第九話
間に合いました。
「ガーガ、木下についてなんだけどどこまで知っている?」
「アモリ、お前が思っているよりずっと複雑だぞ」
正直なところ真っ当な家庭環境ではないことは覚悟している。
能力が極端にアンバランスだ。
何も理由がないと考える方が不自然なくらいだ。
「でははなそう、当たり前だが誰かに言うのもやるなよ」
「ああ」
深くうなずいてガーガの言葉を待つ。
一呼吸分だけ俺の方を見て、それから恭しく話始める。
「まずフタバにはもう両親はいない」
「何歳くらいからだ?」
「中学二年生のころからだな、その時に父親が死んでいる、母親はそれから一年後あたりにフタバを残して失踪している」
あまりに意外な過去に息をのむ。
俺の両親は共働きの上よく家を空けているが大切にされているのは理解できる。
親が死ぬことはおろか、捨てられることなんて想像もできない。
そこで疑問に思うのがどうしてそれらの噂話が流れていなかったのかだ。
クラスでの反応は腫れ物に触るような物でもなく、空気のように扱われていた。
「その後中学卒業に合わせて、母方の祖母の家に引き取られたらしい」
「ああ、だからそんな目立つことが全く噂に上がってなかったのか」
それなりという言葉が付くが進学校だし、市外からくる人間もそれなりに居る。
県外からきた人間も数人は知っているので全く話が出回っていない理由も理解できた。
どこからそんな情報を引っ張ってきたんだ、とガーガをいぶかしむが今は関係がないので胸の奥にその質問はしまっておく。
「……言おうか迷っていたんだがアモリは深入りするつもりだろう?」
「ああ、なにか他に問題があるのか?」
「わかった話そう、あまりに得体のしえない話でな」
一呼吸分間をとって口を開く。
その様子はまだいうべきかどうかを迷っているようにも見える。
「フタバの周りには異常に死が目立つ、さっき言った父親は死亡しているといったな?」
「ああ、そう聞いた、まさか他にもいるのか?」
人死になんてそうそう出ない。
これまで十七年程度だが知っている人間が死んだなんてせいぜいが遠くに住む親せきが死んだ程度だ。
ましてクラスメイトでも肉親が死んだなんて木下の件を除けば聞いたこともない。
「その前に少なくとも三人周りで死んでいる、クラスの担任、親戚に仲の良かった友人だ」
最後の人間の関係性に思わず息をのむ。
かつての友人が死んでいる。
それは数日前の俺なら鼻で笑い飛ばしていたかもしれない点だ。
しかし今俺は非常識な存在と関わりを持っている。
それを考えるともしかしたらという思いが湧いてくる。
その様子を見てガーガはさらなる情報を出してくる。
「しかも全員男だ、しかもそれぞれがそれなりに、いや訂正しようかなり親しくしていた」
「待て!!」
鋭い声で制止する。
ガーガの語った内容と今の木下の様子は全く結びつかない。
わざわざ言いなおしたという事はそういう事なのだろう。
だがそうだとするならあの様子とは決定的に食い違う。
「一応確認するが同姓同名の別人の話じゃないよな?」
「ガーガもそこまで間抜けではない、間違いなく本人だ」
「おいおい」
ここまで言い切ったという事は間違いなく本人なのだろう。
高校入学をさかいに人が変わってしまったような印象すら受ける。
そのことから考えるにクラスに紛れ込んだ外敵がかかわっている気がしてきた。
「まさか、木下は……」
「? なんのことだ?」
ガーガは小首をかしげこちらを見てくる。
不覚にもかわいいと思ってしまう。
とりあえずその感情は表に出さないように気を付けながら思いついた結論を話す。
「人が変わった理由に襲ってくるアイツらがかかわっているんじゃないかってことだが」
「ああ、それはない、詳しい話はできないが人が変わったことは間違いなく関係はない」
勘違いという事も考えられるが何らかの根拠があるという事だろう。
そこまで言うならば関係ないという事はほぼ確実なのだろうと思う。
考えらえることは日付だろうか?
もし動き始めたのがガーガと同じ時期だというなら木下に影響を与えたのはありえないと考えられる。
「それにだ、もし影響を与えたとして人の人格を変えたとしよう、今のような人格に変えると思うか?」
「……言われてみれば、潜伏するにしても関わり合いたい人間は少なくなるだろうが、ばれたら目立つな」
「ああ、どう考えてもリスクが高い行動だ」
となるとある問題が起きる。
何が起きたら別人を疑うほど大きく変わってしまったのかという事だ。
父親が死に、母親が自分を捨てたという強烈な体験を得て変わったというのはいかにもありそうだ。
だが、なぜかうまくつながらない。
「ガーガはもう少しフタバの過去について探ってみる、気になるからな」
「ああ、頼む」
おそらく他のクラスメイトについても探っていたのだろう。
いかにも怪しい人間を見つけたとしてそこにだけ関わっていたら足元をすくわれかねないからそれぞれを深いとこまで掘らずまんべんなく探っていたという事だと思う。
個人情報をどこかから抜かれているというのはいい気がしない。
「……分かっている、必要なこと以外には使わない」
「わかっているが、ちょっと気になるのは気になるな」
「むぅ、すまんな」
ガーガはそう言って軽く頭を下げる。
やめるつもりはないという事だろう。
まぁ、かなり危険な相手という話なので多少の倫理観はあえて無視をしているのだろう。
「さて、現在のフタバについてはガーガから言うのは難しい」
「え……」
急に突き放されたと感じる。
が、ガーガはゆっくりと話す。
「過去は記録だから事実は追えるし終わった問題しかない、だが関わるつもりなら今起きている問題にかかわりに行くしかない」
「まて、木下は今まさに何らかの問題を抱えているのか!?」
「陳腐な言葉だが、誰もが何かを抱えているだろう、腹をくくれ」
その言葉を残してガーガは空へと飛んで行った。
後姿を見て思うのはふと思い浮かんだ言葉だ。
「よく考えたらなんでニワトリなのに当たり前のように空を飛んでるんだよ」
そんな益体もない突っ込みが暗くなった空に飲まれていった。
明日も頑張ります。