第九三話
できました。
目が覚めたらそこは静かな場所だった。
清潔なシーツとやわらかいマットレス。
そして消毒薬に近いにおいが満ちている。
「どうなった!?」
意識が途切れる直前の光景。
ヒュプノスに後を託したことを思い出す。
すると視界の先に当たり前のようにヘラがいる。
椅子に座り文庫本を読んだいたらしい。
「おはようよく寝てましたね」
「……間に合わなかったのか」
ヘラのあまりの落ち着きぶりに計画は成功し、終わったのかと思い目の前が暗くなる。
それに対してヘラはゆっくりと首を振る。
「ギリギリ間に合ったと言えますね」
と言いながら本を閉じてたちあがり、裾を払い制服に着いたほこりを軽く払う。
すると原理はわからないがまるでおろしたてのようにパリッとした折り目のついた制服になった。
「ともかく大人しくしておいたほうが身のためですよ、くわしいお話はあの人が返ってきてからの方が早いですし」
「わかった」
といって体重をマットレスに預ける。
よほど高級品なのか体を完全に受け止めてきて寝心地が良い。
「大谷君はたまに腹が座っているときがありますね」
「結局俺は暴力に対しては何もできないしな」
とあきらめにに近い感情をこめて話す。
かかわってきた人間たちはその気になれば俺をあっという間にボロ雑巾よりひどい状況持っていけるくらい物理的に強い。
だから緊張しても仕方がないのでせめてのんびりする。
「それで、俺の足はどうなったんだ? 見てないけどちゃんと感触があるって気ことは治ったのか?」
「治ったというより生えたですね、切られた膝から先は断面も無茶苦茶になっていたので繋ぐことはできませんから」
「なるほど」
ととりあえずうなずいておく。
方法はどうあれ結局俺の足は元通りになったのだから大丈夫だ。
そんなことを思って休んでいると荒々しい足音が聞こえる。
出入り口と思われる場所から入ってきたのはユピテルだ。
「帰ったぞヘラ!!」
そうして両腕を軽く広げてこっちに向かってくる。
ヘラは迷うことなくその胸に飛び込んだ。
ユピテルもなれた様子で抱きしめて、いわゆるお姫様抱っこに移行した。
「どうやら大谷少年も起きているようだな」
学校で会った時より若干テンションが高めだ。
それを不思議に思っていると話しかけてくる。
「まさかヘラに一杯食わせたのはすごいな、認識を改めよう」
と言いなが寝ている俺を見下すように見ている。
「ならあることを知りたい」
言いながらじっと視線を向ける。
するとユピテルは鷹揚にうなずいた。
「俺たちが襲われていた時に何を行っていたんだ?」
「見た方が速いな」
と言ったらいつの間にかい俺は立っている。
そのことで疑問はあるが大人く後ろについて行く。
寝ていた時はほぼ気付かなかったがかなり巨大な建物のようだ
そうして陽の光が入る場所でユピテルとテーブルをはさんで話す体勢になっている
「目的はこの空間を作る事だ、外からは中を認識できない空間を世界規模に拡大したかったんだが……」
とそこで言葉を区切って視線を上に向けるよう促される。
それに従って上を仰ぐと妙なものが見える。
全く光を通さないひび割れが見える。
それが発生している場所は空中だ。
「あれは?」
「空間に走る亀裂だ、完成前に一発撃ち込まれたからアレを手掛かりにして探される」
「……なるほど」
おそらく陽川の攻撃だろう。
「ともかくこちらの目論見は最後の最期で瑕疵が付けられてしまった、よくやったとほめてもいいほどだ」
その表情からは悔しさはあるが、恨みも怒りもないのがわかる。
「ともかく少しだけ話をしよう、ここを破られるまでまだ時間があるから」
といってユピテルはこちらにもを乗りだすようにして、話を聞く体勢に移った。
明日も頑張ります。