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Electro Signal  作者: 笹霧 陽介
第二章 政府直轄討伐軍
19/24

5

 神奈川区画十二地区。

 軍が使用していた戦車は無効化したものの、すでに半数の隊員を失っていた。


大炎舞ファイヤーダンス!」


 突如現れた炎が、踊るように戦場を駆け抜ける。

 兵士と兵士の間をすり抜けながら通ると、兵士が燃え上がる。


「うあああ! 熱い、誰か水を……!」


「あそこだ、誰かあの炎を止めろ!」


炎波ファイヤウェイブ!」


 目の前に一線を引くように指でなぞると、炎の波が敵兵に襲いかかる。


「私はストレイキャッツ高火隊隊長の柊! 今すぐ引かなければ、全員まとめて私の炎で焼き尽くす!」


 炎の中から出てきた柊が、敵陣の中心で声を張り上げる。

 完全に奇襲を受ける形となった敵軍の兵士たちが、柊から一定の距離を保つようにして囲む。


「貴様我々討伐軍を甘く見るなよ? 貴様のような女一人、どうということはない。皆囲んで絶対に逃すな!」


「そうかい……残念ね。あんた達が持っているその武器は、遊びの道具じゃないんだ。他人を殺していいのは、自分が殺される覚悟のある人間だけだよ。私に殺される覚悟はできているかしら?」


 柊のオーラが変わる。シグナルエラーの能力は、感情の揺れ動きに敏感に反応するもの。

 そして、意図してか意図せずしてか、力の限界を超えた能力を発揮する。


 千葉区画から神奈川区画に来るまでに、柊はすでに能力の大半を消費していた。

 いち早く来るために速度をあげて来たことで、今戦場に間に合ったのかもしれない。

 けれど、それゆえに柊は、敵に囲まれた状態でブラフを言わざるを得なかった。

 自分の死を身近に感じた極限の状況に追い詰められ、本能的に自分に危険が及ばないようにセーブしていた力を解放する。


「化け物め……!」


 爆発的に解放された力は、周りにいた兵士に恐怖を感じさせるには十分だった。

 人は無意識のうちに脳の力の九割を使用しないようにしていると言うが、逆にその九割のうち何割かを使えたら、恐ろしい力を発揮するだろう。



「何だあれは……!」


 その炎はストレイキャッツの本陣からも見えるほどに、激しく燃え盛っている。

 それもそのはず、炎の柱が立っている。


「赤坂さん、隠密機動隊からの報告で、あの炎の中に」


「いや、言わなくてもわかる」


 あれだけの圧倒的な能力を持っている人間など、そういるものでもない。

 そこにいるのは間違いなく柊真季。


「柊は蓬莱との抗争で命を落としたと思っていたのだが……」


「えぇ、あれだけの火力の攻撃を至近距離で受けて、普通なら生きていないでしょうね」


 普通ならか。

 中平の言う通りで、柊はシグナルエラーの人間ですら普通ではないと言わせるほどに、恐ろしく強い。


 レッドナイツ時代に人員確保のために柊を勧誘したことがあったが、勧誘活動をしていた五人のメンバーが死体で帰って来た。

 うち一人は半殺しの状態で柊が引きずり、俺らの本部の場所を案内させ、単独で乗り込んで来たのを覚えている。

 まだ息のあるメンバーの一人をまるでボロ雑巾かのように投げ、私に関わるなと言ってきた。

 それからしばらくして、ジョーカーの後ろについて乗り込んできたときは、冷や汗をかいたものだ。


「撤退! 急ぎ撤退せよ!」


 負ける戦いはしない。

 討伐軍としても貧民街で一番のグループの戦力を大きく削いだだけでも、今回の遠征の大きな成果だろう。


「敵が引いて行きます! 柊の力に敵わないと踏んだのでしょうか」


「そうだろうな。あれを見て勝てると思う人間は、ただの馬鹿か同じような化け物かだろう」


 言葉の通り討伐軍は撤退して行った。

 撤退を静かに見送り、見えなくなったところで柊が倒れる。

 限界を超えた状態で、さらに限界以上の力に身を投げたのだから、当然の結果だろう。


「何はともあれ、俺たちの勝利だ!!」


 赤坂の勝利の報に、メンバーたちは&の表情を浮かべる。メンバーの反応はそれぞれだった。

 勝利を純粋に喜ぶもの、生き残り緊張の糸が切れるもの、そして、今回の戦争について上層部に疑念を持つもの。

 勝ちこそしたが、実質的な被害としてはこちらの方が大きかった。


 ジョーカーに報告しないという選択肢をとったのは、間違いだっただろうか。

 けが人の手当をし、ストレイキャッツ本部へ帰還した。


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