12
「雷光砲!」
俺がヘリを撃墜したのとほぼ同時のタイミングで、天宮の声が聞こえる。
奴もただやられるつもりはないらしい。
奴の使える技の中でも恐らく上位の技だろう。
直線上に放たれた閃光。
爆音と暴風に吹き飛ばされそうになる。
直撃した攻撃ヘリ二機が、機体の半分を消し飛ばされ爆散する。
天宮は敵だが、ここは助かったとしか言いようがない。
「天宮ひとまず仕切り直しにしようじゃないか。それともこのまま決着をつけるか?」
「黙れ赤坂! この程度の力の消費で貴様になど負けるものか」
赤坂達が何故「レッドナイツ」と呼ばれていたか。
赤坂の名前から取ったであろう「レッド」と、彼の異能力「騎士団」。
赤坂の能力は召喚系のもの。
召喚系の能力には代償がいるものといらないものがあるが、彼の能力は前者。
彼の能力の代償になるのは価値のあるもので、簡単なものでいえばコイン。
値段が大きい程、強い兵士を生成することが出来るらしい。
もちろん高いコインは生活に必要だ。
よって彼は能力をギリギリまで使わない。
俺も彼の能力をこの目で見たことは無い。
「召喚、死の騎士団!」
赤坂の手から大量のコインが抜け落ちてくる。
ジャラジャラと音を立て地面に落ちたコインは、飲み込まれるようにして地中へと埋まってゆく。
皆の注目が集まる中、地面から次々と柱状に土が盛り上がる。
土が弾けると、中から出てきたのは多数の兵士。
武装した馬に乗っている者、馬に乗っていない者、装備が薄い者、コインの値段の差はそこに現れているらしい。
土に作られた軍勢の後ろで、赤坂が玉座のような椅子に座っている。
赤坂の前には戦場を忠実に再現した盤がある。
赤坂は足を組み、片手で頭を支えるような格好で一息つく。
右手を盤上の駒へと持っていき、駒を前へ進める。
赤坂が駒を動かすと同時に、騎士団が動き出す。
これが赤坂の能力の一つ「戦場支配」全てをゲームかのように盤上に置き換え、完全に自らの支配下に置いてしまう。
赤坂達「赤の騎士団」と呼ばれ、恐れられていたのは彼の能力による所が大きかった。
もちろん幹部クラスになれば手強い奴らも多いが、赤坂の能力で生み出された兵士たちは強過ぎるのだ。
「それがどうした。こんな土の塊など蹴散らしてくれるわ!」
天宮は体に雷を纏い、騎士団の中を一直線に赤坂の元へと向かう。
生まれる時こそ土塊だが、兵士の姿になってしまえば生きている人間と大差ない。
装備の強度も、質量も、その全てが現実のものを再現される。
よって天宮の渾身の突進も虚しく、天宮はナイト達に囲まれる。
ヘリを撃墜した時に、力のほとんどを使ってしまっていたのだろう。
万全な状態であればこうもあっさり止められたはずがない。
「くそ……お前ら次はないと思え!」
さすがは戦闘集団蓬莱のリーダー。
深手を負ったにも関わらず、彼は残ったメンバーを連れて帰って行った。
昔からどこか歪だった彼のグループは、今回の負けでほぼ全壊したと言っていいほどに廃れた。
解散に近い状態になった蓬莱のメンバーのうち、五割がストレイキャッツへの参加を表明。
蓬莱はリーダー天宮と共に姿を消した。
こうして俺達は多数の犠牲を出しながらも、貧民街で一番のグループとなった。
未だ反抗する少数グループもあるがその数は徐々に減っている。
文字通り俺達は貧民街を統一したと言っていいだろう。
だが、その代償は大き過ぎた。
俺達は東京地区の邪魔者、その証拠が攻撃ヘリによる排除行動。
「満月……」
蓬莱との戦闘後すぐに貧民街の、師匠と繋がりのある医者へと駆け込んだ。
髭が口を覆い、眼鏡でよく表情が捉えられない不気味な男だったが、その腕は本物だった。
結果から言えば最悪の結果だけは避けることができた。
満月に当たった銃弾は、運良く急所を逃れていたらしい。
当分の間目を覚ますことは無いが、高度な治療を受け続ければ死ぬ心配も無い、と医者の男は言っていた。
そして、ここにある機械では、治療に限界があるとも。
満月にはもう時間が残されていない。
「安心して眠っていてくれ。俺が日本を変えてくるよ。次に目を覚ました時に俺の理想郷を見せてやるよ」
俺にはその時、満月が笑った気がした。
もちろん俺の思い過ごしなのだろうが、それでも俺はこの計画をやり遂げようと心に強く誓った。
どんな壁が立ち塞がろうとも、どんな手段を使っても、俺はもう振り返らない。
「さて、権力奪還計画を始めようか……!」