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Electro Signal  作者: 笹霧 陽介
第二章 政府直轄討伐軍
16/24

2

 ジョーカー不在の今、ストレイキャッツの指揮を取るのは赤坂と井川。

 政府直轄の討伐軍約一万を相手に、対するストレイキャッツの数は能力者合わせて約七千といったところか。

 どちらにしても、かなり苦しい戦いを強いられることは間違いないだろう。


「赤坂さん皆武器を手に取り、戦う準備ができています。しかし、よろしいのでしょうか、ジョーカーの方針に背くことになりますが……」


「中平よこれはもう貧民街での抗争とは違う、一国を相手に戦争を仕掛けようと言うのだ。もはや甘いことも言ってはおれん」


 ジョーカーの方針は、殺しはしないと言うもの。

 しかし、敵は俺たちを殺すことに、一片たりとも躊躇がない。

 そんな敵を相手に、こちらだけ殺すなと言うのは無理がある。


 神奈川区画十二区に討伐軍が攻めて来ていると、隠密機動隊から報告が入った。

 それはもはや戦争というよりも、蹂躙というべきもの。

 グループに参加しているわけでもない、貧民街の無抵抗な住民たちに対し、討伐軍は容赦なく銃を乱射しているらしい。


 すぐにでも出なければ、貧民街そのものがなくなってしまう。

 約七千のメンバーの前に立つ。

 命がかかった戦争の前に、流石に緊張が見て取れる。


「今度の戦いはおそらく今までで最大のものになるだろう、我らも軍を相手にもはや背に腹はかえられぬ。ジョーカーがいない今、我々のみでこの街を守るのだ!」


 その言葉に、七千のメンバーが呼応する。

 凄まじい雄叫びは、地響きのように地を揺らす。


 ストレイキャッツの一団が、十二区に向けて進軍を始める。

 異能力高火力隊は隊長である柊の生死が不明ということもあり、井川が指揮をとっている。

 隠密機動隊にはすでに十二区に入らせた。


 準備は万端。


 軍が貴重な能力者を貧民街に投入しているとは思えないが、能力の使い方次第で戦況は傾く。

 進軍を始めて間も無く、一万の軍を目視で捉えた。

 山から見下ろす形で捉えた大軍は、勢いで勝てると思えるほどのものではなかった。

 人数に加えて、戦車が見えるだけでも十門は来ている。


「我らは野良猫(ストレイキャッツ)! 自分たちの居場所は自分たちで守るのだ! 今こそ、都心のボンボンどもに目にもの見せてやれ!」


 俺の号令で、一斉に銃撃が始まる。

 完全に意表を突いたにも関わらず、討伐軍は統制された動きで体制を整える。


 そして、すぐに反撃が始まる。

 戦車は爆音を鳴らして砲弾を飛ばし、歩兵が迫撃砲に点火する。


「中平、止めろ!」


「無茶言わないでください!」


 中平が飛んできた砲弾と迫撃砲を凍りつかせるが、全ては防ぎきれない。

 中平の氷結範囲をすり抜けてきた砲弾と迫撃砲は、無情にもストレイキャッツのメンバーが多数いる場所に着弾する。

 人間が石ころのように飛び散り、砲弾は土をえぐる。

 頭上から迫ってくる迫撃砲に逃げ惑う人々。


「くそッ! 井川、あの戦車をどうにかする方法はないのか?」


「あるにはあるが、能力範囲の問題で近づかないといけないから、危険が伴う作戦なんだが……」


 現状遠距離で一方的な攻撃を加えてくる戦車をどうにかしなければ、ストレイキャッツが全滅するのは時間の問題だ。


「構わん、必要な人材は好きなだけ連れて行ってくれ」


「分かった。すぐに取り掛かる」


 井川は高火隊の土昏一郎と、隠密隊の佐田(さた)(とおる)を連れて行った。


「全員散開! 固まっていたらいい的になるぞ!」


 敵味方入り乱れ、激しい銃撃戦となる。

 それはもう地獄絵図だった。

 いつ自分に当たるかわからない砲撃に怯えながら、逃げた先で敵兵による容赦のない鉛玉の雨に襲われる。


 今回派遣された政府直轄の討伐軍の中には、おそらく能力者はいない。

 しかし、それでも押されているのはこちらだ。

 銃の扱いが素人の上に、殺しの教育など受けていない俺たちに対し、討伐軍の兵士たちは殺しの英才教育を受けているのだ。


 討伐軍は志願兵で構成されている。

 胃能力が政治や商売の道具となっている東京地区で、無能力者たちは最低限の生活を送れているだけでもいい方だ。

 無能力者がより良い生活を送る方法が、一つだけある。

 それが討伐軍で戦果をあげること。

 よって討伐軍には無能力者が多い。


「くっそ! こんなことって……! ジョーカー、俺は、俺は……うッ!」


 男は自らが引いたトリガーで、敵方の兵士が倒れこむのを目の当たりした。

 宇野真人、ストレイキャッツ創設時からいるメンバーで、能力はない。

 ジョーカーの方針を忠実に守り、他人を殺したことなどない宇野は、自分の撃った弾丸が他の人間の体を貫く様を見て平静を保ってはいられなかった。


 その場に倒れ込み嘔吐する。


 しかし、それは宇野に限ったことではなく、人間を殺すことに精神が耐えられず、嘔吐する仲間は少なくない。

 そんな敵を思う心優しい人間をも、討伐軍の兵士は容赦無く殺す。


召喚(サモン)!」


 俺は井川の言う通りに金を惜しみなく使い、操作可能な数ギリギリの兵士を生成した。

 死を恐れない俺の兵士は、戦場において有利だろうが、それでもいまの戦力差をひっくり返すほどの数は操れない。

 不安と疑問を抱きながらも、召喚した兵士を前進させ最前線で戦わせる。


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