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第五一話

できました。

「……二か所にいる、なかなか厄介ですねぇ」


 俺の報告を聞いたヒュプノスが悩ましげな表情でつぶやく。

 ここで思いついた解決策を話す。


「二体同時に何とかできるならもしかしたら……」


 俺のその言葉にヒュプノスは首を振って否定する。

 なにか確証があるらしい。

 そう思ってヒュプノスの言葉を待つ。


「大谷君には殺せないでしょう?」


「そんなことは――」


「さっきも何とかすると言葉を濁しましたよね」


「ぅ」


 図星を突かれて言葉に詰まる。

 いざとなったらと思うが確信はないので言葉に詰まる。


「まぁ、ウーラヌスにとどめを刺した注水は大谷君がしたことなので今さらですけどね」


「う……」


 直接手を下した感覚が薄いので目をそらしていたが、そういう意味では俺はもう一人殺しているのだ。

 胸の奥にズシリとくるものを感じていると、ヒュプノスが苦笑する。


「向こうが襲ってきた形なんですからあまり気にするのはいかがなものかと思いますよ」


「……」


 そんなフォローを受けるが殺害の片棒をかついでしまったのは確かなのだ。

 気が重くなるのは止められない。


「ともかくこの家から出る手段ですがよーく考えればわかると思いますよ」


 ヒュプノスのそんな言葉が聞こえて頭を切りかえる。

 そうだ、今はとにかくここから脱出する方法を探す方が大切だ。

 やらかしてしまったことにずっと気を取られていたら危険だ。


「……思いつくのはやっぱり見つけた二つの人影を何とかする事」


 だけどどこか違和感を感じる。

 喉の奥に引っかかった小骨のような違和感。

 どこかがおかしいと感じている。


「本当にそうか?」


 拭いきれない疑問を口に出す。

 つきまとっている違和感の正体を考える。


「そもそもあの存在は普通に考えれば監禁されていた木下の関係だろう」


「その可能性は高いですね」


 ヒュプノスも同意する。

 確実にあっているかどうかはわからないがそれでも同意が来るのは自信が付く。

 なので次の考えに移行する。


「そもそも襲ってきた理由ってなんだ?」


 そこが問題だ。

 この手のホラー物だと家を荒らされたくなくて襲ったり、ただ妬ましくて襲うことがある。

 後者の場合はお手上げだが、前者であるなら話は違う。


「もしかして閉じ込めていたり、襲ってきている存在は別にいるんじゃないか?」


「ほなぜそう思うんですかぁ?」


 そのヒュプノスの返答からさらに頭の中を整理しながら話す。

 まず前提条件からだ。


「この家に住んでいた人間は三人木下とその両親だ」


「そうですね、居候が居たという話も聞かなかったですしね」


 そのセリフに軽くうなずいながら話す。

 そしてその中で死んでいるのは二人だ。


「死んでいるのは二人で両親、木下は生きている」


 そうなると不思議なのが二つの人影だ。

 基本的に心霊現象は死んだ人間が残した未練などが必要になる。

 そこまで話してさらに続ける。


「なら逆に言えばあの人影に木下はかかわっていないんじゃないか?」


「生霊という可能性もありますよ」


 その言葉には素直にうなずく。

 実際これは心霊現象じみた出来事だが全く違う力が働いている。

 だけど筋のような物が通るかどうかは話は別だ。


「だとしても木下に俺たちを殺しに来る理由はないんだ」


「それはなぜですか? あの場に関係するのは木下ちゃんが一番関係が深いでしょう?」


 その疑問は真っ当だがそうするとある種の違和感が発生する。

 木下はかつて自室と風呂場に監禁されるなどの虐待を受けている。

 だとすれば殺意を向けるとすれば外から来た人間ではない。


「殺意を向けるなら両親だ、そして外から来る人間にはむしろ助けを求めるんじゃないか?」


「共依存の関係だったのかもしれませんよ」


 うすぼんやりと聞いたことがあるから何となくはわかる。

 虐待する人間と虐待される人間がいたとして、虐待される人間が虐待されることに価値を見出すことがあるらしい。

 その可能性は零ではない。

 だけどそうなると待機場所がかなり不自然だ。


「木下の物と思われる人影は()()()()()()()()()()()、つまり閉じ込められた存在で、誰かが隠そうとしたと考えた方が筋が通らないか?」


「なるほど、能動的に動いた存在がいるはずだという事ですかぁ?」


 頷く。

 違和感はそこだった。

 あの人影は積極的にあそこに入っていた感じはしなかった。

 閉じ込めた存在が居るはずなのだ。


「そしてその閉じ込めた存在は俺たちを襲う明確な理由がある」


「……虐待の隠ぺいですね」


 頷く。

 物的証拠が残っているので人を入らせたくないという行動は非常にわかりやすい。

 殺すことはできなくても閉じ込め続ければそれで証拠が外に出ることはない。


「つまり俺たち二人を殺しに来て閉じ込めているのは、木下の両親だ」


「正確に言えば父親の方でしょうね、母親の方はこの間死んだばかりですから」


 そのヒュプノスの意見に同意する。

 つまりここから脱出するには木下の父親だった存在を何とかしないといけない。


「まぁ父親に関わる存在だろうが、本当に木下の父親と言っていいかはわからないけどな」


「ですねぇ、どちらにしろ大きな手掛かりだと思いますよ」


 そう言ってヒュプノスはどこかに向かって歩き始める。

 慌ててその後を追いかけながら話しかける。


「なぁ、どこに行くんだ?」


「ふっふっふ、先ほど大谷君が言った違和感、アレが大きな手掛かりですよ」


「は? そんなに重要なこと言ったのか?」


 首をひねる俺を楽しそうな表情でヒュプノスは見た。

 そんなヒュプノスを首をかしげながら追いかけていった。

明日も頑張ります。

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