者だ。

 この手の能力は制御が難しいのだが制御さえ出来ればかなり応用がきく。

 俺達は逃げる為に彼の能力を使っている。

 地面に張った氷の上をスケートの要領で、地面を滑るかのように移動することが出来る、何とも便利な能力だ。


「ジョーカー! どこまで逃げればいい!?」


「貧民街だ! 神奈川の拠点までこのまま逃げ切るぞ!」


 東京地区内とはいえども、貧民街はかなりの広さがある。

 全てを捜索するとなれば少しばかり時間がかかるだろう、その間に準備を整え、迎え撃つ!

 都心では全員がコードによって番号分けされている。

 そこらかしこにあるカメラによってコードを読み取ると、誰がいつどこで何をしたかまで秒の単位で詳細に記録されるていく。

 だがコードのない俺たちにとってはあまり関係のないことだ。

 カメラがない貧民街にさえ出てしまえば逃げ切れる。


「いたぞ! 殺して構わん! 撃て、撃て、撃てぇぇ!!!」


「範囲外に出たか……全員散開、絶対に死ぬなよ!」


 激しい銃声が路地裏に響き渡ると俺達は路地をバラバラに分かれて進んで行き、一人ずつ減っていく。

 追ってきている都心警備隊は、一般市民に危害を及ぼすと考えられる範囲での発砲は禁じられている。

 逆にいえば、一般市民ではない俺たちはいわば的。

 躊躇なく発砲してくる。

 依然として都心警備隊は俺のみを追ってきている。


「あいつが親玉だ! あいつだけを狙って殺せ!」


 なるほど、ジョーカーの名前はもう都心にまで広まっているということか。

 いずれ知られるとは思っていたが、ここまで早いとは嬉しい誤算だ。

 俺に注目が集まれば、他の連中は安全に逃げれるだろう。

 それにしても、都心の情報網は案外広いらしい。

 完全に鬼ごっこ状態になってしまったが、こんな所でやられてはリーダーの示しがつかない。

 彼らには少しの間、眠っていてもらおう。


重力変化(グラビティチェンジ)!」


 俺を追って来ていた警備隊の連中が暗い闇に包まれる。

 それは一瞬で、目で見えるか見えないかのレベルだ。

 重力変化。

 本来自然の中にある重力を変化させることなど出来るわけないのだが、俺は指定範囲内の重力を変化させることが出来る。

 俺の異能力「重力(グラビティ)操作(コントローラー)」は特に応用が難しく、師匠の教えが無ければ今でも簡単な重力の上下も出来なかっただろう。


「セブンスG!」


 何の訓練も受けていないような人間に七Gもの重力がかかれば、ブラックアウトという目の前が真っ暗になるような現象が起こる。

 通常は戦闘機のパイロットなどが体験するレベルの重力だが、俺はそこまでなら重力を上昇させられるのだ。

 俺に変化させられた重力によって警備隊は地にその体を伏せる格好で倒れ、一人も残さず気絶してしまっている。


「はぁ、なんて脆い……」


 彼らは目を覚ますことすらないかもしれない。

 自分の体が七倍の重さになってのしかかるのだから、以前と同じ生活を送れる保証はない。

 無能力者はこれだけの力には耐えることが出来ないのだ。

 逆に言うと俺と同じくらいの強さの能力を持っている者は、能力を駆使して抵抗することも出来るということ。

 そんな奴がいるとは思えないが、いないとも限らない。

 一応何か対応策を考えておかなければならないか。

 いや、とりあえずは逃げることが先だろう。

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