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第七六話

できました。

 病院の処置室の前で母さんにさめざめと泣かれる。

 深夜の病院だが、多数の人の応急手当てをするために独特の熱がこもっている。

 そんな中、喧噪が抜け落ちたように人がない空間が自然に作られた。

 母親が切々と泣いているのは一定以上の歳の人間には他人でも大分効くようだ。


「遅くなっても帰ってこなかったから心配でたまらなくて、挙句の果てに警察と病院から電話がかかってきたとき本当もに心配したんだから!!」


 ここまで深く心配させてしまったことに申し訳なさを感じる。

 ここのところ遅く帰って心配させてしまうことはあっても毎回ほぼ無傷でかえってこれた。

 だが今日は間違いなく大けがだ。

 まず普通に生活していたら負う事のないような大けがを負い。

 そしてその原因は事故ではなくて事件。

 今更ながらに申し訳ないという気持ちが湧いてくる。


「すいません」


 大人しく頭を下げる。

 わざとではないがこのところ心配させるようなことを立て続けに行っていたのでこれくらいは当然言われる。

 最初は勢いがあったが段々と泣きの比率が大きくなっていく。

 その辺で父さんが割って入ってくる。


「母さんそろそろ亜守の順だぞ」


「そ、そうね」


 腰を上げるがそこで父さんが母さんに言って聞かせるように話始める。


「もうずいぶん疲れているだろう、ずっと気を張っているじゃないか」


「そんなこと――」


 と立ったあたりで一歩だけだがよろめいた。

 それを父さんは受け止めて、椅子に座らせた。


「今はここで休んでいるんだ」


 有無を言わさず母さんを休ませて、俺を連れて処置室に入った。


=====


「大体二か月か」


 レントゲンとを取られ、ギブスをはめられた俺に向かって父さんが話しかける。

 本来ならもう少し短いはずだそうだが、無理に動いていたせいで悪化していたらしい。

 そのことに申し訳なく思って頭を下げる。

 俺のそんな仕草に気付いて父さんは軽く首を横に振る。


「そう思うならもう少し自分の体を大切にすることだ」


「はい」


 と、何とかそんな返事を行う。

 帰りは父さんが運転してきた車で帰ることになるそうだ。

 後部座席まで歩いて座った瞬間どっと疲れる。

 体に石でも括りつけられたかのように座席から立ち上がれなくなる。

 やはりかなり疲れていたようだ。


「もう、無理だ」


 母さんは先に車に乗っていたようで、もうすでに船をこいでいる。

 よほど心労が重なっていたらしい。

 対して多少は余裕のありそうな父さんが話しかけてくる。


「さすがにしばらくは夜歩きはやめておけ、せめて腕が治るまでは」


「はい」


 その忠告を素直に聞いておく。

 俺のその返事に納得したのがか父さんは一つうなずいて車を発進させる。


「何があったのかは言えるか?」


「……混乱しているんで」


 俺のその返答に肩をすくめた。

 そうして一言だけ返してくる。


「わかった、言えるようになったら詳しい話を頼む、母さんには父さんの方から言っておくから」


「お願いします」


 そこで父さんが軽く噴き出した。

 どことなく楽しそうな雰囲気ですらある。

 眠気にあらがっている視界は段々とぼんやりしてくる。


「それにしてしおらしいその様子は似合わないな」


 言われて気づいた。

 だからなんて言おうか悩む間に返ってくる。


「何にせよ、おかえりだ、亜守」


「ええただいま」


 その言葉を口にした瞬間、感じたのは衝撃だ。

 は?

 という疑問が差し込まれる前に何かに押しつぶされひしゃげた屋根に視界がふさがれた。

 前に投げ出され、体中をどこかに打ち付けたられた。

 深夜を大きく周り、夜明けが近いような時間。

 色すら定かではないなか、何が起きたのかを理解する前に割れたドアのガラスから這い出た。


「るぁぁぁぁっ!!!」


 車の前半分を押しつぶしたのはナニカとしか言えない代物だ。

 まず見えるのは全裸で逆さ吊りにされた上半身がのびた軽自動車ほどの大きさの肉塊だ。

 その人間の胸のあたりに巨大な鼻――いや鼻が集合した器官が生えている。

 豚や犬、馬、猫、爬虫類などの様々な鼻がバレーボールほどの大きさに集まっている。

 ハウリング音のような叫びはその喉から出ているらしい。

 そして肉塊には真横に張り付くようにして馬の脚が生えている。

 そして真下から腕が生えている。

 その腕は爬虫類と人間を組み合わせたようなかぎ爪がついている。

 ぶちゅり。

 と生々しい音がして胸に生えていた期間が弾けて新しい器官が生える。

 それは眼の集合体だ。

 大きさこそ違うがそれは昆虫の複眼を思わせる。


「きぃぃぃっ!!」


「っ!?」


 その大音量に思わず耳をふさぐ。

 そこで気づいた車だったモノの下から何か液体が漏れて広がっていること。

 そして見覚えのある腕が伸びている。


「あ――ぁ」


 襲ってきた化け物は複数の目で俺をじっと見ている。

 そして俺向かって歩くたびに生えている人間の首はオモチャのように左右に揺れる。

 まるで支えがないように。

 その非現実的な絶望のなか、頭が冷静に回転し始める。

 つまり、助けるか見捨てるかだ。


「ぅ  ぁ」


 頭の中ではどうやっても助けることはできないという結論が出る。

 が、何度も何度も無駄に考える。

 助けることを拒むように。


「ひぃぃぃっ!!」


 勝鬨を上げるようなそんな絶叫を上げて謎の怪物が飛び掛かってきた。

明日も頑張ります。

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