第八五話
できました。
「それにしても」
と言いながらずっと不思議に思っていたことを聞く。
「なんで俺にこんなに構うんだ?」
「……今更その話ですかぁ?」
若干呆れ気味に返された。
夢の中でのゲームに負けたから何となく続いている腐れ縁だからだ。
向こうから切ろうと思えばいくらでも切れるはずであるが、何度も命がけの行動を起こしてくれた。
「……前も聞いたんだが、どうして俺なんだ?」
「うーん、どうしても必要ですか? 」
首をかしげて逆に問いかけてくる。
「ああ」
「ふぅ……」
ため息をついて口を開く。
「見ていて危なっかしいんですよ、後先考えず能力も考慮の外に置いて動くでしょう?」
とっさに言い返しそうになるが、結果的にそうなってしまっていたので何も言えない。
そうやって黙っていると小さく笑みを浮かべる。
「あとは趣味ですねぇ、学校教師と生徒の密会ってどこかドキドキしませんか?」
「……いや、それ問題になるだけだろ」
呆れながらそんな言葉を返す。
が少し肩から力が抜けた。
「早い話が、元神は本質的にお節介なのですよ、そして寂しがり屋」
「でも今までの話からすると自らの目的ありきな気がするんだが」
「確かにそうとられるのは仕方ない面もあります」
ですけど。
とヒュプノスは言葉をつなげる。
「乞い願われて、敬われていた存在ですよ、打算はつきますけど頼ってほしいから関わりに行くんですよね」
「……もしかしてこっちに来るための手順で人が間に入っているのもそういう関係があるのか?」
根拠はない。
しかしなぜかそれを思った。
するとヒュプノスは少しだけ驚いた表情を浮かべる。
「すくなくともそういう面はありますね、というのも何らかの望みがある人間に狙いを定めているので」
「……呼ばれたからということか?」
俺のその言葉にヒュプノスはうなずいた。
「そうでもしないと境界を超える事って難しいんですよねぇ……」
としみじみと語り始める。
その目はどこか遠くを見ている。
「両方から手を伸ばすことでようやくつなぐことができるんですよ」
「……そのわりには怪しげな奴らばかりだけどな」
その言葉にはヒュプノスもまた苦笑する。
「破滅的な願望を持つ人って少なくないですかねぇ、何はなくても無駄に不満だけ募らせているような人って、だから普通ではない存在が出て来ただけで結構満足しちゃうんですよねぇ」
だから。
と続ける。
「呼ばれた人に少なくない影響を受けます、だから無軌道な衝動に任せてバタバタ倒れちゃうんですよね」
「……早乙女みたいな感じか?」
その言葉に困ったような顔でうなずいた。
「脳が死んでも生かし続けるくらい強力なんですけどねぇ」
とつぶやいて。
そのあと俺の目を見る。
「まぁ、彼は遠からずガーガとセレネ、そのパートナーに倒されるでしょうね」
「……いまどこで何をしているのやら……」
最後の光景を思い出す。
セレネたちは色々言っていたが、アレが人間だとはちょっと認めたくない。
そういうのもあって少し落ち込んでいると、ヒュプノスが話しかけてくる。
「おそらく危険なのは二人ですねぇ」
「……嫌な予感がするけど誰と誰だ?」
「ひとりは木下ちゃんですねぇ」
そして、ともったいぶって俺に新鮮を向けて話す。
「大谷君です」
「だよな」
ヒュプノスの言葉に同意する。
あそこまで壊れた早乙女が俺を襲ってきた時点で何となくわかってはいた。
おそらく早乙女は木下につながる情報と思っている俺に執着している。
だからあんな状況になっても襲ってきた。
だが、誰を襲うのかはわかっていてもそこからどうするのかが抜け落ちていたのだと思う。
だから殺すような勢いて襲ってきた。
「せいぜい気を付けるよ」
俺のそんな言葉にヒュプノスは首を振ってたしなめてきた。
「そんな程度の危機管理じゃ危ないとおもいますよぉ」
「……じゃあ誰かと一緒に帰るのが良いのか」
少し悩む。
ふと視線を向けるとヒュプノスがニコニコとこっちを見ている。
何となく頼ってほしいらしいが思わず突っ込んだ。
「だから教師が生徒と積極的に私的な接触をしようとしないでくれ」
「そう……ですか」
と明確にへこんだので少し悪い気はするが、陽川あたりと一緒に帰ると心に決めた。
明日も頑張ります。