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第六六話

できました。

「ぅ……」


 頭がズキズキと痛む。

 痛む場所を確認しようとして身動きができない事に気付く。

 どうやら縛られて椅子に座らされているらしい。

 周りを見ると薄暗い、そして湿った匂いがする。


「ここはどこだ?」


 口から洩れた言葉は震えが入っている。

 どうやらかなり疲れが来ているようだ。

 全力で拘束をほどこうとする、がかなりしっかり縛られているらしくびくともしない。

 と唐突にどこか弾んだ声が聞こえてきた。


「やぁ、目覚めたかな? 大谷君?」


 その声には聞き覚えがある。

 それはつい先日に出会ったばかりの危険人物――


「江種……伊織……」


「そうそう、そうだよ」


 そのとき頭に浮かんだのは以前に合った時とキャラが違う。

 そんなどこかずれた考えだった。

 おそらくこちらが素なのだろう。

 その言動はふとした弾みに俺を殺すことを想像させるほど不安定な印象を受ける。

 耳元で湿った呼気を吹きつけてくるようなそんな距離と体勢で話かけてくる。

 その喜色悪い行動に思わず顔をしかめる。


「その表情はなんだ!?」


 と唐突に切れて殴られる。

 真横からこめかみのあたりを殴られて逆側に突き抜けるような鋭い痛みが走る。

 殴られた場所を熱く感じる、そしてドクドクと脈打つような感覚と共にじわじわと痛みを感じる。

 感覚からするとひどく晴れることになると思う。

 そんなことを感じ取りながらやはり前に会ったときよりずっと情緒不安定になっているようだ。


「わかったか?」


 そうはなす声はぐっと低く太くなっている。

 まるで男の声のようだ。

 そのことに気付いてあまり刺激しないように言葉を選んで話す。

 会話を行う理由は時間稼ぎだ。

 どれだけ時間が経ったのかわからないが、おそらくガーガあたりが探していると思うからだ。


「もしかして、男か?」


「ぅ……んん!!」


 と、喉の調子を整えるように咳払いをする。

 その後、またひどく湿った声が聞こえる


「これでどう?」


「……戻ったな」


「それはよかった」


 その声からするとホッとしているようだ。

 アンバランスな状況にクラクラする。


「あれから木下ちゃんを探したんだけど見つからなくてね」


「そうなの――っぁ……」


 いきなり首を絞められる。

 その力はどう考えても男の腕力だ。


「そんなことを聞いてるんじゃないのわかるでしょ、さぁさぁ!!」


 気道ごとおし潰すように絞められているせいでひどく痛む。

 そしてろくに話すこともできずに意味を成す言葉が話せない。


「なんで!! はなさない!! の!!」


 ガツン、ガツン、と視界に星が飛ぶほど強くなぐられる。

 そんなときもやはり首を絞められているので何も話せない。

 絞め方が悪いせいか半端に意識が持つのでたちが悪い。

 何度殴られたかわからないほど殴られてようやく首を絞め続けたことに気付く。


「さあ!! 話して!!」


 乱暴に手を放して頭に響くほどの大声で言われた。

 そんなときにぼんやり思うのが、ある種の納得だ。

 木下の母親を拷問したのはコイツだろう。

 尋問のつもりなのかもしれないが理不尽な質問と暴力を浴びせ続けることで正常な判断を奪わせるのだ。

 今が非常時だからかボコボコに殴られるのと反対にドンドン頭が澄み切っていく。

 つまり江種は自分が聞きたいことを話している間はおそらく激昂しない。


「木下……の、ことだな」


「そう!! そう、だから早く話して!!」


 その声は男の太い声になっているが口調は女を演じているときのままだ。

 非情に気色の悪い状況にげんなりするがそれに感ずかれると何をされるかわからないので必死に抑え込む。

 とりあえずしこたま殴られたので、いまだにぼんやりとしている演技をする。

 視界の焦点をわざとずらし、うつむき気味で浅く呼吸をする。


「木下は……クラスメイトで……」


 江種が興味を持つが個人の特定につながらない情報。

 それを必死に探しながらゆっくりと話す。

 体格は対象になる人間は多いが、明確に区別できるからダメだ。

 という事でまず思い浮かんだ情報を話す。


「話してみる、と結構面白いやつだった」


「そんなことは、分かってる!!」


 殴られる。

 が威力はさっきみたいに遠慮なく殴られる感じではない。

 話始めたと思わせたことが功を奏したようだ。


「まってくれ、ちゃんと話す」


 深呼吸して、わざと震えるような声で話す。

 殴られておびえ切った人間のように。


「声は、クラスメイトの中では高めだった気がする」


「へえ、なるほど」


 個人情報というので少し気をよくしたようだ。

 が、声の高さなんて話すときの状況でいくらでも変わるし、そもそも木下はそうそう話さない。

 そして何より絞り込むこともできないないのだからこんな情報なんて無意味だ。

 しかしそんなことを無視している。


「それで他には?」


「ほか……には」


 とどうでもいいような情報を頭の中で並べながら拷問に近い尋問を受ける。

 早くガーガが助けに来ることを祈りながら、狂人との綱渡りを行うような会話をつづけた。

明日も頑張ります。

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