第六九話
できました。
「通報があったのはこのトラックだな?」
とそんな複数の人間の声が聞きこえる。
どうやら通報されたようだ。
観念するのかと思ったら、いきなり頭をバリバリ掻き始める。
「ちぃぃっ!!」
そんな盛大な舌打ちをして、俺の喉をつかむ。
おそらく声を出したらそのまま殺すという脅しなのだろう。
ほどなくしてノックする音が聞こえる。
「……」
「運転席にもいないですし担がれたんじゃないですかぁ?」
「かもな、一応座席だけ見ておくか」
外でごそごそ音がする。
祈るようにして待つ。
するとそかあ声が聞こえる。
「……運転手ぐっすりですね……」
「こりゃ悪戯だな、帰るぞ」
「うっす」
そんな会話を聞いて絶望が満ちてくる。
対照的に江種は心底嬉しそうだ。
騒げば注意を引かせることができるが、今度こそ死ぬかもしれない。
一か八かの賭けとするにはあまりにも分が悪い。
もうこれまでかと覚悟する。
すると唐突にクラクションが鳴り始める。
「なに!?」
江種は明らかに驚いた表情を浮かべる。
おそらく興味を引かせるためにガーガが何かをしたのだ。
いきなりの事態に警察も引き返して来てドアガラスをたたき始める。
「もしもし!! どうしましたか!? うるさいですよーっ!!」
「……何かおかしくないか? これだけうるさいのに運転手がピクリともしない」
さすがに何かがおかしいと気づいたのか、どこかに連絡を入れる。
その声は先ほどまでとは違ってどこか緊迫感のある様子だ。
聞こえてくる単語から考えるとどうやら応援を呼んでいるわけではないがトラックの特徴などを報告してるらしい。
「まずい」
明確にうろたえ始めた。
はたから見ているとかなり狂った人物のようだったが、さすがに警察はまずいという事は理解しているらしい。
はっきり言えば江種は追い詰められた。
この状態で車から出たなら拘束まではいかないまでも、足止めをされて荷台を確認されるだろう。
そうしたなら俺が拷問を受けていたことが判明して身柄をおさえられて事情を聞かれることになる。
俺にやらかしたことだけでも何らかの刑罰が下るだろう。
つまり、やけくそでとんでもない行動を起こすかもしれない。
俺を人質にする程度ならまだいいが、最悪俺を殺すかもしれない。
だから外に聞こえない程度の小声で話す。
「なぁ、取引をしよう」
「な、なにが?」
だからイニシアチブをとる。
妙なことを考える前にこっちで思考を誘導する。
江種はそれこそ藁でもつかむような状況だろう。
「俺の言うとおりにするならいきなり逮捕されることはなくなる」
「……条件は?」
「俺を開放させる」
「分かったわ」
少しは考えるかと思ったら即答だったことに肩透かしを食らう。
が、話が早い事は良い事だと思いなおして話を続ける。
「今はとにかく服を着ろ、そうしないとどう考えても不審者だ」
「わ、分かったわ」
頷きいそいそと服を着だす。
手つきが着慣れていることに若干げんなりするがとにかく聞かなければならないことを聞く。
「運転席にいるのは人間なのか?」
「いいえ、違うわ、精巧な人形よ」
「よし」
頭の片隅で実は死体だったという話が来ないかひやひやしていたが、それなりに穏便な手段だったことに胸をなでおろす。
着替えている江種に向かってさらに話を続ける。
「服を着終わったら、俺の拘束を解いてくれ、どうせ腕は折れているんだから逃げらない」
「……まぁ、そうね」
今度は少し悩んでいた様子だが、結局飲んだ。
やはり両腕が折れているという事実は大きいらしい。
「基本的には俺は事故に合って折れたって体で行く、で事故ったのは江種アンタだ、一応聞くがこのトラック運転できる」
「……病院等に連絡しなかった理由は?」
「今すぐスマホなりを壊しておいて、スマホがなくて連絡できなかったとでも言え、であとは慌てていたの一点張りで」
そんな話をすると、若干ためらった後に中からデータの記憶媒体を抜き取って踏み壊した。
そんな形で軽く口裏を合わせながら嘘八百をでっちあげ始めた。
俺の本当の狙いに気付いてくれるなと祈るような気持ちで着々と準備を進めた。
明日も頑張ります。