第八一話
できました。
「まず助けに送ったネムという養護教諭について調べた」
まずい。
という感情が湧きあがる。
本来なら渡りに船のはずだが、冷や汗が浮かび始める。
「経歴はそこまで不審な点はない」
そう言い切られて内心胸をなでおろす。
が、そこから先の言葉でまた肝が冷やされる。
「だからこそおかしい」
「例えば?」
聞き返すと軽くうなずいた後で口を開いた。
「まず警察官が手も足も出なかった相手をたやすく蹴散らした時点でおかしい」
だよなぁ。
アレはやりすぎだ。
と内心で同意する。
「それに身長が高すぎる、だから末端肥大症……いわゆる巨人症を疑って生まれた土地の病院のカルテをあたったが、それらしき報告がなかった」
「さらっと言っているけど、とんでもないなカルテを漁るって」
俺の言葉に軽く笑って、どこかおどけた様子で返事をしてくる。
「蛇の道は蛇という奴だ、ごく普通に協力者もいるからな」
「……疑問があるんだけどその協力者ってガーガが人間じゃないってしっているのか?」
話題をそらす狙いも含めて質問する。
ガーガは少しだけ考えた。
「まぁ、その話はあとでちゃんと話すから安心してくれ」
案の定ずらすことはできなかった。
あまり食い付くと不審に思われるので静かに話を聞く。
「職員を対象にした健康診断の結果だとおおむね問題なし、つまり極端に高い身長を持つ者特有の内臓関係の問題もなかった」
そこでガーガは一度言葉を切り続きを話す。
「答えとしては何のことはない、そういう血――いわゆるガーガたちと同じ側の血が流れている」
どうやらヒュプノスはそういう方向でつじつま合わせを行ったらしい。
そんな風に思っている間にガーガは先に進める。
「さっきの協力者もそういう事だ、昔こっちの人間と恋仲になった者の子孫がいる、その子孫の協力を受けている」
「へー」
聞いて思い浮かぶのがガーガとセレネだ。
そんな存在と子供をもうけたとなると――
「すごい趣味の人が居るんだな」
ぼそりとつぶやく。
セレネは体の大きさが人形くらいだし、ガーガに至ってはファンシーなニワトリだ。
子供をつくるまで行くのは流石にずば抜けて特殊な人間の気がする。
俺のその考えに気付いたのかガーガは半目でこちらを見てくる。
「ガーガたちのこの姿はあくまで省エネ形態だからな、なすべきことを終えたらこの姿は解除していい」
「へー、仮の姿ってことなのか」
「ああ、様々な理由で一時的にこの姿を解除することはある、そうなったとき姿に引かれて情緒が人間に近くなることもある、そうなって意識しだすこともあるだろうし、その逆もあり得る」
となるとセレネが姿を解除したときは想像できるがガーガの解除後の姿は全く想像ができない。
首をひねらせて悩む。
ガーガは首を軽く首を振りながら話を続ける。
「よほどのことがないとガーガは解くつもりがないので納得しておけ、アモリ」
「あ、ああ」
内心を見透かされたようで言い淀みながら頷く。
「まぁ、ガーガたちからしたらあんまり外聞が良いものではない」
「そうなのか?」
そんな疑問を向ける。
するとガーガはため息をついてぼやきに近いトーンで話す。
「考えてもみろ、ガーガたちは仕事としてこっちに来るわけだ、そうして送られた先の少年少女に手を出したわけだ」
「ああ、何となく理解した」
俺のその言葉にガーガもうなずく。
「あんまりいい話じゃないだろう?」
「まーな」
そこでかなり不穏な言葉聞こえたことに気付く。
聞き間違いかと思って再確認する。
「まて、さっき少年少女っていったか?」
「ああ、言ったぞ」
なのでさらに確認を重ねる。
「その場合って魔法少年になるのか?」
「いいや違う、詳しい説明は省くがその人間が女性としたときの姿になって魔法少女になる」
「……ものすごい話だな」
昔に俺みたいな関わり方をした人間が居たら性癖が歪まさせた人間がいるかもしれないな。
などとどこかおかしなことを思った。
「まぁ、そんな相手はめったにいないがな、ただその……」
と急に歯切れが悪くなった。
なんとなく嫌な予感がするが好奇心が湧きあがりガーガに対して質問する。
「ただ、なにか問題があったのか?」
「さっき姿に引かれてしまうって話をしたな」
何となく嫌な予感ばかりが積み重なるがここまで来たら最後まで聞いても同じだ。
だから先を促した。
「していたな」
「時と場合にもよるが女性としての指向が強くなってな」
そこでいったん言葉を切って、どこか言いづらそうに話した。
「そっちの性別に固定することがある」
「……まて男が魔法少女になるのは滅多にいないと言っていたな」
ガーガは視線をそらしながらもうなずいた。
なのでさらに重ねる。
「さっき言い淀んだってことは一件や二件の話じゃない」
弱々しくうなずいた。
「……何割くらいの話なんだ」
ガーガは観念したように頭を下げて話した。
「少なくとも八割を超えている」
「……少なくとも……」
俺の言葉にガーガは弱々しくうなずいた。
「……何かマズイことやってる?」
「おそらくだが」
ボソボソとガーガは話す。
「そういう指向を元々潜在的に持っていたから才能があったという可能性がある」
「そうだとしても、やっぱりまずいんじゃ……」
俺の言葉に観念したようにガーガは力なくうなずいた。
明日も頑張ります。