第七九話
できました。
「もうほんっとにきらい!! 人に恥をかかせるとかどんなつもりなの!!」
「ならもうちょっと立ち振るまいには気を付けたろよ!!」
セレネと名乗ったちっこいのは俺を罵倒しながらバシバシ蹴りを入れてくる。
軽いせいか大して痛くはない。
なので言い争いがメインだ。
「はぁ!? なんでセレネが人間風情の目を気にしないといけないのよ!! むしろ眼福でしたありがとうございますじゃないの!?」
と自信満々に言ったが、二つの意味で小さい体だ。
だから鼻で笑う。
「なによその反応流石に本気でぶっ飛ばすわよ!!」
その言葉をスルーして頭を下げる。
「で、二人とも助けてくれてありがとう、再度お礼を言わせてくれ」
神妙に頭を下げられるとさすがのセレネも鼻白み勢いのいい言葉も途切れた。
そのあとすぐにセレネはドヤ顔で話し始める。
「ふっふーん、分かればいいのよわかれば」
分かりやすく上機嫌のセレネとは対照的にリオンはどうにも居心地が悪そうだ。
首を横に振り大したことはしていないというアピールをする。
それに対してセレネがやや呆れ気味に話す。
「リオンはもう少し自分の成果をアピールすべきよ!! そんな縮こまってちゃせっかくこのセレネが協力してあげてるのに軽く見られちゃうでしょ!!」
とない物を無駄に張っている。
そして両親に目をやるとそろそろ治療が終わるのか血色がだいぶ良くなっている。
そうなると気になるのは飛び去った化け物――早乙女の行方だ。
そしてガーガについてだ。
結局この早乙女については助けこそ出してくれたが、なぜか乗り気でなかった。
かなり離れた場所でも陽川による砲撃をしてきたこともあるのにも関わらずだ。
「なになに、似合わない顔しちゃって、馬鹿になったの?」
「なんでそう罵倒してくるんだよアンタは」
するとむっとした様子で言い返してくる。
「アンタじゃないでしょ、セレネにはちゃんと名前があるんだからちゃんとセレネ様って言いなさいよ!!」
「わかったよセレネ」
「様が抜けてるわよ、耳も馬鹿だったわけ!?」
その言葉と共に今度は頭の上に移動してストンピングをしてくる。
が全く効かない。
なので無視して話しかける。
「それであの怪物の後を追いかけなかった理由はなんだ? ヤバいやつだと思うんだが……」
「ふっふーん、ならその馬鹿な耳でよーく聞きなさい」
俺の肩に降りてきて、耳もとで話始める。
「殺すわけにはいかないからよ」
「は!?」
あまりにもいきなりなので一瞬理解できなかった。
言葉通りに捉えるならかなりの危険な存在だ。
だから思わず驚いてみてしまった。
「……」
「あいたっ!!」
セレネに対してリオンがデコピンを入れていた。
それで盛大に弾かれている。
やはり体小さいからか結構ダメージが入ったようですぐに復帰できていない。
「もう!! なにすんのよリオン!!」
とプンスカという擬音がつきそうな怒り方をした。
リオンはあきれたようにセレネを見ている。
「説明不足だって? あ―なるほどそうかもしれないわね」
「説明不足だって?」
疑問に思って繰り返す。
するとセレネは得意げな笑みを浮かべている。
「アレ人間でしょ? だから殺しちゃダメなの」
「アレが人間?」
割ととんでもないことを言われたので思わず聞き返す。
どう考えてもアレは人間ではない。
リオンに視線を向けると困ったような顔をする。
リオンもどうやら俺と同じような意見らしい。
「? 違うの?」
と本当に不思議そうな顔を向ける。
間近でみる整った容貌が視界いっぱいに広がる。
「いや、だってアレどう見ても人間に見えないだろ」
「どうして? 脚が二本あって手もそうでしょ?」
「いや、だからってなぁ」
「? 見た目が違うのが人間じゃないってことなの?」
さすがに呆れかけるが、続くことばで口をつぐんでしまった。
極端すぎる話だが、見た目が違うことが人間ではないという定義になるかどうかは難しい。
「脳は死んでいたけれど、それでも臓器は生きていたのよ」
「……だからって」
俺の中から出てくる言葉は否定だ。
あんな化け物と一緒にしてほしくないという事から来る拒絶だ。
そしてセレネもガーガも人ではないのだ。
となると人の定義についてはやはりずれが生じる。
「ならいつアイツは人じゃなくなるんだ?」
「多分アイツはビーナスだっけ? そいつがかかわってるけどそいつが出て来た時だと思う」
「中から出てくる?」
聞き返すと不満そうな顔をして言い返してくる。
「ちょっと、ない頭でも少しは考えない訳? なおさら馬鹿になるわよ」
「わかったよ」
考えるのは今までガーガと陽川が撃ちぬいてきた存在だ。
最初の謎の奴を抜かせば、最初は山羊、次に羊、蠍に壺だ。
どれもこれも巨大だったがそれ以外に共通点がある。
角やしっぽなどの余計な器官があるか、その逆かだ。
ある種の見た目による区別だ。
いや、むしろ――
「ああ、そういう事か」
「本当に分かったの?」
「人が持っていない機能を持った存在が出てくる」
戦うための角があり、刺すための尻尾があり、物を保存するために手足と内臓と穴をふさいだ。
そんな存在をガーガと陽川は撃ちぬいてきた。
するとセレネは驚いた表情を向けてくる。
そして若干の感心も混じっているようだ。
「へぇ、少しは考えることができるんだね、ほんのちょっぴり見直した」
リオンもパチパチと軽くだが手を叩いている。
その表情はなぜか自慢げだ。
「そういうこと、だからアイツは殺せない」
セレネはそう言葉にした。
明日も頑張ります。