第四八話
できました。
結論から言えばほぼ空振りだった。
だが一つ分かったことがある。
同級生だった人間は同級生だった人間はほぼ全員県外へと進学や就職していたことだった。
「正直、意外だったここまでまったくいないなんて」
「追いかけることはできますが、今日話を聞きに行くという事は無理ですねぇ、さすがに」
甘く見ていたのは確かだが今のところ写真の一枚も手に入れることができていないというのは予想外だ。
最後の望みで住んでいた家に向かう。
そこは少々痛みが見えるがまだ人が住めそうな家だった。
インターホンに電気は来ていないようで無音だ。
玄関に手をかけると――
「開いてる……」
ノブは回り、すこし抵抗はあるがそのまま押し開けることができた。
するとヒュプノスが俺の肩に手を置いた。
「ちょっと見とがめられないようにこのあたりの聴覚をいじりますね」
そしてそのまま中に俺を連れ込んでいった。
見た目はごく普通の住宅で玄関の登りあり即廊下になっている。
右手側に扉が二つ並んでいる、少し進んだところに左の壁に階段の登り口が見える。
まっすぐすむとリビングらしき部屋が見える。
「どうしますか?」
「……これ不法侵入だよな?」
俺のその言葉をヒュプノスは笑顔で黙殺した。
土足のままヒュプノスは中に入る。
「どうせばれませんから」
「いや、そういう問題じゃないだろう」
「それに、ここはかなり危険ですよ」
「は?」
思わずそんな間抜けな声が出る。
と――
「こんな感じですね」
ヒュプノスが腕を振るうすると何かが弾かれる音が聞こえる。
弾かれた物はフォークだ。
同時に日でも陰ってきたかのように色彩が抜け落ちてゆく。
「!?」
予想外の出来事に絶句し、辺りを見回す。
本能的な危機感を覚えたので外に出ようとするが――
「開かないな、鍵をかけた覚えもないのに」
「逃がすつもりはないという事でしょうねぇ」
相変わらずの口調でまっすぐ家の中にヒュプノスは進んでいく。
慌てて俺もその後に続く。
「見ているわけじゃないですねぇ」
飛んでくる包丁をつかんで返す刀で皿を迎撃する。
見える範囲に怪しいやつはいない割れた破片がまっすぐ飛んできた。
「伏せて」
ヒュプノスの指示に従い倒れるようにして伏せる。
頭の上を皿の破片が飛んで行った。
「うーん、そこまで自由に動かせるわけではなさそうですねぇ」
考察をするようにつぶやいている。
「ああ、どちらかというと発射するような感じだな」
自由に動かせるなら俺の頭上で真下に方向転換していただろう。
そして発射できるのは普通に家に存在するものだ。
「となると――」
リビングから鉄くしが複数本飛んでくる。
同時に脇の扉から何かの液体がばら撒かれる。
「洗剤かコレ」
ぬるりと滑る物だ。
よほどバランス感覚がよくないと転んでしまう。
続いて円筒状の物――スプレー缶が飛んでくる瓶に一直線に向かう。
「まずい!!」
スプレー缶は高圧の気体が充填されており、そこに穴が開いたら――
「爆発するぞ!!」
ヒュプノスの手を逃れ、スプレー缶に鉄くしが突き刺さり破裂した。
その一瞬手前ヒュプノスは俺に覆いかぶさった。
「が!!」
腹の底まで震えるような衝撃を感じる。
続いてヒュプノスは――
「洗剤がまかれたのはラッキーでしたねぇ」
と言って俺をけ飛ばすようにしてその場から離した。
滑りやすくなった床は俺を玄関すぐ手前まで滑ることができた。
「な!? ヒュプノス!?」
「何とかからくりを見抜いてください、頼みましたよぉ」
背中側がスプレー缶の破片でズタズタになり血だらけになっているヒュプノスは立ち上がる。
声こそ普段通りだが、フラフラのその立ち方は見るからにダメージが積み重なっている。
「わかった」
頷く。
この様子だとヒュプノスの次は俺が狙われる。
狙う方法は視覚はおそらく違うだろう。
見えている範囲におかしな人影やらはない。
そしていま尻もちをつくような体勢で無防備な俺に追撃も行われていない。
感知するには何らかの条件が必要なのだ。
「聴覚は変わらず誤魔化しているか!?」
「えぇ」
連射されるガラスの器を砕かないように受け止めながらヒュプノスはうなずく。
ならあとは二つ。
嗅覚と触覚だ。
だから即ヒュプノスに伝える。
「触覚だ!! おそらくどこに立っているかを見ていると思う、転んでいた時重さが広い場所に分散されたから感じ取れなかったんだと思う」
「なるほど」
ヒュプノスがうなずいた瞬間軌道がそれた。
いる場所を誤解させてるらしい。
「とりあえず離れます」
と言って上半身をかがめて玄関まで戻ってきた。
一応扉を確認するがやっぱり開かない。
ヒュプノスに向かって首を振る。
すると難しい顔をしている。
「まずいですね、正直ちょっと休んでいたいんですよねぇ」
「……俺が一旦中を見回ってくるとか」
数呼吸だけヒュプノスは悩んでいる。
が、結局うなずいた。
「直接目視されても狙われる可能性はありますから気を付けて」
「わかった」
軽くうなずいて家の中に入る。
怪しいのは二階だ。
というのも向かう手段が階段しかないので階段にわなを仕掛けておけばいい。
だがヒュプノスの顔色を見るとそこまで余裕があるように見えない。
「よし、二階を見てくる、その間少しでも休んでいてほしい」
「はいはーい、お願います」
扉に体重を預けるようにしてヒュプノスは座り込んだ。
感覚をごまかすのが途切れたらおそらく襲われるが、それ以外に道はないので覚悟を決めて階段に向かった。
明日も頑張ります。