第五三話
できました。
「本当にここか?」
半信半疑で部屋から出て二階へ向かう。
そしてなんと向かった場所は階段そのものだ。
続いて踏板に手を当てると、ふたを開けた。
「ここが収納スペースだったんだ」
「たまにこういうスペースを持っているところがあるので気にはなってました」
「この家の階段ぱっと見は収納スペースだと気づかないように作られてますからねぇ」
次々開けて目的のブツを探しているようだ。
「何を探しているんだ?」
「本体……というか、有りましたね」
そう言って取り出したのは握りこぶし二つ分ほど大きさの箱らしきものだ。
金糸で刺繍された紫の布が張られている。
それの口は紐でとじられている様子だ。
見たことのない物を疑問に思って聞き返す。
「なんなんだ? それ?」
「骨壺です」
「……まさか中に入ってるのは、父親か?」
それにはヒュプノスは答えず曖昧な笑みを浮かべる。
しかし否定はしていない。
という事は懸念通りという事だろう。
「俺跨いでいたんだけど」
「こればかりはまず罰当たりなことをした木下ちゃんの母親へ文句を言ってください」
ここで深呼吸をして気分を落ち着ける。
閉じ込めた張本人だし、敵対している相手だ。
しかしというわけではないが、生きている相手をまたぐよりも申し訳ない気持ちが湧いてくる。
「あとはこの骨壺を適切に処理すれば終了ですね」
「……どうするんだ? まさか燃やすなんてことはないよな?」
おれの言葉にヒュプノスは苦笑する。
「さすがにそれはないですよ、お墓に納めに行きます」
「家から出ることができないのにか?」
そこまで言ってヒュプノスがようやく何かに気付いたようだ。
その後軽く苦笑して話始める。
「出ることはできますよ、結局この家を閉鎖しておく理由はもう見つけたんですよぇ。」
「骨壺じゃないのか?」
その言葉にヒュプノスはゆっくり首を振り否定する。
じゃあ何が?
と思っているとちょうど骨壺が置かれていた場所に無地のDVDが置かれてあった。
それを拾い上げて観察するがどこにでもあるような物でおかしなものである気がしない。
という事は中身が大切なモノである可能性が高い。
「っ!?」
そこまで考えて思わず取り落とす。
つまり秘蔵映像だ。
「あまり乱暴に使わないでくださいね、最終的には破壊しますがここだと少し分が悪いので」
「わかった」
嫌な予感がするがそれでも必要なことだと考えてDVDを拾い上げる。
「で、このDVDをどうするんだ?」
「さっき言ったでしょう? 壊すんですよこの骨壺の前で」
「本当にそれでうまくいくか?」
俺の言葉にクスクスと笑って返してくる。
「やってみなければ、というよりもこれくらいしかないですよ」
「わかった」
と渋々に近い形で納得してヒュプノスの後について行った。
=====
「よし、ここでいいですね」
「ここ、でいいのか?」
場所は二階にあった一室、写真やらが保管されていた部屋だ。
そこの床に骨壺を置き、ヒュプノスの背に隠れる。
「さて、感覚をいじっているのはそろそろやめますね、十分気を付けてくださいね」
「ああ」
力強くうなずいた。
ヒュプノスは右手に階段で――父親の骨壺の脇に置いてあったDVDを持っている。
カウントダウンをおこない、ゼロと同時に骨壺が震える。
同時に何かがとびらから飛び込んでくる物が見える。
「残念でしたね」
ヒュプノスに向かったのは刃物の類だ。
ある物は避けて、又ある物は叩き落している、
らちが明かなくなったのか骨壺が近づいてくきてくる。
「ここですねぇ」
そんな気の抜ける音共に手にしたDVD――父親の秘蔵DVDで刃物を受けて。
「!?」
真っ二つに割れた。
骨壺から何か粉っぽい人影があふれ出してゆく。
そいつに対してヒュプノスは二枚とも投げつける。
「パニックになっているうちにいきますよ」
手を伸ばし割れたDVDを回収しようとしてる人影にヒュプノスはまず一撃与えた。
与えた方法はアルバムで殴ることだ。
まさかそんな方法で抵抗してくると思わなかったのか急いで骨壺に戻っていった。
両手に割れたDVDをいまだに持っていのはある種感心した。
その後閉じられた骨壺をひもで固定した。
「これで出てくることはないですねぇ」
「でも生きてるんだろ? 危なくないか?」
その質問に対してヒュプノスが答える。
「その前に外に出るから大丈夫ですよぉ」
と言って二階の窓に手を当てる。
その姿勢は少しいやな予感がする。
「よいしょ」
軽い掛け声と共に二階の窓ガラスは割られた。
おそらく閉じ込めていた奴にダメージが入ったので余計なことに力を割いていられないのだろう。
「……さすがにちょっと予想外でしたね」
「なにが……」
ヒュプノスについて窓の外を見るととんでもない物が見えた。
「何だあの大きな壺!?」
窓の外、街の中心部方面にビルよりも巨大な壺が見える。
「これはちょっとばかり甘く見ていたかもしれませんねぇ」
とヒュプノスはポツリと漏らしていた。
「……勘弁してくれよ」
次から次へと物事が起きるせいで、俺の口からはそんな何のひねりもない愚痴が漏れた。
明日も頑張ります。