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第八六話

できました。

「っ!!」


 わずかな痛みを額に感じて飛び起きる。


「ここまでしないと起きないって本当だったのね」


 甲高い声が聞こえる。

 窓から差し込む陽の光で妖精のように整った容貌の少女が見える。

 セレネだ。

 空中に浮かんで輪ゴムを持っている。


「……何しに来た?」


「起こしに」


 とごく自然に返されたので聞き返す。


「ガーガから聞いたのか?」


「そうよ、面白そうだからガーガが来る前に起こしにきたの」


 その言葉を不思議に思い時刻を確認すると――


「三時間も寝てないのか……」


 頭も重く体の疲れもろくに抜けていない。

 かと思ったら、その逆だ。

 全く苦労することなく起き上がり、体中に活力がみなぎっている。


「なんだこれ?」


「感謝しなさいよ」


「セレネがやったのか?」


 その質問にセレネは得意げな顔で胸をそらす。

 その様子はどこかほほえましいように見える。


「そういえばガーガはこう言うことはしなかったな……」


「まぁ、そっちが普通、あんまり深入りするなって言われるんだけどね」


「……」


 無言で見ていると、まくしたてるように話しかけてくる。


「まぁ、でも一度寝たらなかなか起きない奴なんてそうはいないから気になるでしょ、だから色々試したんだけどそれだけだとひどい奴じゃない、だから疲れくらいは抜いておいてあげないとね」


 おそらくはガーガに見つからないように手を打ちに来てくれたのだろう。

 だから軽く頭を下げる。


「セレネ、ありがとな」


「ふんっ!! せいぜい感謝しなさい、それじゃ私はこれで行くわ」


「ああ」


 とうなずいてセレネを見送った。


「さて、ガーガに怪しまれないように寝直すか」


「……もう無駄だぞ、アモリ」


 そんな聞きなれた声がした。

 そちらを見ると呆れたような様子のガーガが居る。


「まったくセレネは後先を考えないから困る」


「……俺からしたら恩人だけどな」


 そんな俺の言葉にガーガはうなずいた。

 そこは理解しているらしい。


「ああいうまっすぐさがたまにうらやましいときがある」


「言動が完全に親みたいだぞ」


 俺のその言葉に虚を突かれたのか一瞬言葉に詰まっている。

 その後ゆっくりと首を横に振り話を切り替える。


「早乙女――だったモノについてだ」


「……」


 なかなか重い話なので押し黙る。

 ガーガもまた淡々と話す。


「今のところはおとなしくしている、廃屋に潜んでいるな」


 そこでガーガは一つ咳払いをする。


「で、この場所が問題なんだがアモリたちの高校にそこそこ近い」


「どれくらい近いんだ?」


 恐る恐る聞き返す、

 するとガーガはゆっくりと答えた。


「徒歩五分と言ったら言い過ぎだが、校舎を観察する事ができる場所だ」


「……まずいな、下手すると学校に襲ってくるかもしれないのか」


 俺の言葉にガーガはうなずいた。

 それを見て背筋が凍ったような感覚を得る。


「そちらについてはセレネとガーガで監視をするつもりだ、暴れたとしても拘束できる」


「ならなんでまだ拘束していないんだ?」


 ごくごく当たり前の疑問をぶつける。

 するとガーガは首を横に振る。


「自分の体を変化させる能力を持っているだろう? あまり早く拘束すると抜け出されかねない」


「強化させないためってところか」


 俺の言葉にガーガはうなずいた。

 シンプルな能力だからこその注意だろう。


「問題は至近距離でビーナスが生まれた場合だ」


「何か問題があるのか?」


「ある」


 とガーガは恭しくうなずいた。


「物理的に踏み潰されかねない」


 一瞬拍子抜けするが、違うと気づく。


「……対処する時間がないからか」


「ああ、運が悪かったら出て来た瞬間に踏み潰される」


「……じゃあどうするんだ?」


 聞き返す。

 その質問にガーガは答える。


「下手な刺激を与えないようにするしかない、夜までしのげばあとはそれで何とかできる」


「昼間はどうしようもないということか……」


 しかし疑問が浮かぶ。


「外に影響を与えない魔法って使てなかったか? アレを使えば難しくないと思うんだができないのか?」


「なかから破裂させてくるかもしれないから賭けになる、それもかなり分の悪い賭けだ、セレネと二人がかりで張ったとしても五分五分だ」


 その言葉に肩をすくめて納得する。


「もう検討済みだったわけか」


「ああ」


 とうなずかれた。


「ともかくトリガーの一つになりそうなアモリにはこの情報は伝えておかないといけないから伝えておく」


「わかった、俺はその廃屋に近づかないようにすればいいんだな」


 そうするとガーガが口を開きこう言った。

 もう一つある。


「フタバについても頼むぞ、登下校を行う道から離れているから大丈夫だと思うが一応な」


「わかった」


 短くうなずいて返事をする。


「セレネとガーガで監視をするから滅多なことはないと思うが危険だと思ったらすぐに連絡して逃げろ、今のところはそれしかない」


 そうしたときにしたから母さんの声が聞こえる。


「ご飯よー」


 そんな普段通りの声に昨日――いやつい数時間前の事の後遺症が残っていないことに胸をなでおろす。

 俺の様子を見てガーガは小さくうなずいて窓に向かい飛び去って行った。

明日も頑張ります。

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