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第九一話

できました。

「お疲れ様ですね」


「俺は何もしてないけどな」


 そんなことをつぶやきながら目を開けると普段と全く変わっていない廊下だ。

 なかなか厳しい戦いになるようだったが、ふたを開けてみたら全くそんなことはなかった。


「これで一旦おわりか」


 ほっと胸をなでおろしながらつぶやいた。

 が、それに反してヒュプノスは厳しい顔をしている。


「……まだ誰かいるのか?」


「まさかと思っていたんですけどねぇ」


 と言いながら誰かに向かって話しかける。


「ねぇ、ヘラ?」


「ばれていたようですね」


 そんな風に話しながら空間から一人の女子が滲むように姿を現した。

 服装はこの高校の生徒の服装だ。

 先ほどまでの四人は鋭い印象を受ける美形だった。

 が、ヘラと呼ばれた少女は柔らかな印象を受ける美少女だ。

 濃い瞳を持った目は少し垂れ気味で、化粧気がない顔を持ちどこかホッとさせる顔立ちだ。

 緩やかにウェーブを持つ亜麻色の髪をカチューシャで上げており、瑕疵がない容貌を晒している。

 体つきは標準的に見える。


「正妻として妾が掛けた迷惑と暴言に謝罪いたします」


 頭こそ下げないがその言葉は真摯だ。

 それを確認してようやくヒュプノスは緊張を解く。


「お話ができる状態だから助かりましたぁ」


「良人に色目を使っていたら問答無用でしたから命拾いをしましたね」


 その瞬間この場の気温が下がったように感じる。

 息をひそめて体を硬直させる。

 猛獣の前に出てきてしまったような感覚を得る。


「いけないいけない、良人の生徒を脅すつもりなんてなかったのに、反省しないといけませんね」


 そこでようやく死を意識するような威圧感が消え去った。

 もしかしたらその威圧だけで人を殺すことができそうなほど重々しい感覚だった。


「姿を現したという事は何か要求があるんですよねぇ?」


「話が早い人は好きよ、味方になってくれないかしら?」


 その言葉に対してヒュプノスが即座に答える。


「さすがにそれは無理ですよ、今の世界が好きですしねぇ」


 とあっさり断った。

 だからヘラは頼みこむような調子で話す。


「なら敵対しないだけでもいいのよ?」


「内容かわってませんよぉ」


 が、ヒュプノスはそれもあっさり断った。

 さすがにまずいんじゃないかと思いヘラの表情を見る。

 が、その顔には困ったような笑みを浮かべているだけだ。

 イラつきなどはしていない様子だ。


「なら仕方がないですね」


 と簡単にあきらめた様子だ。

 するとヘラは俺の方を見て。


「ちょっとこっちに来て」


 と手招きした瞬間何かに体を挟まれて引き寄せられる。

 ヒュプノスは俺の足を握ろうと手の伸ばすが――


「無理ですね」


 と虚空を叩いた。

 すると何もないはずの場所から固い物を殴ったような音が聞こえる。


「大谷君いらっしゃい、そこから動いたら危ないから動いちゃだめよ」


 とウィンクしながら伝えてきた。

 言われなくてもそのつもりだ。

 何がどうなって手元に寄せられたのかすらわからなかったのだ。

 そしてさっきの感覚からして、俺を殺すつもりなら挟まれた時点で死んでいただろう。

 だから殺すつもりはないはずなので余計な動きはしない方が良いだろう。


「わかった」


 軽くうなずく。

 するとかるく頭を撫でられる。

 身長の関係上ヘラはつま先立ちだ。


「いい子にしてるんですよ」


 と言いながらヒュプノスの方を向く。


「お行儀が良いですね」


「飛び込めば死ぬタイミングで飛び込むほど酔狂じゃないですよぉ」


 とだらりと肩から先の力を抜いて、まっすぐ立っている。


「本当に仲間にできないのが残念」


 と言いながら足元からナニカが現れる。

 ざらざらした質感の外皮――いや殻だ。

 それは横長の体を持ち六本の脚と二本の巨大な鋏を持っている。


「蟹!?」


「ええ、のちの世だと散々な扱いですけどね」


 とどこか不満げにため息をつく。

 が、すぐに気を取り直して悠然と笑う。


「では……」


 蟹ははさみを振り上げる。

 それに対して歩くような速度で前に進む。


「死なないように気を付けてください」


 空気が鳴り、床が弾ける音が聞こえる。

 直撃する手前でヒュプノスは一歩横にずれて避けた。

 二発目も逆側に動いて避けた。


「これはどうする?」


 という声が聞こえたと思ったら大蟹が動く。

 なんとか視線を向ける。

 叩きつけた鋏で体を支えて六本脚での攻撃だ。


「蟹の形をしていますが、中身は違うようですねぇ」


 どこかのんきに分析するように口に出している。

 その言葉に対してヘラはごくごく自然に返す。


「それはそうよ、半神を殺すためにけしかけた化け物ですもの」


 大きく、硬く、そして早い。

 それどころか手数も多い。

 シンプルに強い化け物だ。

 人の腕ほどもある脚の先には床材をたやすく破壊する爪のようになっている。

 間接の形状を無視して打ち込み続ける。


「あと、それは無駄ね」


 と言ってどこかをじっと見つめている。


「ばれてますか」


 と言ってヒュプノスが後ろに跳んだ。

 がその軌道は唐突にこっちから見て右にずれた。


「今までいろんな相手をハメた能力だったんですけどねぇ」


 どうやら視覚をいじっていたようだ。

 それに対してヘラはうなずいた。


「実際私だけだと無理だからいい能力よ」


 と心からほめているように見える。


「……さーてどうしましょうかぁ?」


 とヒュプノスは考え込んでいる。

 その様子をむしろ楽しそうにヘラは見ていた。

明日も頑張ります。

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