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Electro Signal  作者: 笹霧 陽介
第一章 貧民街統一
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プロローグ

 科学を超越(ちょうえつ)してしまうほどの力、それが『異能力』。


 選ばれたもののみに使えるその力はいつも世界を変えてきた。


 この世界では該当者たちを『シグナルエラー』と呼び、恐れ、それでいてどこか(あこが)れている。


 その力を掌握(しょうあく)し、自由に操れるようになるための時間は人によって大きく異なり、能力に気づくのも生まれてすぐの人もいれば、六十を超えてからの人もいる。


 能力はあるが、死ぬまで全く操れなかった人もいるし、国を(おびや)かすほどの力を持ってしまった人もいるのだ。


 しかしシグナルエラー全員に共通する点が一つある。


 全員生まれるのがここ日本、もっと言えば関東圏であるということだ。


 (むし)ろそこにしか共通点がないのは、シグナルエラー研究においての問題点の一つに上がっている。


 共通点が多ければ多いほど研究は捗り、能力の操り方も簡単になるかもしれないからだ。


 なぜ異能力持ちであるシグナルエラーが日本にしか生まれないのか、それは2117年へと歴史を(さかのぼ)れば分かる。



 ◇◆◇◆◇◆




 その日はまさに夏真っ盛りと言った暑さで、吹く風は生(ぬる)く、雲ひとつ無い快晴だった。

 忙しそうに鳴くセミの声を()き消すように、東京の中心に集まっている人々はがやがやと騒いでいた。


「おい、聞いたか今日のニュース!」


「当たり前だろ! こんな面白そうなの見逃すなんて勿体(もったい)なさ過ぎるぞ!」


「それにしても噂は本当だったんだな……」


「あぁ……まさか東京都の真下に高エネルギー鉱石結晶があるなんて、誰も思わなかっただろうな」


 どこの誰かも知らない彼らがする『噂』とは、人から人へと伝わり広がってゆく。

 出どころの分からない未確認情報。

 この場合の噂、つまり広がってしまった本当かどうかも分からない情報は本当だったわけだ。

 そしてその内容は、後の日本を狂わしてゆく内容になってしまうことを、今は誰も知らない。

 その時までは……


「私聞いたことあるわ『エレクトロシグナル』って言うらしいわよ」


「マジか、鉱石なんだろ? 高く売れたりとかすんのかな」


 さっきの人とは違う、また別の人々。

 彼らが言う『エレクトロシグナル』というのは、少し前に東京都の地下約千五百メートルにて観測された高エネルギー体の事だ。

 このエネルギー体の存在は日本中のみならず、世界中から注目された。

 新しい鉱石はどんな効果なのか、どんな加工が出来るのか、使用用途など、研究者達は自分の意見を次々と発表し討論していた。

 多くの報道メディア関係者が見守る中、掘削(くっさく)作業は順調に進んでいた。


「あ、おい! カメラ回してるか? 掘削(くっさく)隊が上がってきたみたいだ!」


「こちら現場です! どうやら今世間を騒がせている『エレクトロシグナル』なる鉱石が掘り出されたようです!」


 多くのカメラの向いている先、道路のど真ん中で車の走行を遮って掘削(くっさく)作業をしている。

 性質もわからない鉱石を掘るとなると、機械での掘削(くっさく)よりも人力の方が正確な為、三十人ほどの掘削(くっさく)隊が潜ることになったのだ。

 その掘削(くっさく)隊が潜って約一週間、今日になってようやく通信が入り、作業が終了したと連絡が来たらしい。


「上がって来た……先頭にいる作業員が持ってるのがそうなのか……!」


 誰かがそう言うと、その場にいた全員が一点へと視線を集中させる。

 息を飲み、辺りに緊張が広がってゆく。

 コンテナのような大きな箱状の物体から、次々と同じ作業服の人達が出て来る。

 その先頭、左腕に赤色の腕章(わんしょう)をつけた隊員が抱える箱の中には、透明度の高くて青いとても綺麗な鉱石が入っている。

 ガラスの様に透き通った鉱石は、見る人の心を吸い込むような不思議な魅力があった。

 その場にいた全員、テレビやスマホで中継を見ていた全員が、その鉱石にそれぞれの思惑が交錯していた、その時──鉱石を中心に青白い光が辺り一面を多い尽くした。

 まるで目の前に雷でも落ちたかのような眩い光。

 突然の事に驚く者、恐怖を抱き叫ぶ者もいる。

 やがて光が落ち着き、視界が晴れてくると居合わせた全員の感情は、すべて残らず驚きへと変わってゆく。


「消えてしまいました! 『エレクトロシグナル』が消えました!」


 一人のアナウンサーの声に反応したカメラが掘削(くっさく)隊の方へレンズを向ける。

 しかし、数秒前までそこにあったはずの美しい結晶は消えていた。

 文字通り消えてしまっていたのだ。

 作業員が持っていたその全てが、一つの欠片も残さずに。

 気化、正確には昇華と言うべきなのか、個体が気体に、それも鉱石が気体に変わったのだ。

 そんなことあるのだろうか──いや、あるのだろう。

 この世界は人類が知らないことの方が多いのだ。

 何にせよ多くの期待を集めた物が一瞬間のうちに、研究することも出来ずに消え去ってしまったことは、世間を大いに騒がした。

 しかし人とはすぐに忘れる生き物で、一年を過ぎた頃から徐々にエレクトロシグナルの話題は、専門雑誌を除いては上がらなくなっていった。

 一度忘れられた話題に再び火がつくには、話題になった時以上のインパクトが必要になる。

 そしてそのインパクトは『シグナルエラー』という形で現れることとなった。


 高エネルギー鉱石結晶消失事件から五年後の2122年、東京都に一人の赤ん坊が生まれた。

 他の赤ん坊となんら変わりのない、至って普通の男の子。

 しかし、赤ん坊は産声を上げると同時に病院を丸々一つ消し去ってしまったのだ。

 これが後に異能力と呼ばれる力『シグナルエラー』の始まりだった。

 その年、その赤ん坊が生まれて以降、次々とシグナルエラーが東京・埼玉・神奈川・千葉・山梨・茨城・栃木・群馬の八つの都県で確認された。

 政府はこの地域を東京地区とし、その他の地域を外地とすることで格差をつけた。

 東京地区と外地との行き来は制限され、能力のある者は外地へ出ることを例外なく許されない。

 格差は東京地区内でも露骨になってゆく。

 生活を拡張するような能力のある者や金のある者は都心に、逆に無い者は東京地区の中でも端の方、貧民街へと追いやられた。


 そうして日本が隔離社会を構築してから、三十年経った現在2152年。


 東京地区に十八歳になった一人の少年がいた。


 貧民街で同じく十八歳の少年と生活を共にしている。


 “これは彼らと彼らの仲間たちの抵抗の記録”

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