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Electro Signal  作者: 笹霧 陽介
第二章 政府直轄討伐軍
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 朝、鳥の鳴く声で目を覚ました。

 家の中の静けさが、満月がいないことを思い出させる。

 俺の隣の部屋、満月の部屋にはベッドも衣服も本も全てがそのまま残っている。

 これは夢で、寝て起きたらまた元気な声で「おはよう!」と言ってくれるのではないかと、言って欲しいと何度も願った。


 そしてまた今日も太陽が昇る。

 満月のいない日々が始まる。


 あの日から一ヶ月間「ストレイキャッツ」リーダー、「ジョーカー」としての俺は全く動いていない。

 金の管理を井川と赤坂に、武器の調達を元蓬莱の仕入れ人に頼んである。

 先の抗争で何人もの仲間が死に、グループの中にも不穏な空気が流れつつある。

 こんな時こそリーダーがしっかりしなければならない。

 それは分かっている。

 分かってはいるのだが、俺の体は簡単には動いてくれない。


 俺に何が出来る?

 最も近くにいた、満月一人を守れなかった俺に何が出来る?

 頭の中で俺に囁きかけてくる。


 お前は弱い。


 目を瞑ると頭の奥底で繰り返し響いてくる。

 頭が痛い。


「……うッ!」


「お、おい大丈夫か優? 最近疲れてるようだが……」


 目を見開いた俺の視界の中で、男が俺の顔を覗き込んでいる。


「師匠……ごめん、ちょっと嫌なことを思い出してた。だけど大丈夫」


「そうか、大丈夫ならいいんだが。……満月の事はあまり気にするなよ。あいつは自分の意思でお前について行ったんだ」


「あぁ、ありがとう」


 気にするな、か。

 確かに満月は自分の意思で行動していたかもしれない。

 だが、その原因をつくったのは、他の誰でもないこの俺。

 責任を感じるな、という方が無理な話だ。


「それはそうと、いいのか? 今貧民街はお前らの噂で溢れ返っていたぞ? あんまり無茶なことはするなよ?」


「分かってるよ師匠。そっちは全て任せてある。今は旧式のものだが、通信手段も確保した。それを使って定期報告もさせている」


 自分達のグループの管理はもちろんのこと、他のグループのこと、それに軍部の動きまで。

 どんなに小さな事でも、何かあればすぐに報告するように言ってある。

 正直なところ、流石の俺も無策で軍に挑むほど馬鹿ではない。

 休養と言ってここで休み始めてからの一ヶ月間、俺は新たな作戦を練っていた。


『……』


 ベットに座っていた俺が、立ち上がろうとした時、机の上でノイズが鳴った。


『こちら赤坂』


「赤坂か、どうした?」


『あぁ、ちょっと厄介な事があってな』


「厄介な事?」


『軍の行動を見張っていた隠密機動隊と、都心に潜入していた通常兵器隊から、気になる報告があってな。……率直に言おう、軍は近いうちに俺らを潰す気だ』


 そろそろ軍に動きがあると思ったが、予想していたよりも遥かに早かった。

 俺たちの存在がそこまで厄介になったということか。


「そうか」


『そうか、ってジョーカーどうする気だ? 軍が来るのを待つわけじゃないだろ?』


「当たり前だ。前に言った準備の方はどうなってる?」


『ん? あぁそっちは井川に丸投げしてあったからな、俺からは何とも言えん』


「分かった。それじゃあ赤坂もこれまで通りに頼んだ」


『早い所戻ってきてくれよ』


「分かってる」


『それじゃあな』


 そろそろ俺も覚悟を決めて戦わなければならないか。

 仲間のためにも、満月のためにも、何より自分のためにも。



 ◇◆◇◆◇◆



 神奈川地区四十八区ストレイキャッツ本部。


「よしお前ら、ジョーカーからの司令だ。すぐに武器と弾薬を整えろ! いよいよ討伐軍との全面戦争だ」


「それはいいんだが、ジョーカーは今回の作戦に参加しないのですか? 一ヶ月以上かかるような怪我はしてなかった気がするんですが?」


 ジョーカーからの命令を伝える。

 一ヶ月もの間のリーダー不在に募る不安を、中平がメンバーを代表して聞く。


「ジョーカーの目に、俺達の見ている景色は映ってはいない。あいつの目には常に最終的な結果と、それに至るまでの最適解が見えている。俺達が口出しをするような事は何も無い。分かったら俺達は今俺達に出来ることをするぞ」


「分かりました赤坂さんがそう言うなら……」


 ジョーカー不在の中、実質的にグループをまとめていたのは俺、赤坂だ。

 副リーダーの柿崎 満月は意識が戻っていない上に、もう一人の副リーダーの井川 義貴(よしき)は大人数のグループをまとめたことがない。

 ゆえに役職を持ちたがらなかった俺を臨時的に副リーダーにし、リーダー代理をしている。

 もちろん基礎となる部分は、裏でジョーカーの指示が出ている。


「赤坂!」


 本部に慌てふためいた様子で入ってきたのは、鬼頭 雅視。

 彼はストレイキャッツが設立した時からのメンバーで、異能力高火力隊の一員。

 能力は「拡大視野(ワイドビュー)」通常人間では見えないような遠い距離や、小さい文字、後方など、とにかく視野が広がる。

 その能力を生かして、遠方の偵察や狙撃を行っている。


「何があった?」


 走ってきて落ち着かない呼吸を、無理やり飲み込んで鬼頭が続ける。


「軍が動いたぞ!」


「まさか早すぎる。規模は?」


「約一万だが、戦車や装甲車も出ていたから、数以上の脅威があると思うったほうがいい」


 ジョーカーの見立てでは、軍が動き出すのは早くても今年の冬、まだ三ヶ月も先と言っていた。

 こちらが油断している隙をついてきた?

 いや、まさかそんなはずはない。

 軍に行動を悟られないように、最新の注意を払いながら今日まで時間をかけて準備をしてきた。


 もはや一刻の猶予もない。

 状況の分かっていないジョーカーに指示を仰ぐよりも、今俺が対処するべきだろう。

 幸い敵の数はそんなに多いわけではない。


「すぐに人を集めろ! 予定よりも早くなってしまったが、戦うしかない!」


「了解!」


 今更嘆いても仕方がない。

 これは俺が選んだ道だ。

 元レッドナイツリーダーの力、存分に見せてやる。


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