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「第一部隊は後退! 負傷者の手当てと補給を急げ! 第二部隊は前進しろ!」
「赤坂さん! 補給部隊が山道の悪路で遅れているとのこと!」
「くッ……! 前衛に人数を回せ! 補給部隊到着までなんとか持たせるんだ」
「了解!」
戦闘が開始してから二十分で、おおよそ三割が死傷し、戦線を離脱した。
しかし、正面からの撃ち合いをしているため、敵方も被害がゼロというわけではない。
苦しいのはお互いに同じはず。
「砲撃くるぞ!」
前方に移動中の舞台の中で、声が上がった。
そしてすぐに着弾する。
「ぐあッ……!」
部隊のちょうど真ん中に砲弾があたった。
間髪入れずに、何発も砲弾を発射する音が聞こえる。
部隊が半分に割れる。
「走れ! 止まったら砲弾に当たるぞ!」
通常兵器隊の副隊長、桜木涼が部隊をまとめる。
頭に緑色のバンダナを巻き、右目に眼帯をつけた桜木は、レッドナイツで右腕として支えてくれていた。
レッドナイツの傘下に降った今も、よく働いてくれている。
ジョーカーが認め、副隊長にするほどの実力者。
桜木の言葉に、前方半数の隊員が走り出し敵の本陣を目指す。
後方の半数は、次々に飛んでくる砲弾により、下がらざるを得ない。
桜木は後方に残されてしまった。
木々の間をすり抜け、山を駆け下り、開けたところに出る。
「撃て撃て撃てぇい!」
無数の銃口が前方の部隊に向けられる。
綺麗に整列した敵の部隊が、一斉に発射する。
「うあぁ!」
「撤退だ! 逃げーーうッ!」
囲い込むようにして撃たれた味方が、次々に倒れてゆく。
「くそ! 豚どもがぁ……ッ!」
隠密機動隊の伊賀が木の陰から出てくると、赤坂の前に跪く。
「桜木さんの率いる第二部隊が、敵の戦車による攻撃で分断。前半分が戦車の攻撃を避けるため山を降りたところを、敵の集中砲火を受け全滅したとのこと」
「何? 桜木は無事なのか?」
「残った半数は散りじりに逃げているため、桜木さんの生死は不明です」
「わかった。下がれ」
伊賀は一度頭を下げると、再び森の中へときえる。
「やはり俺たちでは軍に勝てないのか……」
戦況は討伐軍有利に大きく傾いたかと思った、まさにその時、討伐軍の本陣で事は起こった。
「なんだ? 何が起こった!」
音のなった方に視線が集まる。
戦車十門全てが一斉に土の中へと消えていた。
討伐軍の兵士も何が起こっているかわからない、といった様子で混乱している。
井川の作戦がうまくいったのだ。
井川は地形を変えられる土昏の能力で、戦車の下の地盤を沈下させた。
しかし、土昏の能力範囲が狭いため、戦車に近づく必要がある。
そこで目をつけたのは佐田透の能力。
彼は自分と自分が触っている同等程度の質量のものを、透明にすることができる。
この能力を使い、討伐軍の兵士に気づかれることなく、土昏を敵本陣へと送り込めたのだ。
「よくやったぞ土昏、佐田!」
井川が任務を遂行した二人を迎える。
「ム……」
「いやほんと、もうこんなドキドキする任務はこりごりですよ! 僕の能力はそんなに万能じゃないんですから!」
佐田の能力には時間的な制約がある。
それは透明化になれるのは一日三十分までで、それを過ぎると強制的に能力が解除されると言うもの。
とにかくこれでもう一押しできれば、なんとかなるかもしれない。
敵の戦力を大きく削ぐ最後の一手があれば。