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第五四話

できました。

「あれ、なんだよ」


 ボソリとそんな感想を漏らす。

 天を突くほどではないが、高層ビルのように巨大な壺が唐突に街に現れている。

 無地だが素焼きではなく金属じみた光沢を放っている。


「今のところは攻撃を仕掛けてくる様子はないですし無視していい気がしますねぇ」


「できればとっとと逃げたいな」


 と言いながら手にしている骨壺を見る。

 見た目はこれと言っておかしなところのない代物だ。

 しかしこれがおそらく起点になっているのだろう。

 そこまでわかってはいるがため息をつく。


「それにしてもこういう物じゃなかったらもっと簡単に処分できたんだろうな」


「そうでしょうけど嘆いても意味がないですし急ぎますよ」


 と言って近くに止めた車に急ぐ。

 すると重く低い音が聞こえてくる。

 音の出どころを探すと、予想通りに巨大な壺からだ。


「あらら蓋が開き始めてますね」


「嫌な予感しかしないな」


「奇遇ですねぇ、私もですよ」


 と言ったと同時に急いで車に乗り込みエンジンを始動させる。

 開いた蓋から粉っぽい煙が立ち上がる。

 そこまで見てようやく気付く。


「アレ、骨壺か!?」


 今俺の手元にある骨壺からああいう感じの人影が立ちのぼっていた。


「デザインも大きさもが全然違いますけど、その可能性は低くはないですね」


 立ちのぼった煙らしきものは大まかな人型になってこちらに向かってくる。

 それはあっさり車の前に回り込んでくる。


「はやい!?」


「舌噛まないようにして下さいね」


 そんな軽い忠告と共にヒュプノスは俺の手を取って走行中の車の中から飛び降りた。

 外に出た瞬間真正面からぶつかってくる風により思わず目を伏せる。

 感触的にはどうやらヒュプノスに抱き上げられているらしい。


「お、とと」


 と軽い掛け声と共に靴音がしばらく響く。

 そして地面におろされる。

 ようやく目を開けると変わり果てた車が見える。


「……前半分がズタズタになってるんだが」


「おそらく粉で削ったんだと思います」


 それを成した奴はゆらゆらとあたりを見回している。

 そこまで離れていないのに見失ったようだ。


「なんでアイツは俺たちに飛び掛かってこないんだ」


「いま触覚をいじってますからね、賭けでしたがうまくいきましたねぇ」


 こういう能力があることで何度も命拾いをしている。

 としみじみと思う。


「それでも時間稼ぎにしかならないかもしれません」


「だな、今のうちに目的地に行こうか」


 そう話してゆっくりと移動し始めた。


=====


「俺の気のせいじゃないならあの大きな壺に向かって進んでいるようなんだが?」


「気のせいも何も、おそらく墓地に陣取っているので向かっていますねぇ」


 一瞬足を止めて考え込む。

 しかし向かう以外に方法はないのでやや速足でついて行く。


「納めたら何とかできると思うか? 正直なところほかに手はないけど怪しいと思う」


 率直な意見をヒュプノスに向けてぶつける。

 それには小さくヒュプノスもため息をつく。


「正直なところずっとあの家に置いておくわけにもいかないですからね。納めても何も起きなかったら、全力で逃げます」


 薄く笑みを浮かべて言葉の続きを話す。


「幸いさっきまでのように閉じ込められているわけではないので逃げるのは難しくないですしねぇ」


 そんな雑談をしながら、周りの警戒をしながら近づいてゆく。

 車に襲いかかってきたあの存在もだんだん増えている気がする。

 そこで気になっていたことをヒュプノスに質問する。


「これさすがに直接触れたらばれるよな?」


「その可能性はありますが、中身は車をすり潰すので関係ないと思いますよ?」


「ああ、そうか結局触れたら大けが負うから関係ないのか」


 納得する。

 が同時に震えあがる。

 この調子で増えて行ったら身動きが取れなくなるかもしれないからだ。


「さて、どうする?」


「まぁ、待っていれば何とかなる可能性は高いと思いますよぉ」


「なんでだ?」


 そんな疑問をヒュプノスはクスクスと笑いながら答える。


「陽川ちゃん――いいえ、ガーガがこの状況に気付かないと思いますか?」


「なるほどな、いつかは陽川が飛んできて丸ごと吹き飛ばすのか」


 となると一つの疑問が浮かぶ。

 いつか解決するならそもそも危険を冒す必要がないという事だ。

 最後の幕引きをしたい気持ちはあるが、それも命があることが大前提だ。


「じゃあなんでわざわざこんなことをしてるんだ?」


「中心は結局その骨壺です、つまりあの大きな壺を破壊しても一時しのぎになるだけです」


「なるほどな、でもガーガに任せてもいいんじゃ?」


 その言葉に対してヒュプノスは首を横に振って否定する。


「あの家の写真を下手したら陽川ちゃんもみてしまいますよ?」


「……あんまりいい気分はしないどころか絶対気にしだすな、確かに非効率的だけど納得した」


 陽川はまっすぐな奴だ。

 俺も写真を見たわけじゃないが、それでなくても随所に残る虐待の痕跡を見たら絶対気にするだろう。


「よし、じゃあ裏方役の俺たちはさっさとおさめに行くか」


「その意気ですよ」


 と言っても方法が隙を見て進むしかない。

 だがその方法だと時間がかかる。

 そこで粉々にされた車の事を思い出す。

 車は風邪で引き裂かれたというよりも、やすりのような物で削られていったような跡だった。


「……風に含まれている粒子で削られていったんだよな」


「なにか考えでも? 最悪わたしがダッシュすれば大けが位で何とかできそうですけど」


「まぁ、賭けみたいなものだけどな」


 そうしてある物を探すためにあたりを見回した。

明日も頑張ります。

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