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第六三話

できました。

 朝とはいえ多くの人が行き交う待ち合わせ場所。

 そこでただジーっと月宮を待つ。

 このところ張り詰めた空気の出来事ばかりでただ待つようなことがないためホッとする。


「いつ以来だ? こんな時間は」


 危険な意思を俺に向けてくる奴はおらず。

 穏やかな空気が満ちている。

 そこで指折り数えてみるがまだ一週間も経っていないのだ。


「うわ、濃い時間過ごしたな」


 ぼそりとつぶやく。

 何度も危険なことに巻き込まれ、何度も本気で殺されかけた。

 最初は観戦して、次は巻き込まれ、ついでに狙われたかと思ったら、昨日ついに直接狙われた。


「……気のせいかもしれないが段々命の危険が近づいてないか?」


 口に出した、背に氷でも突っ込まれたかのように体に震えがくる。

 今更ながらに腹の底に重苦しい物がたまっていることに気付く。


「なん でいまさら?」


 体の底から来る震えのせいでカチカチと歯が鳴っている。

 おそらく危険にさらされていた時は体が動かなかったり、冷静でいられなかった死んでいただろう。

 その恐怖や緊張などを一時的にマヒさせて、はっきりと日常に返ってきたと意識したとき改めてやってきたのだ。

 体がこわばっているのを感じるので一つ深呼吸をする。


「ふぅ……」


 そうするとようやく緊張が少しほぐれた気がする。

 それを確認した後で苦笑を浮かべる。


「これが昨日とかに出ていなくてよかったよ」


 そうしたらおそらく俺は今日を迎えることができなかっただろう。

 そんなことを思っていると――


「あ、いたいた」


 という聞きなれた声が聞こえる。

 そちらを見ると月宮だ。

 格好はシンプルに色味をおさえているが、素材が良いせいかとても似合っている。


「遅れたかな?」


「いや、こんなものだろ」


 時間的には少し余裕がある。

 俺の言葉に月宮ははにかむように笑った。


「で、今日の予定だが本当にノープランだ」


「まぁね、そう聞いていたし……ん~、せっかくだから少し体動かすのしない?」


「OK、あ~ゲーセンに行ってから考えようか」


「だね」


 と男二人で連れ立ってとりあえず決まったゲーセンに向けて歩いて行った。


=====


 張り詰めた空気がある。

 騒がしい喧噪は聞こえているが頭の中で意味を成しておらず、ただ一点を狙い集中する。

 得物で標的はじっと狙う。


「ふっ!!」


 軽く息を吐いて放つ。

 硬質な高い音が響いて標的にまっすぐ進んだ。


「よし!! 5番ボール入った!!」


 オレンジ色の的球がポケットに入る。

 が、手球も勢いを殺せずそのままポケットに向かってしまう。


「あ……」


 そのまま無情にも入ってしまった。


「というわけで僕の番だね」


「くそー、強すぎたか」


 と月宮に場を変わる。

 ゲーセンに行ったら、なんと一部が改装されて数台しか置かれてないがビリヤード台が置かれていた。

 道具のレンタルを入れてもさほど高くないので早速借りて二人で遊ぶ。

 ルールは大きめのホワイトボードに手書きと思われる物が書かれてあるのでそれに従って遊ぶ。

 九個ある的球の中で黄色い帯の入った九番の的球を最後に落とすルールだ。

 白い手球をポケットに落としたり、的球に当たらなかったり、台の外に出してしまったらファール。

 本当はもっと複雑なルールだそうだが、分かりやすいようにものすごく簡略化したらしい。


「えーと、じゃあここから」


 と言って残った四つの的球で孤立した六番の緑を狙いやすい位置に置く。

 軽くキューを構え、突いた。


「よし!! ここはまず取った」


 カン。

 と鋭い音がしてまず一つ落とされる。

 が、変なところを突いたようで横回転が入り軌道がまっすぐではない。


「あー、ちょっと面倒なところに来ちゃったなぁ」


 と言っていると隣の台から甲高い歓声が聞こえる。

 二人でなんとなしに目を向けると、カップルがプレイしているようだ。

 どうやら二連続で彼氏がポケットに的球を入れたとかで喜んでいるようだ。

 彼氏の方もまんざらではない様子で意気揚々と強く突いてしまい盛大に台の外に手球がとびだした。

 二人とも残念そうだが、それもまたどこか楽しんでいる様子だ。

 だからふと月宮に向かって話しかける。


「多分このゲームって男二人で黙々とやるもんじゃないんじゃないか?」


「だろうねぇ、このルールかなりゆるいし」


 頬をかくようなしぐさをしながら言葉を続ける。


「男が二人でやっちゃうとどうしても勝負になっちゃうよねぇ、男女でワイワイやるようなゲームだろうねぇ」


「だなぁ」


 と二人でしみじみとうなずいた。

 そこですかさず次のセリフを繰り出す。


「男女と言えばだ」


「なに?」


 強引な切り出し方なので不審そうな表情で俺を見る。

 が、好機なので無視をして続きを話す。


「陽川ついてだ」


 その名前を出されたら、月宮は明らかに表情を引き締める。

 月宮の表情をみて手ごたえを感じる。

 何かしらの思うところがあるのは確かそうだからだ。

 そんなことを思いながらビリヤードと会話の同時進行を始めた。

明日も頑張ります。

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