第五九話
できました。
「それにしてもどうやって狙撃したんだ? さすがにこの街からじゃないだろう?」
かなり離れているこの街から狙撃というのはちょっと現実的ではない気がする。
という事は空を飛んである程度近くまで来たのかとも思うが。
ガーガは驚くべきこと言った。
「いや、この街からだ」
「は? どうやって?」
疑問を口にするとガーガが説明を始めた。
「間接射撃、つまり山なりに飛んでいく弾を使用した」
「届くんだな、ここからあの街まで」
高速道路で片道数時間はかかる距離を飛んで、その上で相手に大穴を開ける威力に驚いた。
その上で針の穴を通すような精度にめまいがする。
「本当に戦闘力だけなら規格外だよなぁ」
しみじみと口に出す。
苦戦らしい苦戦と言えばヒュプノスの夢の世界での戦いぐらいだと思うが、それも本体が出てこなかっただけだった
攻撃が届く位置になったら数発で決着をつけた。
つまり今まで直接戦闘では全員圧倒してきたことになる。
ミニサイズの奴らにいつも命賭けの綱渡りをしてきた俺たちとは全然違う。
するとガーガが何かに気付いたように首をかしげながら問いかけてきた。
「どうした? アモリ?」
「いや、何でもないさ」
軽く首を振って否定する。
結局勝手に巻き込まれていることなので陽川たちに伝えるべきことではないと思うからだ。
しばらくそのまま俺をじっと見ていたが、別の話題に移った。
「そういえばこのところアモリが忙しそうだったら気づいてなかったかもしれないがユミとミフネの仲だが――」
「少しは進展したのか?」
元々ガーガから期待された働きは二人の仲を取り持つことだった。
そのことを思い出して血の気が引いてくる。
「アモリも色々あったのは理解しているからどうこう言うつもりはない、ただ気にしておいてほしいのは確かだ」
「すまん」
素直に頭を下げる。
「そこまで深く気にしなくともいいぞ、あくまで頼んだだけなんだから」
「だが……」
ガーガは一つだけため息をつき。
話題を進めることにしたようだ。
「ともかく二人の仲は変わっていない、陽川は勇気をもって一緒に出掛けることを申し出ようとしたらしいが……」
そこで一度言葉を切って首を横に振りながらため息交じりに話し始めた。
「そこでヘタレた」
「ぁー、なるほどな」
その光景が目に浮かぶようだ。
おそらく時間を虎視眈々と狙っていたのだろう。
実質は意気地がなかっただけだが。
そして結局タイミングを逃してしまったのだ。
「……それを俺に言ったってことは?」
「頼んだぞ」
「わかったよ何とかして二人で出かけるよう仕向けるよ」
その言葉を聞いてガーガはしきりにうなずいている。
二人には悪いが半ば騙すような形になるとは思う。
頭の中で計画を煮詰めながらガーガに問いかける。
「それで他には何かあるか?」
「いや……調査したこと、学校の資料も含めてもらったから大丈夫だ」
といってSDカードを羽毛の中に突っ込んだ。
はたから見ていると落っことしそうだが今まで羽毛から何かがこぼれたことはないから大丈夫だろう。
「それじゃあ、また近いうちに二人の仲を取り持つこと考えておく」
「頼んだぞ、アモリ」
と残してガーガは夜の闇に消えていった。
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「さっぱりわからん」
半ば以上強請り取ってきた資料に目を通しながら唸る。
どうせなので俺ももらってきたわけだが、中身については全然理解ができない。
確実に専門知識がないからだろう。
ただいくつかわかる。
それは日誌のような物に頻繁に出てくるとあるクラスだ。
「また事故だ」
思わず口から言葉が漏れる。
それは授業中で起きた事故の報告書だ。
この年は異様と言ってもいいほどたくさんの事故が起きている。
最初は知れこそ指を切ったとか物の間に指を挟んでしまったなどのある種かわいいものだった。
しかし時間が経つうちに過激になっていく。
転んで頭を打って手足にしびれを感じるなど段々と重傷者が増えているように見える。
「救急車の出動騒ぎもかなりあるな」
そもそも学校に救急車を呼ぶこと自体は今まで全くない。
だが呪われているのかと思うほど頻繁に呼ばれている。
「で、教師陣も原因は一人だろうと思っているけど証拠がないから何もできない、と」
そしてある日の資料がごっそり抜けている。
「この日が自殺した生徒が出たわけか……」
となると消えたはずのモノがどこかに隠されているかもしれないので探すが見当たらない。
少しだけ悩む。
がすぐに首を振る。
「いや、素人の俺が探せるわけないよな」
そう呟いてすっぱりあきらめることにする。
おそらくガーガかヒュプノスのどちらかが見つけてくれるはずだ。
そう考えて流し読みをする。
「……まぁいいか」
目が滑っているのが理解できたので眠ることにする。
ふと気づくともうかなり遅い時間だ。
「そろそろ寝よう」
そう呟いて頭の中で陽川と月宮の事を考える。
なんだかんだで二人だけで話しを行うことはほぼないが、親しくはあると思う。
なのでわざわざ肩ひじ張って作戦を考えるより、ただ友人として二人と出かけたい。
そんなことを考えながら段々意識が闇にのまれていった。
明日も頑張ります。