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Electro Signal  作者: 笹霧 陽介
第二章 政府直轄討伐軍
21/24

7

「これで分かっただろう? お前は僕たちに協力せざるを得ないわけだ」


「この外道が! これがお前たち軍人のやり方か!」


「黙れ! お前らと組むなんてこっちだって嫌なんだ!」


 腕を抑える手に力がこもる。

 さらに、腰から拳銃を引き抜き、頭に押し付ける。


「さあどうするジョーカー、いや成島優! 今ここで死ぬか、生きて僕と協力するか!」


「……分かった、協力しよう」


 これ以上暴れてくれるなよと言いながら、男は銃を収める。

 抑えられていた右腕の違和感を拭うように、ぐるぐると肩を回す。


「それで、俺たちストレイキャッツに何をやって欲しいんだ?」


「難しいことを頼むつもりはない。基本はこれまで通りにやってくれればいいが、こちらの独自ルートを使って装備や情報で支援する」


 おそらく現状この男側についている戦力は、そこまで多くない。

 つまり敵にスパイを送っているような状態か。

 そして、この男が裏切るかどうかは、先ほどの組合の中でわかった。


「そういえばまだ僕の自己紹介をしていなかったな。僕の名前は菊川 彰吾、政府直轄討伐軍東京地区陸軍少佐だ」


「俺の名前は、知っているようだから言うまでもないが、ここでは一応ジョーカーという名で通っている」


「東京地区で成島の名前を知らない軍人はいないさ。詳しく調べてみれば、成島家の子供が貧民街で暮らしていることが分かってね。まさかストレイキャッツのリーダーだとは思わなかったけど」


 菊川が落ちているデバイスを拾い上げ、軽くホコリをはたき落とす。

 デバイスを再び耳につけ直すと、ソファーに腰かける。


「その名前を口に出さないでくれ。俺はジョーカー、ストレイキャッツのリーダーであり切り札だ」


「まぁいいだろう……これから一緒に戦うのだから、信頼できる僕の部下を二人紹介しよう。上がってきていいぞ」


 菊川の合図で、階段から二人の軍人が上がってくる。

 一人は小柄な女性、金髪のショートカットで目鼻立ちの整った顔をしている。

 もう一人は大柄な男性。

 金髪の女性が小さいためか、とても大きく見える。


「私は小金井 マリー。父がアメリカ人で母が日本人のハーフですが、日本生まれの日本育ちなので英語は喋れません。いまの日本の制度は明らかに歪ですから、私は菊川さんの政権奪還を支持しています」


「吾輩は大ノ字 大助と申します。吾輩の特技はこの鍛え上げた体で戦うことです。戦闘になれば、吾輩が先陣を切って戦いましょう」


 二人は揃って右手を額に当て、敬礼している。誰でもない貧民街の人間である俺の方を向いて。


「……よろしく頼む」


「まだ私たちのことを信用していないようですね? まぁ無理もないですかね」


 金髪の女性、小金井が右手を俺の前に差し出す。

 それを見て、大ノ字も同じように右手を出した。

 差し出された手はとても綺麗なものだった。

 手を結ぼうと差し出した、黒く汚れた自分の手を見て、この二人も都心の人間なのだと再確認してしまう。

 そう思った瞬間、咄嗟に手を払ってしまっていた。


「す、すまない、そんなつもりは……」


「いえ……こちらこそすみませんでした」


 小金井は払われた手を、少しだけ悲しそうに見つめていた。

 たった数十年で都心と貧民街、少しの距離でここまで差が出来てしまった。

 それはお金や権利だけにとどまらず、心に大きな溝を作ってしまったのだ。


「我々が手を結んでいることは、僕とこの二人を含め、ごく少数の限られた人間しか知らない。このことはくれぐれも他言しないようにしてくれ」


「分かった。だが、お前らとの連絡手段はどうする?」


「これを使ってくれ。ただし、軍の上層部にバレないように、緊急の時はワンコール、用がある時はツーコールで通話を切れ。周りに人がいないタイミングでこちらからかけ直す」


 菊川がポケットから出したのは、耳につけているデバイスと同じもの。

 デバイスの使い方を教えると、菊川たちは都心へと帰っていった。


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