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第九〇話

できました。

 懐から取り出され、次々放られる鞠。

 倍々で増えていき、触れたら様々な方法で人体を破壊してくる危険な武器だ。

 それが五つ。

 ヒュプノスのリーチでもそう簡単には詰めることができない位置からの攻撃。

 どうしようかとヒュプノスに視線を向けると――


「舐めてますか?」


 その場で右足を蹴りあげた。

 すると何かが飛んで行った。

 振りぬいた足は内履きをはいていない。

 どうやら足を使って内履きを投擲したようだ。


「は?」


 鞠を投げた女性は呆けたような声を上げた。

 放った鞠の一つに内履きが直撃し、女性の至近距離で鞠が破裂した。

 それに巻き込まれて残りの四つも誘爆した。


「大谷君は見ちゃだめですよぉ」


 とそんな軽い声と共に片手で俺の目をふさいだ。

 が、耳には何かの液体がばら撒かれる音と湿った音を立てる破片が落ちる音が聞こえる。

 そして誰かが倒れるような音だ。


「もう大丈夫ですよ」


 という言葉と共に離される。

 視界にはさっきまでの戦いがなかったかのように静かな廊下だ。


「ちょっと視界をいじってますからあっち行かない方が良いですよ」


 と言って指し示すのはさっきの女性が居た方向だ。

 その言葉を裏付けるようにむせかえるような生臭さがある。


「何をしたんだ?」


「至近距離で誘爆させただけですねぇ、さっきのイオと違って結構()()()()から」


 さらりと恐ろしい事を言い切られた。

 よく見ればさっきのイオの残された物もなくなっているように見える。


「……さっきからものすごく襲ってくる奴らに対して辛辣じゃないか?」


 俺の印象だとここまで苛烈なことを平然とやるような存在じゃなかったと思う。

 すると少しだけ難しい事を答えるような顔になる。


「何といいますか、あくまで人の形をした能力なわけで都合よく作られた存在なわけです、そんな存在が人間のふりをしているとついつい」


 と最後にはどこか恥ずかしそうな様子だ。

 何か譲れない線引きがあるようだ。

 なのでこれ以上は触れないようにして話を聞く。


「流れで逃げているけどこの後どうするんだ?」


「基本はあと一体か二体を倒せば攻め手が緩むはずですねぇ」


 と言って二本立てる。


「正直イオやレダとは違うレベルの戦いになると思いますよぉ」


「強いのか?」


「俺は何とも言えないですけど、二人で襲い掛かられたらさすがに厳しいですねぇ」


 と言っていると、急に俺の頭を押さえつけるようにしてきた。

 こういう時はしたがった方が良いと理解しているので迷わず沈み込むように伏せた。

 同時についさっきまで頭があった部分を通り過ぎる何かが見えた。

 だから背後――さっきまでレダと言われた女性が居た方角を見る。


「ふん!! ネズミ風情に避けられるなんて無様ねガニメデ」


「出し惜しみする貴様には言われたくないなエウロペ」


 向こうに見えるのはスーツを着た細面の中性的な美青年と白いドレスを着たベールで顔の見えない女性だ。

 青年は腕に金属で作られた猛禽をのせ、女性は手に槍を持っている。


「嫌な予想ばかり当たりますねぇ」


 とため息交じりヒュプノスがつぶやいていた。

 いがみ合っているようだが二人で襲いかかってきた。

 持っている武器からするに遠距離から攻撃できる奴がいる状態で廊下の端から狙われる。

 血の独特の生臭いにおいが満ちる中の戦いだ。


「その場から動くこともできず削り殺す、家畜と害獣風情が!!」


 と青年が金属の猛禽を放つ。


「こちらもやりますよ、と」


 と言って槍を投げる。

 投げ終わった瞬間なぜかもう一本槍を握っている。

 それを連続することで槍の弾幕とそれを縫うように飛んでくる猛禽。

 俺を背にした状態でヒュプノスは()()()()()()()()()()


「大谷君、ついてきて」


「え、あ、おう」


 と答えながらおっかなびっくりついて行く。

 進みながら何かをJ蹴り上げるしぐさをする。

 すると槍が空中で唐突に止まった。


「まさか――」


「せっかく残ってますからねぇ」


 となんでもない事のように言いながら、レダの死体を利用して急所を外した。


「さすが動物ね、見境もないようね」


「だが鷹の動きは見切れるかな?」


 その言葉に対してヒュプノスは笑う。


「鷹? なんのことです?」


 と言った瞬間、鷹が地面に突撃しめり込んだ。

 何もせずとも勝手に避けたように見える。

 が、何となくわかった。


「目測を誤らせた」


「そうですよぉ、ここはいろんなものを見えなくさせているから、とても目が良い猛禽はまともに獲物にダイブなんてできないです」


 と言いながら丁寧に踏み見潰す。


「きっさまぁ!! ユピテル様にたまわった大切なモノを!!」


 激昂する。

 それを鼻で笑いながらエウロペは投げ続ける。


「ふん!! わたしはこのまま数で押し切らせてもらう」


 このままじわじわと攻めるつもりらしい。

 実際避けきれないモノや俺に飛んできたもので少しずつ負傷を重ねている。

 そんななかヒュプノスは笑みを浮かべている。


「えーと」


 そんな厳しい状況中掲げた死体に手を突っ込んでいるようだ。

 そうして。


「ありましたねぇ」


 と言って片手に持っているのは()()

 それはレダが放っていた武器だ。

 それを一瞬のスキを突いて二人に投げつけた。


「アレはまずい!?」


「くっ!!」


 ガニメデは身をひるがえし、エウロペは目標を変える。

 逃げるためと迎撃するためだ。


「落ちろぉ!!」


 叫びながら投げられた槍は鞠に直撃する。

 その光景を見てエウロペは安心した表情を浮かべる。


「え!?」


 ()()()()()()()()()()


「まさかっ!?」


 投げた鞠は幻影だった。


「その通りですよぉ、わたしがレダの武器を使えるはずないでしょう」


 そう宣言して、視線が外された隙に隣接しまずエウロペの首に手をかけて――


「大谷君は目をつむっていてくださいねぇ」


 その声に従って目を伏せた。

 そうしてついでに耳もふさいだ。

明日も頑張ります。

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