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第七話

間に合いました。

 ヤバい。

 そんな言葉を思い浮かべながら相手の言葉を待つ。


「ぬ ぬいぐるみとお話ししていました よね?」


 再度問いかけてくる。

 正直なところ押しが弱い人間のように見えるので気のせいという事にすれば押し通せる気がする。

 しかし相手は必死に苦手なことを乗り越えて質問をしたのだ、その対応はあまりに誠意がない。

 だからまず相手をちゃんと見るために向き合う。


「ひっ ぅ」


 としゃくるような声を上げて視線をそらされた。

 そのことで若干出鼻をくじかれたが気を取り直して話そうとすると――


「わ、わたしも やっちゃっうことが あって、さすがに 家だけだけど」


 急に妙なカミングアウトが始まってしまった。

 しかも俺の方が上級者のような扱いがごく自然に入った。

 さすがにそれは誤解なので訂正しようとする。


「いや、そのな」


「人と話すのが にがてでだから練習 みたいな感じで」


 聞いてない模様。

 おそらく話すことで精いっぱいになっているのだ。

 何らかの事情があるのかもしれないが奇妙だ。

 高校生でその行動を行っているのはいくら何でも子供じみている。

 彼女は面倒な事情を持っていて、深く関わるのはやめた方が良いのは頭では分かっている。


「だから ちょっと安心した 似た事しているひともいるんだって」


 少しだけ恥ずかしそうに笑いながらそう話す人間を突き離せるかと言われたら、俺はできない。

 俺はバカだなぁ。

 と思いながら彼女の話が一段落したところを狙い返事をする。


「なるほど、そろそろ話してもいいか?」


「あ と、ご めんな さぃ」


 急激に声が尻すぼみになった。

 失敗したと思ったのか異常におびえている。

 だから努めてゆっくりと話しかける。


「いや、大丈夫だ」


「ぇ  もぅ」


 しかし言われた方は俺をうかがうような目で見てくる。

 それはある意味当たり前の反応だ。

 言葉と思っていることは違っていることはよくある。

 それへの警戒は時間をかけて関係を作っていくしかない。

 道は長いが、まず行うべきことをする。


「そういえば自己紹介がまだだったな、すまん」


「ぁ そぅ  ば」


 彼女は今更の事実に気付いて驚いたらしい。

 後回しにしていた俺が悪いという事にして頭を下げる。

 すると彼女も慌てて頭をぐにゃりと下げてくる。

 気にならないと言えばうそになるが、あえて触れないようにして会話を続ける。


「俺の名前は大谷 亜守、クラスは――」


「し てる、おなじ ラス」


 おそらくだが、同じクラスだという事を言っているらしい。

 全く覚えがないので素直に頭を下げる。


「……すまん、知らなかった」


 その言葉に彼女は慌てて首を振り否定する。

 同時にある種の納得ができた。

 コミュニケーション能力への不安があり、それを彼女自身認識している節がある。

 それでも俺に話しかけてきたのはクラスメイトで少なくとも顔と名前は知っていたからだ。

 逆に言えばその程度で判断できてしまうほど人づきあいが薄いのだ。


「ぃ 」


 未成年の俺が言えた事ではないかもしれないがいつかろくでもない奴に騙されそうな空気がものすごく漂っている。

 体も常にフラフラしており、常に何かにおびえるようにしている。

 これからどうするかはとりあえず置いておいてまずは本当に知り合いになるところから始めようと思う。


「それでお前の名前を聞きたいんだが、いいか?」


「ん ふたば、 きのした ふたば」


「漢字はこうか?」


 スマホのメモ帳アプリを起動させ、木下ふたばと入れたものを見せるとうなずいた。

 そこでどこまで踏み込むべきか考えるが、すぐに方針は決まった。


「とりあえず友人ってことで連絡先を交換しないか?」


「っ!?」


 明らかに驚いた様子で二・三歩さがった。

 が、少し悩んだ後でうなずいた。

 取り出されたスマホはかざりっけが一切なくカバーすらつけられていない。

 緑が目立つあのSNSアプリは入っていたのでお互いに登録した。


「これでいいな、後で連絡するから」


「ん」


 微かだが確かにうなずいたのを確認して別れる。

 結構シャレにならない空腹を感じながらあることに今更気づいた。


「そういえば、俺への誤解がそのままだった」


 木下の中では俺はかなりの上級者になっている。

 が、誤解を解く時期はいつか来るだろうと考えてとりあえず水で空腹をごまかすために水道に向かった。


=====


「ただいまー」


 玄関のかぎを開けて、挨拶しながら家に入る。

 すぐに鍵をかけて脱いだ靴を靴箱に戻す。

 いつも通りだが両親はまだ帰ってないようだ。

 そのまま洗面所に向かい手洗いとうがいを行ったあとでスマホのロック画面を見る。


「まだか」


 木下からのメッセージは届いていないようだ。

 あれから教室に戻ったら机にうつぶせになっていた。

 休み時間になると俺の方を見ることもなくただじっとしていた。

 まるでかかわりあいを拒絶しているようにも見えた。


「ふむ……」


 何となくだが躊躇しているだけだと思う。

 なので俺の方からメッセージを送る。

 ベッドに腰かけて、スマホのSNSアプリを起動させた。


「『おーい、起きてるよな?』っと」


 その後、しばらく待ったがなかなか返信されない。

 表示からすると読んだのは確かのようだが、どうにも反応が悪い。

 仕方がないので明日の宿題を開いてやり始めることにした。


「ええと――」


 ある程度はすすめたがどうにも行き詰まった感じがしたとき、スマホに新着メッセージの通知が来ていた。

 送り主は、木下だ。

 幸いそれほど時間が経っていないので木下とのメッセージのやり取りを開始することにした。

明日も頑張ります。

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