第八話
間に合いました。
「はい、ってそれだけか」
まぁ、こういう文字でのやり取りならもう少し饒舌かなと思ったがそういうわけでもないようだ。
ずっと悩んでいた様子が目に浮かぶ。
続きの言葉を考えて送る。
友人として送るのであえてあれこれ深く考えずメッセージを入力する。
「飯食った? と」
そのメッセージへの返答はさっきよりはずっと早かった。
何となくだがコミュニケーションをとるスイッチが入るのが遅い事と、止め方がうまくない気がする。
ともかくメッセージの内容に目を落とす。
「はい、春キャベツが安かったので、ねぇ」
「へぇ、もしかして木下が料理を作っているのか?」
そうメッセージを送り、それなりに待つが返信が来ない。
不審に思うが、深くは思わず宿題の続きに手を付けようとしたときメッセージの着信通知が入る。
何の気なしに開くとそれは写真だ。
地味な色合いの器に盛られているのは程よく火が通ったざく切りのキャベツに添えられた分厚いベーコンだ。
「へぇ」
と感心する。
いわゆる写真映えはしないが、毎日用意するなら量を楽に用意できるこっちの方が良いだろう。
なので素直なその気持ちを伝える。
「とういうことはわざわざ撮りに行っていたってことか」
そのことに気付いたので苦笑を強める。
学校での貝のように目立たずじっとしている姿とうってかわり、自慢できることに興味を持たれることがうれしいようだ。
そんな思いをしみじみと感じていると返信がある。
「そんなことないですよ、か」
切って煮るだけの手抜き料理です。
と言葉が続いている。
段々と文章量が増えていることにほほえましさを感じる。
「俺は全くできないから、手間を圧縮して料理ができるやつはもすごいと思うぞ、と」
そこで思い出すは木下は今日すぐに下校したことだ。
おそらく家に帰った後すぐに家事を行う必要があったのだろう。
そう考えるとこれと言って部活動や委員会に参加していない理由もわかる。
「ま、俺もそれらに参加してないけどな」
自嘲気味に笑いながら独り言を話す。
そこで確実に共通の話題となることを選んでメッセージとして送る。
「ところで宿題どれくらい進んだ?」
下手すると答えをたかるみたいな言い方になるな。
と送った後で後悔するが、その時はその時だと開き直ることにする。
すると木下もまた全部できておらず、むしろ俺の方がちょっと進んでいるっぽいことがわかる。
余計な心配だったと胸をなでおろして適当に相談し合いながら宿題を進めることにした。
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そうやって話し合いながら宿題を進めているとわかるのが木下の頭の回転の速さだ。
半ば以上俺が相談している形で回答を埋めていく。
そのことに舌を巻く。
驚くほど速く終了して素直に感謝する。
「思ったより早く終わったは、ありがとな、と」
さんきゅ~。
と言ってるスタンプも送り付ける。
すると、短いがどういたしましてと返ってきた。
書いて言葉を交わし合う分にはかなり自然になってきたと思う。
さて、とりあえずの用事は終わったのでまだ少し話をしようと思っていると唐突に一通だけ来た。
「ごめんなさいまたあした、だと」
あまりに唐突な言葉に疑問が浮かぶ。
何かあったのだ。
時計を見ると出歩くには少々遅いが、深夜と言うにはまだまだ早いという時間帯だ。
少し悩んでいるとガーガからのメッセージがある。
「外をみろ?」
何事かと思い窓を見ると黄色いフワフワした存在、ガーガが浮いている。
慌てて部屋のなかに招き入れる。
見られたら何事かと思われてしまうからだ。
「なんだってこんな時間に!?」
「それなりに急ぎ渡したいものがあるからだ」
といって渡されたのはガーガを模した小さなマスコットのつけられたストラップだ。
樹脂製のそれはつるりとしている。
「これは?」
「子機だ、アモリも巻き込まれる可能性があるゆえにな」
「なるほど、ありがとうな」
おそらく今朝の巨大な山羊の件があって大急ぎで作ったのだろう。
そう考えてありがたく受け取り鞄の目立たない場所に取り付けた。
そしてガーガの方を見てあることを頼むことにする。
「なあガーガあることたのめるか?」
「ああ、昼間アモリと話していた娘のことだろう」
「察しがいいな」
準備の良さに驚く。
するとガーガは胸の羽毛を膨らませて自慢げに語り始めた。
「まぁ、ユミのクラスメイトは手早くだが全員分さらっておいたからな」
「……全員か?」
その早すぎる手際にさすがに疑いに近い感情を得る。
それを感じ取ったのかガーガは心外だとでも言いたげに俺を見る。
「相手がどこから切り込んでくるからわからないからな」
「……」
あえて無言で流すが、相手――ガーガが外敵と言った存在はクラスに紛れ込む可能性があるらしい。
つまり今朝の巨大な化け物だけではなく、高校生に見える姿の奴や洗脳や懐柔に近い行動を行うやつもいるらしいという事だ。
そしてただ暴れるだけではなくて人程度の知能があるという非常にまずい事実だ。
おそらくガーガはわざと漏らした。
気づかせて俺の方でも警戒してほしいからだ。
「なるほど」
厄介ごとを押し付けられた。
という言い方もできるが、それくらいまで信用されたともいえる。
そのことを胸に刻んでガーガと向かい合い、話に耳を傾けた。
明日も頑張ります。