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第八七話

できました。

 見かけ上は何も変化はない穏やかな朝だ。

 そうした登校途中、普段の道とは離れた場所に向かう。

 向かった先は木下の家だ。

 色々言いくるめてしばらく一緒に登下校をすることにした。

 早乙女の件もあるので用心ためだ。


「ぉ  ます」


「おはよう、ふたば」


 最近かなり木下について考えていたため思わず名前が出てしまった。


「あ、と、すまん」


「ん……」


 とうつむきながらもはにかんだような笑みが見えた。

 どうやら驚いただけで嫌ではないようだ。

 内心胸をなでおろして高校に二人で連れ立って歩く。

 木下――ふたばと歩幅を合わせて歩く。

 言葉を続けるのは相変わらず苦手そうだが、はいやいいえなどのワンフレーズはほぼ問題がないように思える。


「そうか、休日はずっと家に居たんだな」


「はい……」


 と小さくうなずいた。

 早乙女がふたばを見つけられなかった理由は学校まで絞り込んだが、肝心のふたばが全く学校に向かっていなかったからだったことが分かった。

 するとふたばがこちらを覗き込んできて不思議そうな表情をしている。


「? うれ  いの?」


「あ、いや、そういうわけじゃない」


 あわてて否定する。

 が、多数の負傷者や命の危険にさらされるような大騒ぎの中心人物がずっと家に居ただけというのは奇妙なおかしさががある。


「さてそろそろ学校だな」


 時間をずらしたので陽川と月宮に会うことなく校門までたどり着いた。

 連れ立ってげた箱まで歩き内履きに履き替える。

 と、向こうからジャージを着た体育教師兼生徒指導の教師がやってきた。

 その表情はどこか困惑気味だ。


「大谷……お前何やらかした? 理事長が呼んでいる……らしい」


「え?」


 ちょっと予想できない言葉だった。

 ふたばも目を見開いて驚いている。


「昼でもいいから応接室に来いとのことだ」


 最後に、伝えたからな。

 という念押しをして去って行った。


「な  に?」


「俺も知らん」


 と二人で首をひねってとりあえず教室に向かった。


=====


 最初こそ朝の件で少しちょっかいをかけられたが、あるとしたらヒュプノスとの件だがバレるには早すぎる。

 なので首をひねっていると興味が薄れてきたのか昼休みごろには特に無反応だった。

 呼ばれたからとりあえず向かうことにする。

 職員玄関から少し進んだ場所にある、少しだけ扉が立派な部屋の前に来た。

 生徒一人をわざわざ呼び出す用事なんて思い浮かばないので内心不思議に思いながらノックする。


「入りたまえ」


 すると中から堂々とした声で促された。

 中に入ると大きなソファが置かれ。

 それに見合った大柄な体格の男性が座っている。

 パッと見は四十を超えたくらいで、体を鍛えているのかかなり威圧感がある。

 少し白髪交じりの短髪とよく日に焼けた肌を持ち、彫りの深い顔立ちをしている。

 ただの理事長と言うには厳つい印象を受ける。


「君が大谷亜守だな? まぁとりあえずかけるんだ」


「はい」


 素直にうなずいて、対面に置かれた。

 すると理事長は立ち上がる。

 その視線は俺を見下ろしており威圧感がさらに増す。


「まずは質問をしようか、私の名前は当然知っているな?」


「ええと」


 少し悩むが思い浮かばないので素直に頭を下げる。


「すいませんわかりません」


「ほう」


 と片眉だけ引き上げる。

 臆病な人間だったらその動作で委縮してしまうだろう。

 が、それ以上は特に言われず話が続けられる。


「ユージン=オックス=サンダーソンだ、これを機に覚えるように」


「わかりました」


 頷くその間も視線はじっと俺を見ている。

 鋭い視線をずっと向けられて続けているとどうにも居心地が悪い。

 そんな思いを得ていると、サンダーソン理事長が口を開く。


「さて、呼ばれた事に対する心当たりはあるか?」


「……」


 こちらを見抜くような目で見下ろされるのに対して視線を上げて見返す。

 そうして少しだけ考えて話す。


「夜歩きしているくらいしか心当たりはありませんね」


「ほぅ」


 またピクリと反応する。

 実はヒュプノスの関係だと何となく察している。

 が、そ生徒と教師でプライベートな関係を持っているという事がばれたらどう考えても退学と退職コースだ。

 たとえそれが手すら握っていないし、ただの協力者という関係だとしてもだ。


「おかしなはなしだな」


 と言ってゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。

 その光景は恐怖すら感じる。


「先日、養護教諭の真倉先生と日帰りとはいえ旅行に出ていなかったか?」


 決定的な話をおさえられていた。

 背筋に冷や汗が流れる。


「さて、素直に認めたらとも思っていたが、どうしようか……」


 と、何かを考えこんでいる。

 とっさに認めようとするが、思いとどまる。

 決定的な話だが、証拠はつきつけられていない。

 それに認めたら処分を軽くするとも言っていない。

 つまりこれはひっかけだ。

 改めて考えれば当事者を片方ずつ連れてくるのは少し不自然だ。

 というのも先に尋問された人間がもう片方に連絡して口裏合わせも可能だからだ。

 そう考えると今のところは決定的な証拠はなく自白を狙った行動なのだろう。

 大人と子供なら子供の方が口を滑らせる。

 そんな判断だろう。

 だから軽く呼吸して、腹をくくる。


「なんのことですか?」


 自然表情で聞き返すことができているだろうか?

 それすらわからずに綱渡りに挑む。


「まだしらばっくれるつもりかね」


 とあきれ気味にサンダーソン理事長がややオーバーアクションで反応した。

 が俺はそれに反応することなくあくまで淡々と返答する。


「と、言われても……」


 ここまで一切の証拠なし。

 ほぼ間違いなく噂レベルで動いている。

 ここまでの行動はかなり狡猾だった。

 だが気付けた。

 ここからは半ば以上舌戦だ。

 いらバックレるのが通れば俺の勝ち。

 言質を取られたら終わり。

 覚悟を込めた視線を理事長に向けた。

明日も頑張ります。

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