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第九七話

できました。

 飛び出たのは廊下だ。

 両脇に柱が並び、石畳の外は普通に土の地面が見える外と言ってもいい場所だ。

 視界の先にはぶよぶよと肥大化した肉塊がある。

 その肉塊が取り付いているのは体育用具室くらいの大きさの石づくりの窓がない小屋だ。

 扉らしき場所にみっしりと肉塊が張り付いている。

 慌てて二人で近くの柱に隠れて観察する。


「なに? あれ?」


 アンは首をひねっている。

 だが俺はあれを知っている。


「早乙女か……」


 形態こそ変わっているが見覚えのある質感だ。


「ああ、ストーカーの」


「まぁそうだが、ここまでくるとかしつこすぎるな」


 同感。

 とアンも軽く顎を引くようにして答えた。

 問題はどうやって連れ出すかだ。

 アンに視線を向けると難しそうな顔をする。


「あの部屋そんなに大きくないから、間違えてふたばを巻き込むかもしれない」


「なら無理か……」


 そこでアンが口を開く。


「私がひきつけて、君が助ける、それを回収して逃げる」


「二人も足手まといを連れて逃げ切れるか?」


「う」


 そこで言葉がつまる。

 互いにため息をつきながら見合わせる。


「なら素早く倒して突入して逃げるか」


「それしかないね、私でがまずぶちかますからあと頼んだ」


「わかった」


 という返事を聞くが早いか、飛び出した。


「こっちだ!!」


 と言って一瞬消えて、コマ落としのようにかかと落としを打ち込んでいた。

 入った場所が大きくへこみ、その圧力で一部が裂けた。


「もういっちょぉ!!」


 扉から引き離すように一撃を食わえる。

 立て続けの二発でさすがに引き離される。

 体積的には三倍でもすまない巨体が悶えている。


「こっちだ」


 と叫んで俺のいる方向とは逆に走る。


「キィィィっ!!」


 金切声のような音を立てて追いかける。

 ある程度まで離れたことを確認して戸を叩く。


「ふたば!! 助けに来たぞ」


「……」


 なにも反応がないので、まさかと思いとに手をかけると引いて開けることができた。

 鍵すらなかったようだ。

 中は暗くよく見えない。


「ふらば!? いるのか?」


 と叫びながら暗さに目が慣れるまで待つと居た。

 ふたばはナニカに半ば沈んでいる。

 それはズルズルと泡立つ肉塊だ。


「早乙女の分身!?」


 アレは中に入ろうとしていたのではなく、守っていたのだ。

 ダメもとで出ている右手をつかみ引くとずるりと上半身を抜き取れた。


「よし!!」


 残りを引き出そうとすると、急に抵抗が増える。


「うぇ……」


 肉塊から白い細い手が唐突に生えて、ふたばの左手を握っている。

 気持ちの悪い塊から繊細な手が生えているのはグロテスクを超えていっそシュールだ。


「急いで逃げるよ、って何それ!?」


「知らん」


 飛び込んできたアンにむかってとっさに答える。

 どう考えてもまずい代物だ。

 だからアンは一歩進んで、その手に一撃を加える。


「離せ!!」


 風を切る音がして手が弾かれた。

 その瞬間アンは俺の手を握って、地面に向かって飛び込んだ。


=====


 飛び出たのはどこかの森の中だ。

 うっそうと茂った木々により日光はさえぎられてどこか薄暗い。

 湿った空気が満ちたその場所はどうにも気味が悪い。


「外か?」


 ふたばを近くの乾いた岩の上に寝かせる。

 その際上着を一応下にひいておく。


「やさしいね」


「いいや、当たり前だろ」


 そんな俺の答えがおかしかったのかケラケラと笑う。


「さっきの質問なんだけどここはまだ外じゃない」


「そうなのか? 次元移動もできるって聞いてたから」


「泳ぎに例えると、息継ぎだよ」


 その答えに首をひねる。


「不安定な場所をを通るからね、私だけならまぁ何とかなるけど、こうして安定した場所を経由しないと安全に出れない」


 そこであきれ気味にアンは付け足す。


「と言ってもここまで広いのと、それに反して空間と空間の間の状態がひどい」


「……なぁ、ここってさっきの場所から見て一番近くて安定した場所ってことか?」


 俺の疑問に首をかしげながら答える。


「そうだけど? 正直荒波みたいな中二人抱えて動くのは辛かったからちょうどいいところがあって運がよかったよ」


「まずいかもしれない」


 え?

 とアンが半信半疑の顔を向ける。


「逃げる方法は次元間を泳ぐ、そして息継ぎのように安定した空間に出ないといけない、なら逃げ道を制御できないか?」


 俺の言葉にアンは一呼吸考えて答える。


「ないとは言い切れないね」


「空間を作ったのはユピテルだ、できない事はないだろう」


 その言葉にうなずいた。

 となるとこのまま呑気に次元を渡って逃げるのは得策じゃない。


「……危険だけど、歩きでの移動を挟んだ方が良いね、幸い広すぎるからユピテルでも完全に把握することはできないだろうし」


 といってアンは手を差し出す。

 ごく自然に繊細なその手を握る。

 すると、どこか体が軽くなったように感じる。


「よし、君はふたばをお願い、私はステルスをかけながら少しでも安全な経路を探すから」


「わかった、何とか三人で脱出しよう」


 そのままふたばまで近づいて動きを止める。


「手を繋いでいたらふたばを背負うとか不可能だぞ」


「ぅ、それもそうか――あ、そうだ」


 と少しだけ悩んで、アンは良い事を思いついたようだ。

 その表情は少しだけ悪戯っぽい笑みが混ざっているようで嫌な予感を感じながらその考えに耳を貸した。

明日も頑張ります。

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