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第七二話

できました。

「こっちにかまうな!!」


「っ!!」


 そんな叫びが聞こえて、向かいの警察官が覚悟を決めて立ち上がり――


「うぉぉぉ!!」


 俺をパトカーの後部座席に押し込んだ。

 運転席に座り、左手で使いづらそうにエンジンキーを回し始動させる。


「そうだぁ!! それでいっ――」


 不自然に叫びが途切れる。

 同時に交通事故のような派手な音が聞こえる。

 ハンドルを握る警察官は食いしばりただ一心に離れる。


「君を安全な場所まで逃がしたら置いて引き返すからそのつもりで」


 まるで自分に言い聞かせるように話す。

 ハンドルを握る残った腕も節が白くなるほど強く握りしめている。

 その鬼気迫る様子に何も言えずただ黙る。


「わかりました、ただ――」


「ただ?」


 そう答えた警察官の目はギラギラと輝いている。

 が、それに反して顔色は白が近い。

 どう見ても血が足りていない。


「体調が悪いように見えるんですが」


「ッ!?」


 表情が険しくなる。

 しかし言われなくてもわかっていることなのだろう、だがその鋭い視線は変わらなかった。


「ならどうする?」


 藁にもすがる思いだろう。

 早乙女はもはやただの人が対処できるような存在じゃない。

 けが人が何とかできる相手じゃないと思う。

 だがそれの説得をできる言葉を俺は持っていない。

 人生の長さが違うからだ。

 だからただ押し黙るしかなかった。


「……っ!!」


 俺が言葉なく立ち尽くすように見ているとまだ無事な右ひじでドアガラスをたたく。

 どこかくぐもった音が響いて、血の飛沫が飛んだ。

 その顔はとてつもなく悔しそうだ。


「わかってる」


 とだけつぶやいて前を向いて片腕だけで運転を続ける。

 割り切らねばならないと覚悟を決めたらしい。

 もうずいぶんはなれたところでパトカーは路肩に寄せて停止する。

 向かいからは数台のパトカーと救急車がやってくる。

 救急車から担架をかついだ複数の救急隊員が走ってくる。

 見るからに重症の警察官をまず救急車に連れていく。

 がそれを振り払うようにしてとどまり来た警察官たちの一人に近づいてゆく。


「報告です」


 明らかに今すぐにでも救急車に乗せて搬送しなければならない状態だ。

 しかしそれを受ける相手は一つだけうなずく。


「……頼む」


 と言葉少なに先を促した。

 血の気が引いた顔で敬礼をして、口を開いたあたりで俺の肩に手を当てられる。

 驚いてそちらを見ると救急隊員だった。


「君は歩けるようだから早く救急車に乗ってくれ」


「あ、はい」


 とうなずく。

 ここから先は警察の仕事になるだろう。

 が、もっている装備らしきものはなくただ人を集めただけのようだ。

 一応人数分は拳銃があるだろうが、もう化け物になった早乙女をどうにかできるとは思えない。

 そんなことを思っていると――


「いた!!」


 と聞きたくない声と共にパトカーがひしゃげた。

 やったのは早乙女だ。

 もはやかろうじて人型としかわからないレベルだ。


「あぁぁぁぁっ!!」


 片手で脇のパトカーを破壊した。

 仕方がないので俺はその場から下がることにした。

 続いてその時点で吹き飛ばされていない複数の警察官が拳銃を抜いて警告を向けた。

 その瞬間に一人の顎がひしゃげた。

 慌てて残りの人間が引き金を引くが顔を守ったくらいで大したダメージは受けなていない。

 のこった警察官のうち一人がどこかに連絡を入れている。


「そうだ!! 武器というより大型の熊のような存在だ!! 最低限熊を射殺できる奴だ」


 あたりは混乱に満ちている。

 こそこそと俺は逃げ隠れしながらなんとかある程度離れた。

 するとその頃に着信がある。

 痛む腕で苦労して取り出し発信者を見ると――


「ガーガか」


 急いで受ける。


「ガーガ、助けてくれ」


 こっちのことを知っているだろうからストレートに頼んだ。

 が、帰ってきたのは無情な答えだ。


「すまんアモリ、今は難しいんだ」


 とその言葉を聞いて目の前が真っ暗になった。

明日も頑張ります。

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