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Electro Signal  作者: 笹霧 陽介
第一章 貧民街統一
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 神奈川区画四十八区。

 一つの区画は五十区までで構成されているが、四十八区ともなれば都心から遠く離れて貧民街の中でも特に治安が悪い。

 そんな場所にわざわざ近づくのは余程のアホか、そういうグループの奴だけだ。

 俺達の場合は後者になるのだろう。

 何の用途に使われていたかも分からない廃ビルの部屋の一つ。

 俺と満月(みつき)がそこに入ると既に七人いた。

 性別も、歳も、身長も、服装もそれぞればらばらだ。


「遅いですよジョーカー」


「待ってたぜ! ジョーカー」


「ジョーカー今日は何をするんです?」


 一人として同じ人間のいない彼らは唯一「ジョーカー」という単語を口にする、ということで共通点を持っていた。

 そんな彼らの視線の先にいるのは……俺だ。

 こんな治安の悪いところに近づくのはアホかそういう奴らだけだ。

 つまりは彼らは“そんな奴ら”だということになる。

 “そんな奴ら”とは無法者の事を指し、社会に何も貢献(こうけん)出来ず今まで生きながらえてしまった奴ら。

 俺を含めてここにいるのはそういう境遇(きょうぐう)の持ち主。

 共通の趣味で友人をつくるように、共通の境遇で仲間をつくる、これも貧民街ならではなのかもしれない。


「そういえばジョーカー全員揃っていないようなんですが……」


 そう問うのはメガネをかけたスラリとした体格の男。

 彼の名前は井川(いがわ)義貴(よしき)、二十代前半といったところだろうか。

 異能力を使えるシグナルエラーで、異能力高火力隊の指揮官をしている。


「あぁ、木枯(こがらし)達なら別に任務をしてもらってるから今日は来ないぞ」


 木枯(こがらし)豹馬(ひょうま)、俺よりも年齢は低いが隠密機動隊の隊長を務め、情報収集に長けている。

 小柄で、今にも折れてしまいそうな手足を巧みに使う近接戦闘は、能力が無くても十分に強い。


「じゃあ今日は何をするんだい?」


 赤っぽい茶髪でロングの美人な女性。

 化粧とやらをすればもっと綺麗になるのだろうが、貧民街でそんなものを持っている者はいない。

 割と高身長なお姉さん的な存在の彼女は、戦闘になると牙を剥く。

 異能力高火力隊戦闘隊長の肩書きがそれを真実と示している。

 俺はこの(ひいらぎ)真季(まき)の腕に何度も頼ってきた。


「なにそろそろ俺達の名前を貧民街中に(とどろ)かせようと思ってね」


 集まっていた彼らはざわめきだした。

 隣と話す者、独り言を呟く者、だが彼らのざわめきには期待はこもっていない。

 期待もあるのかもしれないが、それ以上に可能なのかどうかという疑念や不安が大きかった。


「それで、ジョーカーはどうするおつもりで?」


「ふふ、君達ならどうするかな?」


 俺は試すようにして彼らに質問を投げつけた。

 普通に教え命令するのは簡単だが、それを繰り返していてはいつしか自分の後ろに人はいなくなる。

 師匠から教わったことの一つだ。

 命令で動く者に考えさせ、いかにその命令が重要なものかを理解させる。

 こうすることで命令する側への信頼度も上がり、作戦も自然と上手くいく。

 といつだったか覚えてはいないが言っていた。


「都心の施設を襲えば名前は広がるんじゃないか?」


 集まっていた七人のうち誰かがそう言った。

 しかし、すぐさま否定される。


「いや、それでは都心に広がってしまうだけです。貧民街に轟かせるとなれば、その方法は最善とは言えないでしょう」


 貧民街に轟かせるというのは簡単に言っているようで、実はとてつもなく難しいことなのだ。

 都心にまで広がってしまっては政府直轄(ちょっかつ)の軍に目をつけられ、何も残らず全て抹消されるだろう。

 実際そうやって消されたグループもある。

 基本的に遠方への通信手段がない貧民街では、半端なことでは知名度など広がってはいかない。


「いっそ軍に喧嘩売っちゃうとか……」


「無いな」


 その場にいる満月を含めた全員が頭を傾けて考えているが、どうやらこれ以上時間があってもいいアイデアは出なさそうだった。


「結局どうするつもりなんだい?」


「うん答え合わせをしようか。答えは至ってシンプル、俺達は『レッドナイツ』を落とす……!」


 またしてもざわめいたが、今度はさっきのひそひそとしたざわめきではない。

 全員が驚きを表情に出し、声に出していた。

 それもそのはず、『レッドナイツ』と言えば貧民街に住んでいれば一度は耳にする名前だ。

 貧民街に無数にある無法者達のグループの中でも、一二を争う程の力と知名度を持ったグループ、それを倒すと言ったのだから。


「確かに達成出来れば一瞬にして知名度は上がりますが……」


「倒せるわけない、か?」


「えぇジョーカーなら知ってると思いますが、『レッドナイツ』の構成人数は五千を超え今も人数を増やし続けていると聞いています。それに比べて私共はシグナルエラーがいるとはいえ、たったの十二人しかいません……」


 井川が言っていることは誰が聞いても正しいだろう。五千人を超える人が集まれば、シグナルエラーの数もそれ相応の数いるはずだ。

 だが、何も考えずにこんな無謀なことを言うほど俺も馬鹿ではない。


「……ふぅ、どうせそれなりの作戦を用意しているんだろう? まずは作戦を聞こうじゃないか、あんたらもそれでいいかい?」


 一息ついてたって振り向いた柊の言葉に他の奴らも次々に頷いた。


「そうだな、作戦の全てを話そう……」


 俺の名前は成島(なるしま)(ゆう)

 生まれは埼玉区画で都心ということや両親が名の知れた研究者だったこともあって、貧民街では「ジョーカー」の名前を使っている。

 そしてここにいる俺と満月を含めた九人と隠密機動隊の三人を合わせた十二人で、一つのグループ「ストレイキャッツ」と名乗っている。

 シグナルエラーの四人で構成される異能力高火力隊、無能力者の三人で構成される隠密機動隊、同じく無能力者四人で構成される通常兵器隊、それに部隊に属さないリーダーの三部隊編成。

 グループには副リーダーを二人置いていて、一人は井川、もう一人は満月。

 そして「ストレイキャッツ」のリーダーは……この俺だ。

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