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赤坂の招集命令により約二千人が集まった。
「これよりレッドナイツはストレイキャッツの傘下に入る! これはリーダー命令だ! 異論は認めん!」
名も聞いたことのないような少数グループの傘下に入ると言えば、ざわざわと騒ぎ立てるのも分かる。
彼らの中には異議を唱える者や抗議をしようとする者はいて、むしろ賛成する数の方が少ないくらいだ。
だが、赤坂の一言でそこにいた全員が黙った。
「聞けお前ら! 俺達はゴミだ……社会から、世界から見捨てられたゴミだ! 現状に甘んじていてはこれより先には進めんのだ。そして俺達では成し遂げることは出来ない。俺はこいつらストレイキャッツに、ジョーカーに賭けてみようと思う……この大博打に乗る奴だけついてこい!」
その場が沈黙によって完全に支配された。誰もが考え、悩み、判断しきれない、そんな空気が流れている。
少し高い場所にいる俺達へ自然と睨みつけるような視線が集まってくる。
壇上にいた俺達ですら内心諦めかけていた。
「俺は……俺は赤坂さんを信じてここまで来たんだ! 赤坂さんの賭けは勝てるに決まっている、俺は乗ったぞ! 最後までついて行くんだ!」
誰が叫んだかも分からないその声に背中を押されたかのようにポツリポツリと、一人また一人と口々に賛同する者が増えてゆく。
そして気付けばその波は全てを飲み込み、静寂を掻き消す大きな声へと変化する。
空気が変わる。
その言葉の意味を初めて実感した瞬間だった。
同時に貧民街に「ストレイキャッツ」の名が轟いた瞬間でもあった。
「自分で言うのもあれだが、こんな名前も知らないようなグループの下に入るのに、こんなに簡単に決めちゃってもよかったのか?」
「ん? あぁ、俺は自分の直感を結構信じているんでね。お前がここに少数で乗り込んできた時、正直鳥肌が立ったな。こいつらなら俺に出来なかったことをやり遂げてみせてくれるって感じた。何より若い頃の俺にそっくりだったからな!」
既に三十歳を超えた赤坂はその歳に見合わない、少年のような無邪気な、それでいて大人の不気味さを兼ね備えた笑みを浮かべていた。
こういう表情をする時の大人の言う事は大抵あっているものだ。
そんな大人を俺は他に一人だけ知っている。
師匠が勝負を仕掛ける時はいつもこんな顔をしていた。
勝負と言えば聞こえが優しいが、命のやり取りをしているのだから、心に対するストレスはとても大きいだろう。
それでも師匠は毎日必ず戻って来る。
家に帰り、ドアを開ける時には疲れやつれた顔に笑顔を浮かべ、俺と満月に心配させまいと常に気を配っていた。
「確かに俺は約十年かけてこのレッドナイツを大きくしてきた。だが俺達がやってきたのは所詮ガキの悪戯程度の事なんだよ。だから、だからお前に全てを預ける。本当に頼むぞ?」
あぁ、この人は同族なのだと思った。
現状に満足出来ず常に変化を求め生きる。
変化のためになら何も恐れない、例え自らの命を犠牲にしても。
一つ一つの行動に後悔がないように、野望を達するために動き続ける意思の強さは一目見れば判別が出来る。
場合によっては「レッドナイツ」と全面抗争になることも覚悟していたが、嬉しい誤算で良かった。
怪我人を一人も出すことなく、俺達「ストレイキャッツ」の名前はすぐにでも貧民街中に広まるだろう。
たった一日で貧民街一、二を争うグループへと変貌した。
このグループの、全く詳細が不明なリーダー「ジョーカー」の存在も同じく広まっていく。