第七一話
できました。
打撃音が響き何かがトラックの壁に激突する音も同時に響く。
激突した衝撃で庫内を人体がバウンドしたようだ。
「はぁ!?」
さすがに驚いて身を起こす。
そこに見えたのは地面に転がったフラッシュライトに照らされて冗談のように多くの血を吐いている警察官。
そして扉から入ってくる光に照らされた早乙女だ。
が、その体がおかしい。
「……なんか膨らんでないか?」
いや、正確には筋肉が異常に増えている。
同時にみるみるうちに髪が伸びていく異常な光景だ。
「が、な にを――」
「うるさい」
そんな軽い言葉と共に一瞬きで移動し、トラックの荷台を踏み抜くような速度で踏み込んで踏みつけている光景だった。
その音は打撃というより破裂に近い音がした。
それなりに離れた場所にいる俺の頬にも何か液体が飛んできた。
ぬるりとするそれは触れなくてもわかる、血だ。
「一体何が?」
いきなり鳴った轟音に対して不審に思った若い警察官が中をのぞいてきた。
中の惨状を見て一言――
「お前っ!?」
その時とっさに警棒を手に取ったのは立派だと思う。
が、甘かったようだ。
「じゃま」
の一言で腕を振るうと蛇のように髪が伸びてゆき――
「ぎっ――」
豆腐に針金が突き刺さるように簡単に貫通した。
慌てて逆の手で腰の拳銃に手を伸ばす。
が、それを見逃すようなつもりはなかったらしく。
ぐるりと振り回すと天井にぶつけられる。
そして手元に引き寄せる。
「さよなら」
そんな軽い言葉と共に右の拳を振った。
何かが引き裂かれる音がして外に警察官が飛んで行った。
よく見ると早乙女の髪にはべったりと血と人体の破片がついている。
「何をしているんだ……」
「だって捕まりそうになったから」
と言い放った。
その体はすでに人とは言えない。
背丈はすでに三メートル近くあり、床に届くほどの髪の長さになっている。
「この、体は嫌 なのに」
とぶつぶつ言っている。
これがラストチャンスだ。
開いている扉に向かってジャンプする。
途中で引っかかりかける。
これまでかと覚悟を決めたら――
「うおおぉっ!!」
雄たけびと共に外にひきづりだされる。
相手は警察官だ。
右手がズタズタにされており、左手一本で連れ出される。
「ありがとうございます」
「気にするな、市民を守るのが仕事だから」
と言って無線機で呼びかける。
「先ほど報告した場所で話を聞いていた人物が突然暴れた、脇に居た民間人は確保した、中で質問を行っていた隊員は負傷、わたしも負傷しています、強力な何らかの武器を保有している模様」
パトカーに向かおうとしているので肩を貸して向かう。
警察官は軽く頭を俺に下げてくる。
「だからわからない、銃ではないと思うが一動作で片腕がズタズタにされた、まともじゃない」
パトカーを挟んでトラックを見張るような位置に移動する。
もうすっかり周りは暗い。
街灯もないさびれた場所で、近くに公衆トイレと思われる建物がある。
「早く応援を頼む、こうして観察しているだけでも危険な気がする」
その問答を最後に通信を終えた。
大量の血が流れたからか顔が真っ青になっている。
が、その表情は俺を安心させるためか笑みを浮かべる。
その顔は痛みの為かひきつっているがその心遣いをありがたいと思う。
「俺に何かできる事ってありますか?」
「君も腕折れてるだろう」
「え?」
言われてようやく思い出した。
が、この痛みで大分転げまわったからか比較的我慢できる。
だからちょっと涙目なっているだろうが頷いて大丈夫であることをしめす。
その様子を見て警察官はため息交じりにつぶやく。
「そうであろうと危険なことをさせるわけにはいかないんだ」
「わかりました」
と返事をする。
中から外壁を殴るような音が聞こえてくる。
そのことに対して警察官は首をかしげる。
だから俺から中の様子を話す。
「中の相手……早乙女ってやつは脇の扉から出ることができないくらい体が大きくなったみたいで」
「これがなかったら信じなかったな」
と言ってズタズタになった右腕を示す。
血で汚れていて、断面からは白い骨やぶら下がる肉が見える。
見るからに大けがだ。
「くそ、先輩を何とか助けないと」
「後ろの扉を開けたら逃げれるかも」
と言った瞬間だ。
小さいほうの扉からズタボロになった警察官が片手でつられるように外に掲げられる。
その大きさはもう人間の域を超えて完全に化け物だ。
「ぐ――あぁぁっ!!」
力任せに握ったのか、その口から絶叫が漏れる。
それを見て直感する。
取引だろう。
「あけろ!!」
そんな単語が聞こえる。
外壁を破るより外から背後の扉を開けさせる方が早いと踏んだらしい。
俺の隣にいる方の警察官は腰を上げる。
そのときだ、ぶら下げられた警察官から痛みによる絶叫以外の叫びをあげる。
「聞くな!! 今コイツは出れん!!」
「だまれ」
人形を振り回すように振った。
外壁と地面に一度ずつぶつけられて一回ずつ叫んだ。
手足が力なく揺れている。
「どうする?」
荷台からどこか余裕をもったそんな声が響いてきた。
それに対して俺と警察官は顔を見合わせて、どうするかを決めかねていた。
明日も頑張ります。