第七八話
できました。
その光景を見ないように目をつむり我慢する。
あと数秒の命だと思い覚悟を決める。
「ギィィィッ!」
金切り音が響く。
同時に柔らかい物に物が連続で突き刺さる音がする。
「ん?」
不審に思って目を開くとそこには俺に襲いかかる寸前の怪物が居る。
ただし全身に金色の棘を生やして。
いや、棘ではない剣だ。
ゆるい曲線を持った剣がざっと二桁。
脚ごと地面を貫いて固定するものや感覚器を貫いて破壊するもの、口腔内を上下にツあ抜くものなど様々だ。
今までこんな時助けに来るのは大体二人だったが、こんな助け方されたのは初めてなので疑問で頭が真っ白になる。
「だれが?」
その言葉に答えるように一人空から降りてきた。
癖の強い金のショートカットの中性的な印象を受ける少女だ。
ゆったりとした白い上とキュロット。
ふわりとした裾からは黒いスパッツが覗いている。
そして特徴的なのは羽織っているマントだ。
毛皮のように毛足が長く、エリの辺りにファーがついている。
色合いもあってどことなくライオンを思わせる魔法少女だ。
「……」
少女は口をつぐんでホッとしている様子だ。
そのまま手ぶりで俺に控えるよう指示してくる。
全身を裏ぬかれた化け物はまだ生きているようだ。
「わかった」
慌ててうなずいて下がった。
それを見て安心したのか、化け物向き直る。
その後に何かを掻くような大仰な身振りで手を振る。
それに従うようにして突き立てられた剣が動き、全身が切断される。
「ヒィィッ!!」
おびえたようなハウリング音が聞こえる。
その大音量に思わず耳をふさぐ。
続いて化け物が全身から血のような物を噴き出している。
それは苦悶の絶叫を上げながら地面の上でのたうち回る。
「キィィィッ!!」
あふれた血の洪水が助けに来てくれた魔法少女に襲いかかる。
体積的にどう考えても怪物に入っていた分より大量だ。
「……」
が、魔法少女は慌てることなくマントを振りそれで受ける。
見た目敵はごく普通の毛皮モチーフの布のようだが、まるで硬度を持っているかのように押されることなく防ぎきる。
あとに残るのは泡立つように消えていく血液だ。
怪物の切断面がボコボコと泡立ち盛り上がることで接合されていく。
見たところ切断系の能力だと相性が悪そうだ。
だが、表情は余裕のままだ。
再生途中でさらに攻撃を重ねるのかと思ったら、こちらの頭からつま先までじっと見つめる。
その後なぜか剣を俺に構えた。
「は?」
明確な疑問を出す前にその剣が振るわれた。
同時に腕を中心に痛みが走る。
が、それだけだ。
「なにが……」
と思っているうちに腕を固定していたギブスが破壊される。
普通ならここで痛みが来るはずだがそれもない。
恐る恐る腕を回してみるがやはり痛みはない。
何が起きたのかすぐには理解できない状況だ。
「ガ――」
そんな混乱のさなか化け物が再度活動を始める。
体中を昆虫の外皮めいたもので覆っている。
どうやら刺される剣の対策らしい。
ただでさえ相性が悪いのにさらに対策まで打たれた。
かなり危険な状況ではないかと思い顔を向けると。
「……」
やはり薄く笑みを浮かべている。
この程度では危険はないという事だろうか?
その顔からは余裕が見てとれる。
「キィィィッ!!」
叫んで襲い掛かってくる怪物に対して剣を構え。
振った。
「ガァァァッ!!」
甲高い悲鳴を上げてのたうち回る。
理由はこちらから見て体の右半分がかじられたように消し飛ばされたからだ。
音は控えめな炸裂音だ。
慌てて化け物が逃げに転じる。
それに対して慌てることなく剣を一閃した。
「キィィィッ!!」
その上半分が羽根らしきもの生やして飛び立つ。
それに追撃をかけようとした時だ。
「そこまでよ、リオン!!」
と甲高い声がした。
そちらを見ると背の高さが三〇センチほどの少女が浮かんでいる。
服装は時代がよくわからないゆったりとしており、全体的に銀の印象を受ける。
その顔はあきれ気味に近い。
「……」
リオンと呼ばれた少女は頬を膨らませ不満そうだ。
が、結局剣を納めた。
その後小さい少女が俺を見下ろす位置で停止する。
「アタシの名前はセレネ、覚える必要はないけど一応名乗っておくは」
「なるほど」
そこでうなずいておく。
その後助けてくれたことを思い出しリオンに頭を下げる。
「助かった、ありがとな、リオン」
俺の言葉に一瞬居心地が悪そうな表情を浮かべるが頷いて受け入れた。
すると不満そうなセレネの声が聞こえる。
「なーんか、アタシのときと対応違くない? 怒るわよ人間」
「気のせいだろ」
とざっくりと斬り捨てる。
すると額の中央に衝撃が入る。
セレネが飛び蹴りを入れてきたからだ。
そこであることに気付いた。
「いて!! なんでだよ」
「恩人への態度が悪いからよ」
実際に助けたのはリオンだ。
だから不信を込めた視線を向ける。
するとドヤ顔で人差し指を立てる。
が、そのあと慌てて視線を逸らす。
「な!?」
フワリと浮かんだのは両親だ。
体が傷だらけだが見たところ死んでいない。
「だから言ったでしょ、恩人だって」
「それは、すまなかった」
と視線をそらした状態で礼を言う。
すると不満げな声が来る。
「ちょっとぉ!! お礼を言う態度ってものがあるでしょう!! ちゃんと目を見て言いなさい!!」
見なくてもわかる満面のドヤ顔だろう。
だが、俺には視線を向けられない理由がある。
「見えるんだよ!!」
「何が?」
不思議そうな声が来る。
だから叫ぶように声を返した。
「その位置だと、服の裾の中がたまに見えるんだよ!!」
言われて、数呼吸後――
「へ、変態!!」
顎に衝撃がクリーンヒットして意識が刈り取られた。
明日も頑張ります。